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燻製ニシン 3

それは、とても奇妙なきっかけから始まった。
ぼくは自作のネット監視システムのプログラミングに凝っていてね、不正アクセス、つまりハッキングをしようとしている連中をつきとめるハッキング・バスターてプログラムを完成させたばかりだった。ちょっと高度なプログラムで、ネット上をうろつきまわっている不正アクセスのコマンドを途中ですくいあげて捕まえてしまうんだ。相手が目的地に着く前にね。正確にいうと、他人の玄関に偽造のカギをつっこんでグルリと回そうとしている瞬間をキャッチしてしまう。まあ、ボランティアのセキュリティシステムなんだけど、普通のおりこうさんなハッカーたちよりも、ぼくのほうは数十年は進化していると思ってくれないかな。
なんのためにそんなプログラムを作ったかって? 正義のためなんかじゃないね。たんなる娯楽だな。フィシングというと他人の情報をかっさらうことだけど、こちらはフィッシングをやらかそうとしているやつを、釣りあげてやろうというね。ネット上には、そういうコソドロみたいな魚があっちこち泳ぎ回っている。そいつらを、魚釣りよろしく釣り上げてしまうんだ。ハッカーたちは、侵入相手のセキュリティに阻まれたと思うかも知れないけれど、彼らをシャットアウトしているのは、お雇いのガードマンでも、通りがかりのネットポリスでもない。現行犯なら、民間人にも逮捕権があるように、ぼくは善意の民間人として、縁もゆかりもない個人や組織のゲートのまえでコソコソやっている連中を捕まえ、彼らの住所をつきとめてやるだけだ。もちろん、通報や警告なんてめんどくさいことはしない。ただ、釣り上げて、そのデータをコレクションしているだけなんだな。犯罪を防いでいるという意識もないね。害虫駆除ゲームを楽しんでいるだけなんだと思うよ。電子警察はあいかわらずまぬけでね。この種のネット犯罪と一世紀近くもイタチごっこをしているよ。それをネット上で高見の見物をしているうちに、この遊びを思いついたのさ。ちょっと意地悪だけど、ネット犯罪が社会悪なら、こっちは社会善とでもいってほしいな。つまりはボランティア。結果的にそうなるのだろうと思うよ。もっとも、ぼく自身に社会性はあんまりないから、どう思われようとかまわないけどね。
つまり、そんなネット遊びをしていると、思いがけないやつにからまれたり、つきまとわれたりする。どの時代もおんなじなんだな。

 ところで、昔、ぼくたちの先祖がインターネットと呼んでいた情報ネットワークは、いまや太陽系内をむすぶコスモネットと呼ばれている。月面を皮切りに、太陽系内の天体に居住する人間たちが増えてきたからね。火星には七千人の開拓者コロニーができているし、惑星でなくても、適度な大きさの小天体には観測基地がもうけられている。その数三万人近い人類が、それぞれの目的でコスモ・ベースと呼ばれる居住施設で生活しているんだ。こんなことは、子どもでも知っているからわざわざ説明はしないけれど、この通信文が、ひょっとしてぼくたちの次元でなくて、ワームホールにでもとびこんで、過去か未来のだれかに傍受されないとも限らないから、すこしは解説が必要だと思っているのさ。ま、未来人にはよけいな註釈だと思うけど。でもね、コスモネットというのは、そこが面白いんだよな。時として、時間を超えてつながっちまうかもしれないんだから。
かんたんにいうと、宇宙空間に人工天体のサーバーがいくつも浮かんでいて、人々はそのサーバー天体にアクセスして、たがいに通信したり、情報を集めたりするんだ。たとえば、木星の衛星上にある観測基地から、統合ライブラリーを検索して、トーキョーって地域の人間のメンタリティを調査するってことも可能だ。まあ、その領域で十分な資料が残っているかは疑わしいけどね。あの国はきみたちの西暦で二十一世紀の後半に消滅してしまったからね。もともと国家の体をなしてなかったアメーバーみたいな国だったから、ああなっても不思議はないけどね。詳細を知りたかったら、アーカイブの中の「ここ百年の消滅国家」の項目を検索するといいよ。もちろん人も土地も物理的に地上から消えたわけじゃないけどね。
 そろそろわかってきたかもしれないけれど、ぼくは地球の居住者なんかじゃないんだ。さきほどいった、小惑星帯の観測所に勤務する父親と暮らしている「学生くずれ」なんだよな。数学のドクターコースを修了して、適切な就職口がみつからないままに、不便な孤島のような観測所で、アルバイトしながら暮らしているってわけさ。観測所といったって、人口三千人ほどの大所帯なんだ。所帯というより、ひとつの村(ドルフ)だね。居住する小天体は、RK212、シベリアとニックネームでよばれている月の四分の一の体積をもつ小惑星なんだ。ラグビーボールみたいな形状だから、その天体上に広い施設を構築するにはむいていたわけだ。施設は巨大なドームの内部につくられている。まあ、地球にある温室みたいな形だね。観測施設はそのドーム内にあるけど、そのかわり居住区はほとんどが地下だ。まさか、ドルフとよばれる村全体をドームの内部におさめようとしたら、どれだけ資材がかかるか知れやしないだろ? 
