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【危機管理広報関連】昨年のある「緊急記者会見」の検証例

私は個人のウェブサイトで不定期に危機管理・危機管理広報に関する「ブログ」を書いていました。
先日、ブログをウェブサイトから削除し、本「note」用にすべて移管し、少し内容をアレンジして今後少しずつ発表していこうと思っています。
その一つがタイトルにある内容の検証原稿です。

約5か月前の2020年10月1日のことですが、東京証券取引所はシステム障害に関する緊急記者会見を行いました。インターネット上では現在でも下記のような記事検索ができます。

東京証券取引所は1日、16時30分から記者会見を開くと発表した。同日発生した障害で、同取引所を含めた地方取引所の株式取引などが停止した原因を説明する。東証の宮原幸一郎社長などが出席する。
〔日経QUICKニュース(NQN)〕

そして当日の(謝罪)緊急記者会見のアーカイブ映像はYouTubeで今でも視聴可能です。

私は当時このYouTube映像を視聴して、自分のウェブサイトに検証原稿ブログを書きました。

通信業界、IT業界にとって最大のリスク要因は「システム障害」と「(顧客)情報漏えい」でしょう。
最近でも「みずほ銀行ATMのシステム障害」が起こるなど、デジタル化、IT化がますます進む時代において今後も十分起きる可能性が高いと思われます。本noteを始めて毎日エッセイを投稿していたので、最近の「みずほ銀行」の記者会見映像の検証はまだしていないのですが・・・

システム障害や顧客情報漏えいが起こらない人的、技術的な対策はもちろんしっかりと行ってもらいたいと願いますが、万が一関連の事件、事故が起こってしまった場合には、同様の「緊急記者会見」で謝罪と説明、質疑応答が必ず必要になります。担当は企業や団体の広報セクションが中心になるでしょう。

その一助になればと、簡潔にまとめた検証原稿を投稿いたします。
既に投稿した「自己紹介①仕事編」の一つの具体的な業務内容の説明としても読んでいただければ。アーカイブ原稿(である調)です。

東京証券取引所の謝罪会見(10.1)の評価点と課題点
「"完璧な会見"とは言えないその理由」 2020.10.10

すでに10日近く前の話題だが、10月1日朝に発生した東京証券取引所のシステム障害による取引停止(翌日10月2日からは再開)。
障害のあった1日の16:30から東証の緊急記者会見(以下:謝罪会見)があり、インターネット上の複数のメディアが生中継し、アーカイブ映像の視聴ができる。
 
この謝罪会見について、インターネットやSNSでは高い評価の書き込みが多かった。中には「完璧すぎる記者会見」という見出しの記事もあった。
では実際に自分で検証してみようと、インターネット上のアーカイブ映像を視聴してみた。約140分の長時間会見である。

私は今回のような企業や団体の事故・事件・不祥事等の危機発生直後のメディア対応とその準備活動、平常時の予防対策(危機管理広報=クライシス・コミュニケーション)の専門家である。
これまで実際の謝罪会見へのアドバイス、そして企業や自治体等で平常時に行う

「模擬緊急記者会見=謝罪会見トレーニング(以下:トレーニング)」:
(1)架空の事故、事件、不祥事等の危機を想定してシナリオを作成
(2)企業の経営者層や自治体の幹部職員に実際と同様の雰囲気で会見を行ってもらう
(3)ビデオに撮りプレイバックして検証
(4)講義

講師を30件以上務めた経験がある。
架空の想定危機としては、工場事故、製品への異物混入、顧客データの盗難、漏えい、システム障害、管理職や社員の起こした不祥事、危機発生の隠蔽などについてのトレーニングを実施してきた。

その経験から、高評価がなされている今回の東証の謝罪会見を検証してみたい。謝罪会見に関する基本的なデータは東証のウェブサイトやインターネット上の各種記事を参照。
 
私が講師で行ったトレーニングの報告書と同じように
「評価点」と「課題点」に分けて簡潔にまとめてみた。

①評価点
☆出席者の前にパーテーションが置いてあった。
 現在のコロナ対策として適切だった。
☆説明、回答とも「マイクを使用して聴き取りやすい」「誠実に回答してい
 た」。
☆社長の説明と回答は「落ち着いて言葉を選んではっきりと」ができてい
 た。
☆出席者(4人)の謝罪の姿勢が徹底されていた。
☆記者からの「富士通への損害賠償は」の質問に対して、
 社長は「市場への責任は私どもにあるので富士通への損害賠償は考えてい
 ない」と明言していた。
 この種の謝罪会見にありがちな他社等への「責任転嫁」はまったく無かっ
 た。

