見出し画像

【小説】雄猫ぶーちょの生活3 ぶーちょの退院

手術当日の朝、男の飼い主に動猫用乳母車に乗って物病院に連れて行かれたぶーちょを、女の飼い主は夕方、凍えるように冷たい風の吹く中、迎えに行った。

動物病院の診察台の上で、大きなエリザベスカラーを付けたぶーちょは、神妙な顔でおとなしく最後のチェックを受けていた。獣医はまた最後に、「福千代ちゃんはとてもいい子でしたよ」と言った。そして「傷をなめないようにネッカー(これが正式名称で、エリザベスカラーは製品名だそうだ)をつけましたが、十日後に外しますので、また来てください」と付け加えた。

え、また来るの? ぶーちょと私は顔を見合わせた。それも十日後! 果たしてぶーちょが十日もカラーを付けていてくれるだろうか。

乳母車はぶーちょを乗せ、快適に暗くて寒い道を走った。ぶーちょは一言もなかない。暴れもしない。手術は怖くなかったのだろうか。ぶーちょは不気味に乳母車の中で落ち着いている。

「ぶーちょ、もうすぐおうちにつくよ」時々声をかけながら乳母車を押した。ぶーちょはうんともすんともなかない。

古い団地の前のシャッター街のでこぼこした歩道を通り過ぎ、大きな療養所の暗い庭の横を過ぎ、小学校の横の快適な歩道にたどり着いた。だが、一声もなかない。そして、無事帰宅した。一声もなかずに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?