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【危機管理広報】~小林製薬の2回の緊急記者会見レビュー~

連日メディアやインターネット等で報道されている小林製薬。

小林製薬の危機管理(平常時のリスクマネジメント及び緊急時のクライシスマネジメントの両面)については、いろいろと検証したい点もあるのだが、長くなってしまうので今回は3/22と3/29の2回の緊急記者会見(以下会見)について、危機管理広報(クライシス・コミュニケーション)の視点で検証する。

私はYouTubeでのライブ及びアーカイブで視聴した。
下記のYouTubeは3/22の会見のアーカイブ映像。

会見はそれぞれ同じ出席者で行われた。
出席者(画面左から)
執行役員 製造本部長 山下健司氏
代表取締役社長 小林章浩氏 
執行役員 信頼性保証本部長 渡邊淳氏
ヘルスケア事業部 食品カテゴリー長 梶田恵介氏

3/22と3/29の会見についてそれぞれ「評価点」と「課題点」に分けて
レビューする。
あくまで会見自体のレビューであり小林製薬の今回の危機対応(現在も継続中)についての評価ではない。
私はこの種のサプリメントの使用経験が無いので、サプリメント自体や成分等については知識も経験も無い。

具体的なことは下記に述べるが、一言で言えば「(平成のような)古い会見の印象」が強かった。

(1)3/22の会見

❶評価点
☆私が視聴した印象として、全体的に「不適切な態度や発言」は見られなかった。

☆質問に回答する際に「・・・より回答させていただきます」と名乗ったのは発言者が誰かを明確にさせた点で良かった。少しくどい場面もあったが。

☆説明及び回答の際に、きちんとマイクを使ってゆっくりと話していたので、聞き取りにくい言葉はなかった→会見では重要な要素。

☆信頼性保証本部長の時系列での説明は評価できる。過去の(悪い)会見例を見ても、起こった事と初動対応について順を追って時系列で説明するという基本的なことができていない会見が実に多い。

☆司会の進行もおおむねスムーズであった。

❷課題点
✖現代の緊急記者会見がインターネット(YouTube)ですべてライブ中継+アーカイブされることを意識した会見ではなかった。
マイナス点はこれにつきる。
具体的には、会場のメディア記者に配布した資料が映されることはなく、インターネット(YouTube)視聴者にはどんな資料なのかがまったくわからなかった。
→メディア記者に配布した資料は、同じものをPCとプロジェクターを使用してスクリーンに映すべきである。


ビジュアル資料(写真、表、図など)無しで、出席者の長時間の説明を聞くのは苦痛だ。現代の視聴者はYouTubeなどの動画、テレビワイドショー・ニュースなどのボードでのビジュアル資料説明に慣れている。企業側からの説明だけでなく、例えば質疑応答でも使用できる機会はある。
→具体的には、「製造工程での異物混入(人為的な事件、何らかの原因による事故など)の疑いはあるか」の質問に対し、製造本部長から「工場での入室管理での衛生の徹底」の回答があったが、これなどは実際の入室管理の流れを写真(入退室のカードでのID確認、手指消毒、入室の白衣、エアシャワーなど)で示せば、理解しやすいし、また衛生管理の徹底の対応も示すことができたはず。
映画の映像を考えてみれば、主演の人気俳優であろうが、顔のアップ映像と台詞が15分も続くというのはあり得ない。ところが今回の会見では執行役員の顔のアップと説明を延々と映していた。上記のようにスクリーンで資料を映していないので、YouTube中継映像としてはこれしかないのは仕方ない。
スクリーンに資料や写真を映せば、YouTubeもテレビ局も間違いなく、その資料を映すはず。出席者もずっと顔と発言を映しだされるのは相当緊張するはずだ。それを緩和できる効果もある。

✖質疑応答の回答の中で複数の出席者の回答に「正直に言うと」
「正直・・・」という言葉が何回かあった。会見でよく聞くフレーズだ。
正直と言う言葉は、誤解(では別の部分は隠蔽なのか?)を招きかねないので使用しない方がよい。日常的な口癖の一種であり注意が必要。

