映画制作日誌(撮影期間編・美術監修)|いまさりぎわ
映画制作日誌(撮影期間編)第5段は、美術監修/作品提供 九賀逸句です。
これまで彼はnote未投稿でしたが、他メンバーの撮影期間編日誌に触発されて、文章を送ってくれました。_________________________________________
「言葉が無ければ、分かり合えたのかも」
と、思うことがよくあります。
この映画の登場人物達も、きっとそう。
「ああ、絵になりたいなぁ」
〜 暗転 〜
かれこれ、僕はもう22歳。
1年後、22歳はもう1年前。
どうでもいい風が、強く吹いた。
ふとした拍子に、高校時代の友人である亀井(仮名)を思い出す。面倒臭がりの究極系で、それ故とにかく要領が良く。
何事においても、最小の努力で平均点やや上を安定して取るような奴だった。
亀井は何事においても冷めていた。
彼が打ち込んでいた唯一の趣味といえば、パソコンでイラストを描くこと。
亀井のイラストには一切の妥協が無く、全ての人物や背景から作者の愛情を感じた。
「亀井はいつから、絵を描くのが好きだったの?」
しかし亀井は言うのだった。
「今も昔も、別に好きじゃない。好きでやってる奴には限界がある。好きじゃなくなったら辞めるから。好きな物ってのは、やらなきゃいけない物のために我慢しなきゃいけない」
「............」
〜 勘弁 〜
「あのー、すいません、それ、描いて何がしたかったんすかね? あ、いや、その、ごめんなさい」
亀井から、液笑顔を搾り取る。
窓の外には、どうでもいい夕日。
「カット」
寺尾都麦の声が、街の雑踏に逆巻いた。
僕はただ知ってる。
考えても仕方の無いことを、ただ知ってる。
ただ知っているなんてしんどい。
だから考えて誤魔化す。
「お願いします、1枚だけでいいんです」
うん、僕らは、1枚だけでいい。
いつか最後の1枚を描き終える時が来るなら、それはきっと、最初の1枚が完成する時だ。
〜 暗転 〜
「九賀、お前、たかが1枚に命削ってんなら、せっかくだから」
「刺さるまで尖れよ」
誰のものかも分からない、声。
聴こえたのか、或いは発したのか。
いつか、どうでもよくても決まってしまう、生きる意味と共に。
無音が騒がしい夜、僕はF80に筆を走らせるのであった。
2022.11.11 九賀逸句
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