【小説】仔猫ぶーちょの生活-8 爪と牙

話は前後するが、二回目のワクチンの前に、ぶーちょの正式な名前が決まった。「福千代」だ。末永く幸福でありますように、という願いを込めた名前だ。動物病院のカルテも、「ぶーちょ」から「福千代(ぶーちょ)」と書き換えられた。ただ、普段はこれまで通り、ぶーちょと呼んでいる。

ぶーちょは、時々思春期になるが、普段の行動はまだ幼い。保護してすぐに、「痛いから爪を出すのはだめよ」と教えたので、爪は出さないで飼い主たちにからんでくる。つるつるふわふわの仔猫の手が足にまとわりついてくるのは気持ちいいが、それだけでは終わらない。乳歯とはいえ、まっさらの鋭い牙でかみついてくる。

「牙を出したらだめよ」とは言えない。牙は出したり引っ込めたりできないからだ。それをいいことに、ぶーちょは飼い主たちの足首にかみつく、手首にかみつく、ベッドに寝転がっていると、顔にかみついてくる。髪の毛を引きちぎろうとする。

ぶーちょの爪切りをしようとしたが、二本の手と二本の足を突き出して激しく抵抗したので、人差し指の爪を一本切るのがやっとだった。その後も「爪切り」と言っただけで剣呑な顔をする。

ぶーちょの爪切りは一生無理かもしれない。

でも、あきらめず、歯磨きは続けている。最初はガーゼに指を包んでやっていたが、最近綿棒に変えた。

縞尾が意外に歯磨きをやらせてくれるので、ぶーちょも抵抗しながら、少しずつ磨けるようになった。まっさらな白い出来立ての乳歯は、まだ磨く必要はないが、歳をとっても歯が抜けないよう、虫歯予防の習慣をつけたい。

ちなみに、縞尾の黄色かった牙が少し白くなった。


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