このてのドルフは、はじめから自給自足というか、自律的に生活できるように設計されている。地球からの補給を最小限度にするわけだね。エネルギーと食料と重力差の問題を解決するための技術が進んだおかげで、地球の地下都市とそう変わらない居住性を実現しているんだな。
 この地下都市というべきドルフも、そんじょそこらの村とは規模がちがうんだ。地下には移動手段のヴィークルのためのハイウェイができているくらいだからね。ガス・スタンドていうのは、そのヴィークルに燃料を供給する施設のことなわけさ。燃料が古めかしい化石燃料でないわけがわかったろう? 密閉空間である地下都市の空気を窒素酸化物で汚染しないためさ。廃棄物も水だけれど、それも再利用されるシステムだ。大気中物質のリサイクル・システムも、大規模に設置されているけど、そんなことの説明はまあいいやね。
 どうだい、すこしは意外な気がしてきたかな。ぼくは、ブルックリンでも、イングランドのレスターでも、東欧の辺境でも、ニューデリーでも、トーキョーでもなくて、小天体RK212、通称シベリアに住んでいるんだ。
 博士号をとった大学は地球にある。ドイツのハイデルベルクにある科学カレッジHITだったけど、教授連はどうだったかな。インド出身でチャンドラなんとかっていう教授だけは覚えているな。とにかくキャラがたってたからね。インド系の人はいまだに頭にへんてこな布をまきつけてるんだぜ。シーク教徒だったんだろうな。そのチャンドラなんとかという先生は、非線形理論の論文を書いていたぼくに、メデタシォンというフランス語を教えてくれたっけ。つまり「瞑想」だね。深く瞑想してから、数式にもどりたまえっていうのが口癖だった。

 さて、小惑星シベリアは、観測所のほかに実験施設をたくさん抱えている。こういう宇宙の極寒の孤島でなくてはできないような実験のためのね。それに核融合に関係した実験が失敗しても、被害は小天体の住人だけで済むわけで、だから、研究者のなかには、なかなか大胆な研究に没頭している連中もすくなくない。そのために、わざわざ故郷惑星を離れて、流刑地みたいな小天体に赴任してくる熱意には、ほんとに頭がさがるよ。ま、人間にはいろいろいるってわけさ。
 それでだ。いってみれば、定職についてない数学者のぼくの楽しみは、コスモネット・サーフィンだってことぐらいなんだな。趣味でやってる重力エネルギー・スイング航法のプログラミングに飽きると、何世紀もまえから内向的な連中がハマっているネット世界に旅立つわけさ。誰が面白い野郎はいないかとね。あの昔懐かしい「フェルマーの最終定理」とか「ポアンカレ予測」みたいなパズルを案出して、見知らぬだれかを挑発しているやつとかがいれば、ヒマつぶしにはもってこいと思わないかい? 
