ヒゲさん(長谷川孝一さん)が語る(3)〜時代を先取り? ちょっと早かった?

改めてふり返ると、Be-Nature Schoolは、まぁ、ちょっと早すぎたかな。今のほうが時代にフィットしてるんじゃない?

例えば「清里ミーティング」っていう環境教育の全国ミーティングなんかは、Be-Nature Schoolが始まる10年ぐらい前からやってて、世の中的に自然体験や環境教育が大事だよねっていう人は当時から何人もいたわけです。ワークショップという方法論があるようだ、試してみよう、などと話し合われていた時分だった。

でも、Be-Nature Schoolでやろうとしていたのは、ある意味でそういうのを飛び越えちゃっていたかなぁ、と。時代が変わろうとしていたときに、それまで少しずつ違う文化に属していた人たちが集まって、次の時代に向かって新しい動きをつくろうとした―Be-Nature Schoolのスタートは、そういうことだったんじゃないかと思う。だから、コンセプトをつくるのに1年半もかかったのは、当然だったのかもしれない。そんな背景もあるわけだから。

言い方を変えると、Be-Nature Schoolって参加型学習でしょ? 理屈じゃなくて自分で経験してみて、それを通して自分や世界を見渡してみると、どう観えるのだろう?という。今はたいして珍しくないけど、大人を対象にした参加型の学び直しの場なんて、そんなもの当時は世の中になかったよ。

なので、Be-Nature Schoolのコンセプトも言葉だけで伝えるのは難しくて、でもなんとか伝えないと開校できない。それで「自然の心にふれて自然な自分に出会う」なんて聞いたことのないヘンテコなフレーズを思いついた。私たちとしては、考えに考えた末に「この辺だろうな」って落ち着いたのがこの言葉。当時はそういうふうに表現された言葉は、特に国内にはなかったんじゃないかな。

今では、「自分らしい」とか「ナチュラルな」など、けっこう自然に言うようになった。でも今だって、このフレーズは何となく遠回しな表現だなって思うじゃない。でもみんなは、今はどう思っているかわからないけれど、私は今でもこれしかないな(笑)。

あの1年半のプロセスは、今ふり返ってもホントに思い入れが深いし、根本になる考えに行き着くという醍醐味があった。その考えをもとにプログラムがまわってて、それに反応してくれた人たちが参加してくれて。そんなに人数多くなかったけれど、来続けてくれる人がいるっていうことがやっぱ大事なことだと、森くんたちも運営で頑張ってくれた。Be-Nature Schoolが提供するものを必要とする人が、この時代の中でいるんだなっていうふうに実感したことが、Be-Nature Schoolを離れた後も、自分の仕事の核になり続けているんだ。

人は、心の奥底にある「本当はこうしたい」とか「こうあるべきだ」とかって、言葉にできなかったり生活レベルで実現できないから迷ったりモヤモヤしてるわけじゃない? だから、自分の揺るがない立脚点を見つけて、そこから物事を見、考えることが大事。

自分はそれをあの1年半で確信しました。かかわったみなさんにも、自分にとって大事なものをつかめる人間になってほしい。自分としては一生懸命やらせてもらったよね。結構ハチャメチャなとこもあって、すべて上手にできたわけじゃないと思うけど。

20周年っていう節目はもちろん大事なんだけど、単に20年やってきたってことじゃなくて、こう、大事なことをみんなで見つけたって経験に意味があるって思ってる。それぞれが感じてたことは同じじゃないかもしれないけど、あの経験って何だったんだろうっていうのは、ちゃんと残しておく必要があるかと思って、こうやって話を聞きに来てもらいました。

経験した人たちは、その仕事の責任においてもそれを書き残しておく意味がある。今後、経験してない人へ、何かを伝えられる形で残す。受け取った人が何かを感じてくれる事実があったからこそ、これを何らかの形で残す意味があるんじゃないでしょうか。今日は本当にありがとう。

(聞き書き・鈴木慈子、構成/編集・小島和子)

*以上3回をもって、ヒゲさん(長谷川孝一さん)のシリーズは終了です。
原稿確認のお願いをした際に、ヒゲさんから以下のコメントいただきました。

“最近、カウンセリングやコーチングが流行っている。共通するコンセプトを簡単に表現すると、「何物にもとらわれない自分になって、自分らしさや、もともと持っている力を存分に発揮し、人生をいきいきとして生きよう!」。これは、ここで語られていること、そのもののように思われる。ようやく時代が追いついてきた感あり”