✖記者からの質問は「確認ですが・・・」という前置きの基本的な事実関係(発売時期、数、どこの工場など)が多数を占めていた。
会見の前に「言えないこと(企業秘密、現段階において調査中で不明なこと、健康被害者の個人情報に係る内容)」と「言えること(公表されている事実、公表しても問題ない事実など)」を明確にして、「言えること」についてはできるだけ具体的に発表配布リリースに記述すべき。
質疑応答が長時間(今回はおよそ100分くらい)に及ぶのは、説明不足(具体的なことが足りない)であるのが多い。今回も正にその典型例である。

✖会見が終了した後に、出席者はひな壇に立ったままでいた。特に社長などにはメディア記者からひな壇で個別質問を受ける可能性もあるので、終了したらすぐに退出し、あらかじめ決められた控え室に向かうべき。これは企業広報の観点だが。 など

(2)3/29の会見

3/22の会見の段階では、亡くなった方はいなかったが、3/29の時は複数の方が亡くなったという事実も公表されて、会見の深刻度としては3/22の会見とは比較できないほど高まった。

下記はYouTubeは3/29の会見のアーカイブ映像。およそ4時間半(!)

ここでは課題点だけを指摘する。

課題点
✖会見では会場およびリモート参加のメディア記者からの質問が無くなるまで続けるという基本的なスタンスで始まり、そのこと自体は評価できるが、それにしても4時間半という会見時間(ほとんどが質疑応答)は、どう考えても長すぎる。私自身、数多くの(謝罪)会見をメディア報道やYouTube映像でこれまでたくさん視聴してきたが、これほど長時間の会見は記憶にない。
何故4時間半の長時間になってしまうのか?それは小林製薬側の説明が不十分であり具体性に欠けているからにつきる。
調査中の内容は別として、説明するべき(+説明しても企業側に何も問題のない)基本的な事実関係(5W1Hに該当するものが多い)を説明していないのだ。
冒頭の謝罪コメントに続き、3/22と同様、信頼性保証本部長がまず経緯説明していたが、10分もなかったのではないか。
前述のように、配布資料をスクリーンに映すこともなく、文字を淡々と読み上げていた。
→配布資料またはその内容をより詳細(写真、図表含む)にしたパワーポイント資料を会場のスクリーンに映し出し、メディア記者(及びYouTube視聴者)がわかりやすく理解できるような方式で説明しなくてはダメである。

✖3/29の会見での一番の驚きは、16:00から東京の厚生労働省の実施されたリモート記者会見で、「プべルル酸」という名前が出され、小林製薬側は会見の中でその名前を一切出していなかったことをメディア記者から指摘されていたこと。これも過去の(謝罪)会見でも前代未聞ではないか?
詳しい事情はわからないが、結果的には「説明不足」に加えて「コミュニケーション不足」もさらすことになった。
事前に厚生労働省や消費者庁などと発表内容の調整をしてから会見に臨むのが極めて常識的な対応となる。

メディア記者の質問。「先ほども質問と回答が出ていましたが、・・・・ということでよろしいですね」という再確認の質問が非常に多いという印象だ。これは内容の正確さを行うために必要とは思うが、これが4時間半という考えられない長時間の会見の原因の一つであることも事実である。

令和の時代、YouTubeやSNSを意識した、アップデートされた(謝罪)会見の必要性、重要性が問われた今回の会見だったと考える。

最後に、参考までに小林製薬のウェブサイトを見てみた。
ページのトップには「重要なお知らせ」として該当製品の使用中止のお願いと自主回収のお知らせが第7報(4/1更新)まで掲載されている。

ウェブサイトを下までスクロールしてみた。
一番下に「採用情報総合サイト」という項目があり、そこで若い男女の社員(外部のモデル?)の笑顔の写真が載っている(4/4 13:00現在)。私ならこの写真は外すようにアドバイスをするところだが・・・




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