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【まちカドまぞく】反出生主義から見る那由多誰何の話【最新話ネタバレあり】

はじめに

休載が多いくらいしか目立った問題のない、世界一面白い漫画こと『まちカドまぞく』(独自研究)(いづも先生には体調に気をつけて無理なく連載していただきたいものです)
最初からずっと面白かった今作ですが、やはり、さらにギアが上がったのは6巻にて那由多誰何が登場してからでしょう。
ラスボス候補、ジャンルが違う女、魔法少女は魔法少女でもまどかマギカや魔法少女育成計画だった、きらら4コマじゃなくてチェンソーマンとかメイドインアビスとかに出てきそう、そんなヤバい女です。

那由多誰何氏の初登場シーン。可愛い。(まちカドまぞく6巻94Pより)

那由多誰何の思想

そんな那由多誰何の思想は、一言でいうと『”かわいそう”の根絶』にあります。

(まちカドまぞく6巻105Pより)
(まちカドまぞく6巻106Pより)

要するに那由多誰何は魔法少女が魔族を狩ったときにもらえるポイントを片っ端から手に入れて、上記のように『この世に感情がなかった頃まで世界を巻き戻す』、『具体的には原始海洋くらいの頃まで』と言っているわけです。
私はその話を聞いたとき、こう思いました。

……めっちゃ正論じゃん、と。

那由多誰何の言いたいことはすごく分かります。
悲しみが生まれる前に世界を戻したい。分かります。私だって出来るなら悲しみが生まれる前の原初の混沌に世界を戻したいです。
なんなら私がこの作品で一番共感できるキャラは(どころかきららキャラ全体で見ても)、那由多誰何と言って過言じゃないでしょう(まあ自分はまぞくは箱推しなんですけどね)(シャミ桃があらゆる創作物で一番の推しカプなんですけどね)。

那由多誰何の思想=反出生主義?

那由多誰何の思想が明らかになったときに、一番最初に連想したのはいわゆる『反出生主義』でした。
反出生主義ってなんやねんと言うと、ウィキペディア大先生曰く、

>反出生主義(はんしゅっしょうしゅぎ、はんしゅっせいしゅぎ)またはアンチナタリズム(英: antinatalism)は、生殖を非倫理的と位置づける見解

とのことです。

まあざっくり言うと、生命って生まれてこないほうが良くない? 生まれたって不幸なことだらけじゃん? という思想ですね。まあこの辺は色々な細かい派生があるのですが、今回はこの理解で大丈夫です。

アルトゥル・ショーペンハウアー、エミール・シオラン、デイヴィッド・ベネター(個人的には輪廻転生を否定して解脱することを理想として語ったブッダなんかも)などの哲学者が提唱した思想です。
インターネットの有名人だとダ・ヴィンチ・恐山(品田遊)も反出生主義思想の持ち主で、こんな本を出してたりします。これはかなり分かりやすいし読みやすいので是非初心者にオススメです。

さて、翻って那由多誰何の思想ですが、

『食べる人がいれば食べられる人がいる』
『人だけじゃない 素敵な出会いがあれば悲しい別れがある 始まりがあれば終わりがある』
『ぐるぐるぐるぐる ずっと同じことの繰り返し』
『一か所の不幸を止めるだけじゃだめなんだよ だから』
『この世に感情がなかった頃まで世界を巻き戻したい』
『……具体的には原始海洋って知ってるかな? あそこまで』
といった具合です。(上述のコマの文字起こし)

……思った以上にまんまですね。
厳密には、生まれてこないほうがいいと言うより、生まれてくる(感情を持った存在が生まれてくる)前に戻す、といった感じですが。
少なくとも自分は、これを反出生主義的な思想だと解釈しました。
那由多誰何的には、生まれることは苦痛で、感情を持つことは苦痛で、だからこそ世界を感情がなかった頃、原始海洋の頃まで戻したいと考えているのです。

まちカドまぞくの世界観

まちカドまぞくの世界では、多魔市の外は地獄が広がっています。幼少期の桃を始めとして魔法少女が兵器利用され、作中現在も多くの”かわいそう”が量産されているに違いないでしょう。

現実もそうです。世界は基本的に運良く地獄にいないか、運悪く地獄にいるかがグラデーションを持って存在しています。そして地獄にいない人間も、いつ地獄に落とされるかはわかりません。一寸先は闇、というわけですね。
多魔市の住民も、いつ地獄に落ちるか分からないわけです。怖い。
世界というのは切り取り方で、『ご注文はうさぎですか?』の世界にも戦争はあるわけですしね。チノちゃんたちが幸せに生きていられているのだって、運の寄与が大きいわけです。

