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【危機管理広報】12/10の日大記者会見の検証ポイント

すでに10日以上経過していますが、12/10に日大の記者会見がありました。前理事長の田中英壽容疑者が所得税法違反の疑いで逮捕、また側近で理事だった井ノ口忠男被告が付属病院の事業をめぐって大学からあわせて4億円余りを流出させた背任の罪で逮捕・起訴されたことを受けての初めての記者会見。

説明と質疑応答を合わせてトータル約2時間20分に及ぶ長い記者会見の映像を、アップされているYouTubeで見ました。下記はTBSニュース。

まず冒頭の日大側の説明について。
加藤直人理事長からの約30分にわたる説明がありました。

最初に評価点は、「最初に重要なことを3つ伝えます」との前置きで
(1)田中前理事長と永久に決別
(2)問題となった事業部の清算
(3)外部の有識者による再生会議
の3点を述べていました。これは「重要なことから述べる」「結論から先に述べる」観点で良かったと思います。

次に課題点。これはたくさんあるのですが、いくつかのポイントにしぼって指摘します。これは大学など組織のクライシス・コミュニケーション(危機管理広報)の観点からの準備や運営にかかる内容なので、質疑応答での発言内容等の検証が中心となるメディア報道にはあまり出てこないように思います。

(1)は説明方法。加藤理事長は30分にわたりほぼ下を向いて資料を読み上げていました。
私は不思議で仕方ないのですが、以下が基本的な疑問です。

「何故説明のポイントや時系列の経緯など、パワーポイント等をスクリーンに投影して話さないのだろう」という点。

30分細かい内容も含めて下を向いて話されても、中身が頭にはいってきません。YouTubeで視聴していてもつらい!
説明の中で「危機対策本部」の設置の話がありました。例えば「危機対策本部」の会議の様子などの写真を1枚見せるだけでも、より具体的に伝えることが可能です。実際の写真や説明図などのビジュアル要素を使うという発想がまったく無かったのは、芸術学部や危機管理学部のある大学としてまったくお粗末です。そういう学部の教授や学生に協力してもらい、記者会見で使用する説明資料を作成するという発想は無かったのでしょうか?

(2)は態度に関すること。

加藤理事長の髪の毛が眼鏡にかかり、非常に見苦しかった点。

こんな注意点は事前にスタッフが指摘して対応できる、極めて基本的で単純なことです。
実際にYouTube動画の冒頭の説明部分(+質疑応答でも)を見てもらえれば誰でも実感することでしょう。謝罪の記者会見では特にこのような「見た目」がネガティブに作用することがよくあります。

この2点は、会場のメディア記者及び中継を視聴している視聴者(当然日大の学生も多いかと)に対して、「わかりやすく伝えよう」という気持ちが欠如しているとしか言いようがありません。

これは記者会見の前日にでも危機管理広報やPRの外部専門家にチェックしてもらえればすぐに改善できることです。もしかしたら危機管理コンサルタントや広告会社、PR会社等が関与していたのかもしれませんが、そこは不明です。少なくとも私は一切関与していませんが・・・

続いての質疑応答。約1時間50分にもわたる長時間の質疑応答でした。

メディア記者からの質問に対して、加藤理事長を含めて4人の会見出席者(1人は弁護士)が誠実に答えていたことは評価できます。
ただし、今回の日大会見に限りませんが、長時間の質疑応答の理由は一つしかありません。

それはすでに述べたように

「資料を読み上げるだけの説明がわかりにくく、かつ具体性に欠けている」

につきます。
ビジュアルの要素も取り入れて、具体的なわかりやすい簡潔な説明をすれば、ここまで長時間の質疑応答を行うことは無いはずです。

私自身のPRになりますが、過去に多数の自治体や企業、団体などで架空の想定危機(事件・事故・不祥事)のシナリオに基づいて、「模擬謝罪記者会見トレーニング」を実施し、ビデオを撮って後で検証する講師を務めてきました。先月も都内のある大手企業で同様のトレーニング講師を務めました。

危機管理広報でも危機管理(自然災害、感染症、事件・事故・不祥事など)でも平常時の準備活動として一番効果的なのは、この種のシミュレーショントレーニング(図上訓練)を定期的に実施し、その反省点をマニュアルやガイドラインの改善に役立てることだと、この仕事に関わって約35年のコンサルタントとして断言できます。いわば「頭だけでなく、身体で覚える危機管理(広報)」と言えます。

今回の日大の会見を見ると、そのような平常時のトレーニングは行っていないと推察できますし、もしやっていたとしたらそれを指導した外部専門家の講師のレベルが低いということになるでしょうね。

日大の会見と言えば、2018年アメフトタックル事件の時の「酷い会見」が有名です。実はその時にインターネットメディアJ-CASTニュースからの取材依頼があり、その際、匿名の危機管理コンサルタントとしてコメントしました。

いまでもアーカイブ記事として読めますが、それが下記です。
今回の記者会見は、司会進行も含め、この時に比較すればかなり改善されたとは思いますが・・・


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