 そんなふうに、その日も、携帯ポジトロニクスを抱えて、ぼくは地下都市をほっつきあるきながら、コスモネットの接続ポイントをもつ自動飲料供給スタンドをさがしていた。そのてのスタンドはドルフには十五箇所ほどあって、どこも空いているのがとりえだ。がらんとしたラウンジにテーブルと椅子だけの殺風景なスペースだけど、時々監視カメラのついた浮遊ロボットが巡回してくることをのぞけば、まあ独りでネットサーフィンにふけるにはもってこいの場所さ。ただし、顔見知りがいなければだけれど。
 第8番スポット、愛称でいえば、ジャンク・ステーション8に、ぼくはノコノコの入っていった。まったく、マヌケけだったよ。午後四時に、こんなところでヒマしているやつはいまいと思ったのがまちがいだった。
 いやがったんだ。顔見知りの赤毛のサルがね。若いくせに鼻の下にピンとした髭をたくわえている変わり者がね。まったく、昔の形容を使うなら、シュールなやつでね。ぼくは、密かにやつのことをサルバトールと名づけてやっている。サルバトール・サルってダジャレだけと、金輪際ウケないな、これは。
 サルの野郎は、ヒトの顔さえみれば、ニヤニヤ笑いながら近づいてきて、「おやおや、マエストロのおでましかい? すこし早くはないかい?」と、清涼飲料でベタベタになった携帯ポジトロニクスを抱え、いやらしいくらい顔をちかづけてぼくのことをのぞきこむんだ。頭と目がトビキリ悪いせいだけれど、不快極まりない。サルは、それでも、資材搬送ドックの正規職員というポストを持っている。なに、昔で言えば「倉庫番」なんだけど、正規職員というのがウリでね。正規職員となれば、生涯報酬が保証され、死んだって遺骨の処理方法まで個人的好みでアレンジできるくらいなのだから。ぼくみたいな、非正規労働者(たいそうな言い方だけど)なんかが、万一くたばっても、遺骨なんか粉みじんに砕かれて、培養植物群の肥料として散布されるのがオチだろう。それでも資源循環に寄与したという記録くらいは残してもらえるかもしれない。自虐的だね。
「いつもより、コンマ五秒早かったのとちがう。どこかで、けつまずいて勢いがついたのかな」
「おあいにく、ハイウェイゲートの重力場のゆがみのせいだ」
 ふたりとも、相手のいってることがてんでわからない。言ってる自分たちだって、なにいってるのかわからないくらいだ。これが、人としてのギリギリの挨拶だね。
「おお、こんど重力局の職員にあったら、不具合を報告しておくよ。どこのゲートかい?」
 サルはわりとしつこい性格だ。わりとじゃない、かなり、いや、病的にしつこい性格なのだ。
「たのむよ、ルート18のAゲートだ」
「あそこは、汚物搬出用じゃなかったっけ」
「だから、そこから出て来たのさ」
 この自虐ジョークに、サルはゲラゲラ笑った。笑いの沸点も異様に低い。どうやら、挨拶はお気に召したようだった。
「ところでさ・・・」サルは、まだ笑いながら、きったねえ端末のモニターをぼくの鼻さきつきだしやがった。「とびっきりイカレタやつを見つけたんだよ」
 サルはうれしげに、モニターの一部分を指差した。とびっきりイカレタやつなら、目の前にいる。そう思ったが黙っていた。サルはこちらにかまわずに、どんどん話しだした。いつものことだ。
「ネット上にあるサイトのひとつに、ダークサイド・オブ・ムーンて、古めかしいタイトルをつけたやつがあったんだ。百年くらい前の遺物かと思ったよ。そういう廃墟サイトは無数にころがってるからね。なんで、あんなの処分しちまわないのかな。ネットのデータバンクは無限といっていいくらいに拡大したけど、たまにはゴミ掃除してほしいもんだ。書いてあることも、時代遅れだし、論理も滅茶苦茶。インテリジェンスのカケラもない落書きだな。小便ひっかけてやりたいくらいだ」
 いつだったか忘れだけれど、サルのやつから搬送ドックのベトンの壁に小便で象形文字を書いてやったという武勇伝を聞いたことがある。そのときは、まるでリアリティがなかったけど、その重大な環境汚染がまったくのブラフでないことがわかってからは、そんな話題は御免こうむりたいと思っていた。公共施設に排尿することは、十六ヶ月の禁固惑星暮らしの量刑を受ける可能性があるのだ。サルの言うには、あわせて八十ヶ月分の量刑に値する行為を実行したそうだ。「平気なのか?」と、たずねたら、「気にしないね。いいかい、十六ヶ月といったって、禁固惑星の自転周期は地球の千分の一なんだぜ」
「あっという間に釈放だね」