話が逸れましたが、その地獄のグラデーションを前に人々は選択を強いられるわけです。
地獄みたいな世界を少しでもいいところにしようと考える人。
まちカドまぞく作中なら、多魔市(というか、せいいき桜ヶ丘?)を作った千代田桜などが該当します。我々の世界にも当然、そういう素晴らしい人は存在しますね。世界は一気に良くなりませんが、少しずつならば、ということです。
そして、地獄を見なかったことにする人。
これは私をはじめとした凡人ですね。上記の人々の作った素晴らしい遺産を貪っているだけの、何もしない愚鈍な民ですが、私だけじゃないので安心です。
更に、地獄そのものを滅ぼそうとする人。
これが那由多誰何ですね。フィクションの世界にはこういう人はたくさんいて、自分も共感しがちです。他にはラウ・ル・クルーゼやマキマさんみたいな人ですね。

那由多誰何が反出生主義ならば、今月号(きららキャラット2024年4月号)の描写は矛盾しない?

話がだいぶ逸れていたので戻します。
那由多誰何が反出生主義ならば、今月号(きららキャラット2024年4月号)の行いは何ら矛盾しないのではないか、というのがそもそも私がしたかった話なのです。

※こっからは最新号のネタバレなので、読んでない方はブラウザバック推奨です。コミックファズに加入するときらら系列4紙が月額780円で3ヶ月前から最新号まで読めるんだぜ。そいつはすげぇや。










さて、最新号の佐田家の描写、ショッキングでしたね。
おそらく(まあほぼ確実ですが)、那由多誰何は佐田家の3きょうだいを捕食しています。
食べているのです。怖いですね。痛そうですね。めっちゃ表現が冴えわたっていて、伊藤いづも先生はやっぱりすげえとしか言いようがないです。
ですがそこで、一つの矛盾が発生することになるのです。

なぜなら、那由多誰何はこう語っているのですから。

(まちカドまぞく6巻106Pより)

誰も苦しませず? これが?????????

(きららキャラット2024年4月号119Pより)

スクショしてて怖くて泣いちゃった……じゃなくて、どう見てもこれ、苦しませてないでしょうか。
那由多誰何は倫理観の優れた、世界のために仕方無しに非道を行ってる系魔法少女ではなかったのでしょうか?
ここに、彼女が反出生主義であることが関わってくるのです。

子沢山は反出生主義的に見て最悪

そう、見出しに書いてあるとおりです。
反出生主義は子供を作ることも当然是としません。悪徳の極みです。自分のエゴのためにこの世に苦しみ悲しみを新たに生み出すことをどう肯定すればいいのでしょうか。

佐田家はこの時点で杏里を含めて4人きょうだい。那由多誰何的には地雷も地雷だったでしょう。
さらに言えば、佐田家は肉屋なのです。かわいそうだからまぞくだけを食べて、他の生き物は食べないことを信条とする那由多誰何にとっては、これもまた地雷でしょう。
子沢山も肉屋も、那由多誰何にとって単独ならば、気に入らないけど我慢できるかな、程度のものかもしれません。
ですが、気に入らない要素がふたつ混合して、そこに攻撃できる大義名分が発生したら?

那由多誰何とて聖人ではありません。時には公私混同してしまうこともあるのかも? というわけですね。少なくとも、精肉機からきこきこ出てくるのは何らかの恨みがないと行わない所業じゃないでしょうか(まあこれでも、痛みが発生していない可能性はありますが)。
さらに深読みすると、このコマの「かわいそう」はきょうだいの親に対する呪詛なのかもしれません。
『(無計画にこの世に生み出されて)かわいそう』ということですね。

那由多誰何も自分と同じで大家族特集みたいなのをテレビで見かけたら苦虫を噛み潰したかのような顔をしてると思うと親しみが持てます。
どうして那由多誰何の話をしてるのに自分語りになってしまうのか、これがわかりません。

最後に

いかがだったでしょうか。
誰も那由多誰何と反出生主義について真面目に語りそうにないので書いてみましたが、皆さんの那由多誰何への理解を少しでも深めることが出来たならば幸いです。
あるいは、世の中には那由多誰何に感情移入しながらまちカドまぞくを読む人間もいるんだ、ということを知ってくれたら幸いです。

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