★コラム「大物政治家の情報力と勉強力」

★コラム「大物政治家の情報力と勉強力」

勉強力といった点では、田中角栄首相が思い浮かぶ。
毎日、主要な新聞6紙は欠かさず読んだ。
こんなに沢山の情報が掲載されていて、1紙数千円というのは安い、
と言いながらきちんとチェックしていた。

角栄は新聞について、
「新聞は安い。決断は情報によって下せる」
といっている。
また角栄の秘書である早坂茂三もこう証言している。
「あの人ほど、丹念に新聞を見る人もいない」

官僚や業界から上がってくる資料や手紙も大量に読んでいた。


夜中、秘密の勉強タイムがあった。
国土地理院の日本地図と国会便覧を精読するのだ。
その2つを使って全国の選挙区をチェックして、情報を覚えていくのだ。
地図を制するものは選挙を制するを実践していた。
角栄版の地政学ともいえる。

選挙関連の情報は、選挙区、得票数、名前などを赤鉛筆で詳しくチェックしていた。
角栄は、議員たちに地元の地理と歴史、歩くことの大切さを以下のように語っている。


「衆議院の選挙区すべての実態を知ってなきゃだめだ。
これはやっぱり自分でそこへ行って、少なくともその県が何市何郡だぐらいはわかってなかくちゃ。
加えて府県の歴史というものを知らなきゃだめ」

「まずは世界を知り、日本を知ることだ。
そのためにはうんと旅行をしてくるがいい。
それが終わったら、次は地元だ。
選挙区のどこの神社は階段が何段あるかまで、一木一草を知らねばならない。
選挙区の人間をとことん知らねばならない」

「政治家でも講談本を読んでいない奴はダメだな。
その土地の歴史、神話はどういう経緯でできたか。
そういうことを知らぬ奴は選挙には勝てない。
講談本はそれを教えている」

実際、角栄の頭脳には、全国の選挙区事情と地図に関する情報が入力されており、またすぐ出力できた。


角栄の膨大な資料読みと歩くというフィールドワークによる情報収集力は、
民俗学者の宮本常一や満鉄調査部、藤巻幸夫の手法に通じるところがある。

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