「いや、ものすごい速度で回転する人工天体に押し込まれるんだから、むしろ体罰だね。拷問に近いな。かならずリバースしちまうらしい」
「そのリバースによる汚染も量刑に加算されるの?」
「わかんないな」
 サルのやつの、バカ話はこれくらいでいいだろう。ぼくが記憶領域を検索しているあいだも、サルは話しつづけているのだ。
「で、そのダークサイド・オブ・ムーンの探索がどうしたの? 何が書き込んであったのかい」
「おお、そうだった。忘れるところだった。まあ、このイカレたトップページを見てみろよ。《太陽系伝説の真実》て、安っぽいタイトルのあとに何が書いてあったと思う」
「見当がつかないよ」
「ああ、でも、そのまえにすわってもいいかい?」
「お好きにどうぞ」
「ダンケ!」
 こいつ、ゲルマン系でないのに、地球古語を使いたがる。無視してやる。
「ナマステー!」
と、こんどはヒンディ語をつぶやいてすわりこんだ。こいつは耳にはいらなかったふりをした。もともと意味のないあいさつなんだから。それに、「あなたに帰依する」つもりなんか金輪際ありゃしなかろう。
「えーと、初等教育のステージで、旧暦の二十世紀のクロニクルやったよな。人類が原始的武器で、大量殺戮をくりかえしていた野蛮な時代だ。六百万人もの人間を棍棒で殴り殺したとか・・・」
「棍棒じゃなかったと思うな」
「え? もっとエレガントな手段だったっけ」
「エレガントって言葉はどうかな。旧暦二十世紀とはいえ、もうすこし効率を考えていたんじゃないか。それから百二十年で、太陽系惑星間旅行(プラネットドライブ)を実現させたくらいだからね」
「とにかくだ。その野蛮きわまりない一派が、いよいよ敗色濃くなった時点で、突然地球外に脱出したっていうのさ」
「棍棒にまたがってかい?」
「いいかい、棍棒というのはたとえだ。もっとましな乗物だろうよ。初歩的な重力場制御ヴィークルとか」
「ほほう」
「ほほうじゃないよ。そう書いてあったんだよ。連中は、地球を脱出して月の裏側に秘密基地を作っていたのさ。月の裏側なら、地球からは観測できないだろ」
「当時はね」
「そう、当時はだ」
「旧暦の二十世紀人類としては、ずいぶん頑張ったわけだ。でも、それほどの科学力があったのに、どうして敗色濃くなっちまったのかなあ」
 さりげなく、論理の矛盾をついてやった。
「いいかい、これは俺が主張していることじゃないんだ。そこに書き込んだどこかのバカの言い分だ。俺は、ただそのまま伝えているだけだ」
「無批判にね」
「批判はあとでするよ。いいかね?ともかく、話の腰を折るなよ。手短にやろうじゃないか。そのイカレタ一派は月の裏側で再起をはかろうとしたわけだよ。いま俺たちが生活しているような居住空間を地下に建設してね。かなりアブナイ兵器も開発したらしい」
 兵器というところで、サルは眼を輝かせた。そういうやつだったのか。そういうやつだから搬送ドックの壁に平気で小便をかけられるのかもしれない。
「いま、なにか考えてなかった?」
「なにも」
「まあ、いい。話はそこからなんだ。連中が月面帝国を建設し始めてから、まだ二十年もたたないうちに、地球から偵察ヴィークルが月の裏側までやってくるようになっちまったんだ」
「ヤバイね」
「そうだ。まだこれからってときだ。そのあと、しばらくしないうちに、なんと月面に着陸してきやがったそうだ」
「人類が星間飛行の初期段階にたっした時期だね」
「それは、いいすぎじゃないか。まあいいや。そこんところは事実なんだから」
「その最初の偵察ヴィークルはなにをしに来たんだって?」
「石ころをひろって帰っちまったらしい。旗なんておったてたあとね」
「でた! 旧世代の領土意識」
「茶化しているのかね?」
「とんでもない・・・」
「ふむ、まあ、いいや。それでだ、あわてた連中は、いよいよ月も安全じゃなくなった。いまバレたら、地球での再起などおぼつかない。それで、やむなく、再度大移動を開始したっていうのだよ。移動先は小惑星帯だ。そこまではいくらなんでもやってこられまいと思ったんだね。小惑星帯に散らばるアステロイドのいくつかに分散して、またぞろコロニーを建設したってわけよ」
「だけど、旧暦二十世紀が終わって、次の世紀にはいっても、その帝国の連中の噂を聞いたことないんだけど。そのテーマを扱った古い映画は山ほどあるよな」
 サルのやつこっちのいうことには聞く耳をもっていない。