 (注)この点がインターネット記事では特に高く評価されていた。これは私
 も同感だ。
②課題点
■最大の課題点は①説明不足と②説明方法の工夫の無さの2点につきる。
 謝罪会見での質疑応答は約2時間であったが、これは冒頭でほとんど
 説明していないことが最大の原因である。

①説明不足について
★東証側からの冒頭説明が簡単で短すぎた
 社長の謝罪と役員の経過説明はトータル10分ほど。
 そのあとすぐに質疑応答との流れ。
 以下について時間をかけてでも説明すべきだったと考える。
 謝罪会見時点で不明な点は「不明です」と言えばよいのである。
 (1)時系列の説明
 (2)東証の通常取引とコンピュータシステムの関連説明
 (3)今回のトラブル事象の箇所の詳しい説明
 (4)明日の再開の見込み
 (5)市場への影響についての考え
 (6)再発防止策

★下記②に関連するが、漢字やカタカナのわからない言葉
 実際に質疑応答の中で「ていちてん」の漢字を訊くメディア記者がいた。
 当然のことである。
★会見に参加したメディア記者の中には「コンピュータシステム」に詳しく
    ないメディア記者も多数いた。
 (質疑応答で「基本的な質問で申し訳ないですが・・・」から入る質問も
     複数あった)
 IT関連の会見ではよく見られる光景だが、IT関連のカタカナの技術用語を
    多用するのはNG
。一種の上から目線に受けとられるリスクが大だ。
 説明や回答に技術用語を出すのは構わないが、その場合は必ずわかりやす
    い補足説明を入れるなどの配慮が必要。
★今回のようなトラブルを想定して、東証のシステム業務の流れ等につい
   て、技術的な内容をわかりやすく写真やイラストも使用したパワポ説明資
 料も作成しておくべき

   仮に準備していたとしても、今回のケースで使用しなければ無いも同然で
 ある。 
 
 危機管理広報に関しては全体的に「平常時の準備不足」が指摘できる。
 危機管理、危機管理広報とも一番重要なことは、システムと同様
 「準備と確認」であると認識すべき。平常時のトレーニングが有効
だ。

★メディア記者からの質問に
 「確認ですが」
 「具体的に教えてください」
 「説明がわかりにくかった、整理して再度説明してください」
 などが多数あった。
 これは言い換えれば、東証側出席者の説明が曖昧で、はっきりとしていな
    いことにつきる。
 メディア記者が知りたいのはまず「確定した事実関係」だ。
 「緊急記者会見」、通常の「記者会見」、「インタビュー取材」などの
 メディア対応における広報としての基本的なポイントの一つだが
 現時点で
    「わかっていること」と「わかっていないこと」を事前に整理し、
 「わかっていること」はわかりやすく具体的に説明
 「わかっていないこと」はその理由を明確に述べることだ。
★会見の後半で、あるメディア記者から「東証の過去の障害事例から教訓
 にしたことはあるか、あるとすれば今回それが生かされたかどうか」とい
 う質問
があったが、
    回答は「今回の事象はまだ詳細が不明なので教訓にできることはもう少     し後になる」。質問の意味を正確に理解していなかった
 意図的ではないようには感じたが。

②説明方法の工夫の無さ
★あれだけの大きな会場なのになぜPCとプロジェクターを使用しないのか理
    由がわからない。
 出席者の後ろには大きなスクリーンがあったように見えたが、使用してい
    なかった。説明内容はプロジェクターに映すべき。
 特に今回のようなコンピュータやネットワークシステムの技術的な内容が
 からむ場合は必須である。
★インターネット中継されていたが、インターネット視聴者への配慮が全く
 無い
と言わざるをえない。
 インターネット中継は東証の重要な利害関係者である「証券会社」「個人
 投資家」なども大きな関心を持って見ていたはず
である。
 資料をプロジェクターで見せていないので、記者に配布した資料がどんな
    ものかわからない
。インターネットでの中継やアーカイブの謝罪会見映像
    にアクセスした視聴者にとっては不親切な対応でしかない。
 出席者の一人が説明で、「資料の右上の」などと言っていたが、インター
    ネット中継の視聴者にはさっぱりわからずである。
 東証にクレームは無かったのだろうか。
 これは危機管理広報、広報の観点では、初歩的なミスだ。
 インターネットや動画の時代にまったく遅れている発想と厳しく指摘して
 おく。

以上です。参考にしていただければ幸いです。

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