「こう書いてあった。ひとつ重大な問題に直面したのだそうだ。地球脱出から数十年、その超科学エリートの一派は、臥薪嘗胆して小惑星帯文明の基礎までを完成させたのだそうだ。ところがだ、マヌケなことに、最初になりふりかまわず、虎の子のヴィークルをかって地球を脱出したのは、みんな男性ばっかりだったのだよ。連中は、後継者としての子孫を残すことができないことに気がついた」
「つまり?」
「みんながみんな、小惑星帯でジジイになっちまったんだな。とんだ爺さんの集まりになっちまったわけよ。なにしろクローン技術などまだ夢のまた夢でね。連中の先祖の偉い詩人がホムンクルスなんて人造人間の話を書いていたらしいが、所詮は空想科学小説だったわけさ」
「それは小説じゃないよ戯曲だよ。タイトルはなんていったかな『鉄槌』ていったかな。大昔に習ったんで忘れてしまったけど」
「『拳骨』てタイトルじゃなかったか? どっちみち空想だ。テクノロジーの裏付けはなかった。・・・・それでだ。そのヨボヨボの軍団が、小惑星でひとり、またひとりと死んでいったそうだ」
「それでオシマイかい? それで、地球は救われたってわけ?」
「馬鹿話だな、こいつは」
 サルは飲料自動供給機のほうに歩いていった。あれだけ喋れば喉が渇くはずだ。炭酸入りミネラルウォーターを手にしてもどってきたときには、すでに二度ほどゲップをしていた。落ち着きのないやつだ。
「だが、これはいってみれば、太陽系伝説のたぐいだ。真に受けるつもりは毛頭ないんだけれど、気になったのは、そのサイトの主が最後につけていたコメントなんだ」
 飲料をまた一口飲んでから、すかさずゲップをはきだしている。気圧が低いからあたりまえだ。しばらく放置しておくことにした。三回ほどゲップをくりかえしたあとで、サルバトール・サルは、ようやく話しだした。
「そいつは、こういっていたんだ。人類へのリベンジに関しての小惑星計画の可能性てやつだ」
「でも、そいつは、地球で人類にたいする犯罪をおかして逃げ出した連中とはちがうんだろう?」
「その一党の子孫てこともあるよ」
「相当うらんでいたのかな。てめえたちが悪いくせに」
「犯罪者というものはそういうものだよ
「犯罪者の子孫が犯罪者になるとはかぎらないだろ」
「うむ。もしくはイカレタ共鳴者、シンパかもな」
「それから」
「それからなんだけど、実は、よく意味がわからないんだ。そのサイコ野郎がほざいている理論に、やたら数式が出てきやがってね。その数式で、ある物体運動の制御を証明するとかいっているんだよな。それに二回目にアクセスしたら、どうしてもサイトにはいれなくなっちまってさあ」
「で、どんな数式」
「そう、そこなんだ。そこで数学のマエストロの出番というわけなんだよ。俺にはてんでわからない。あんたの専門領域とみたね」
 サルは、そのサイトの一部を写しとった画像を、コキタナさときたら太陽系一じゃないかと思えるようなディスプレイに映しだした。あまりに汚れているので、黒い点やら、マイナスやらが、果たして画像のものか、ディスプレイ上に張りついているゴミだか判然としなかった。やむなく、もったいぶっているサルの野郎をおどしつけたり、言葉たくみに懐柔したりして、そのコスモ・サイトのURLを聞き出したというわけだった。ユニフォーム・ロケーター・リソースのことだ。正確には最近ではコスモネットには、Cを頭につけている。そのC-URLがそもそもの始まりであったわけだ。なんと長い前置きエピソードだったときみは思うかも知れないが、これもぼくのストーリーの一部なんだからしかたないよ。
   註2ヨハン・ヴォルフガング・ゲーテの『ファウスト』に関したボケ。ドイツでFaustには「にぎりこぶし」の意味がある。ファウストは、十六世紀の錬金術師ヨハネス・ファウストがモデル。

註3アルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein 1879年3月14日 ~1955年4月18日)は、ドイツ生まれのユダヤ人理論物理学者。 特殊相対性理論及び一般相対性理論、相対性宇宙論、ブラウン運動の起源を説明する揺動散逸定理、光量子仮説による光の粒子と波動の二重性、アインシュタインの固体比熱理論、零点エネルギー、半古典型のシュレディンガー方程式、ボーズ=アインなどを提唱した業績により、二十世紀最大の物理学者とも、現代物理学の父とも呼ばれる。念のため。

  

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