2017四国大会 TSED「日本の大人」(2017.12/30初)

【『日本の大人』演出ノート①】去年の『わたしの星』で出来上がった桜井のスタイルを継続して、発展できるかどうかが今年の鍵だと思っていた。去年のキャストの多くが1年(今の2年)。この子たちしかしていない体験をいかに今年に活かせるか、新1年と融合させることかできるか。

【『日本の大人』演出ノート②】この台本でいこうと思ったのは、6月のノトス公演の後。四国高校演劇祭の『ハイパーリンくん』の稽古と並行して、テキレジをスタートさせた。キャスト的には男役の唯一の男子1年Sの成長が鍵。リンくんで少しその可能性を感じることができた。

【『日本の大人』演出ノート③】柴さん演出のオリジナル上演はもちろん観ていない。どんなふうに舞台を構成したのかもわからないし、そもそもプロセニアムの大ホールでするような作品ではないと感じたので、今回は舞台の使い方にかなりの時間を使った。というよりかなり苦しんだ。

【『日本の大人』演出ノート④】というより、これまでのすべての作品の中で最も苦しんだと言ってもいい。小劇場のようなスタイルを、いかにしてプロセニアムの大ホールにマッチングさせるか。ソースフォーの矩形の大きさは、常に舞台監督Mと試行錯誤してたどり着いたもの。

【『日本の大人』演出ノート⑤】矩形を浮かび上がらせて、キャストの入れ替わりを可視化する。小道具や衣装の転換も全て可視化。そのためのは装置は一切の装飾を削ぎ落としたシンプルなキューブを12個のみ。色を塗ることも当初は考えていたが、女子役Kのアイデアで塗らないことに。

【『日本の大人』演出ノート⑥】キューブはキャスト全員がシームレスに動かしていく。目に見える演出の基本方針は、観ている人たちに息をつかせない1時間にすること。常に芝居の激流を作り出し、常にどこかで何かが動いているように。勢いを常に持続させるようにすることを、役者には求めた。

【『日本の大人』演出ノート⑦】キャストは入れ代わり立ち代わりキューブを動かし、場を作り出していく。通学路、奥田家の居間、教室、廊下、居酒屋、病院、屋上など、キューブと小道具とそしてなにより役者の演技でその時間と空間を表現することを求め、それに役者たちは成功した。

【『日本の大人』演出ノート⑧】キューブを使ったのは、何より観ている人たちの想像力に委ねるため。そしてそれを役者の演技が補完するため。そう見える空間を作り出すことができれば、それこそまさに演劇にしかできないことだと考えているから。

【『日本の大人』演出ノート⑨】屋上への転換が舞台空間としては一番の肝で、それはもうどれだけしたかわからないくらい練習した。秒単位で動きを止め、何度も動きを固めていった。男子の動きと転換とセリフを合わせる作業。しかも観客からは見えていないところで実はいろいろやっている転換。

【『日本の大人』演出ノート⑩】男子役、女子役、妹役の3人は役者としての力が本当に高い。だけでなく、その努力も人一倍で、僕が役者たちに求めた「そこに生きる」感をとことんにまで追求してくれた。役者の力で観ている人を感動させて欲しいということを体現化した3人。(続く)

【『日本の大人』演出ノート⑪】そこについていったのが男役と先生役の1年2人。県大会1週間前辺りから急激に舞台での佇まいが変わった男役S。県大会もよかったのだが、四国大会への稽古の中で圧倒的な存在感を見せるようになった先生役O。大人の役の2人の成長は、芝居の質をぐっと高めた。

【『日本の大人』演出ノート⑫】目に見えない演出の基本方針は、時間軸に伴う人間の成長。男子以外は年齢の変化を内面から表現することを、男子は内面の変化を男子本人が気づかないようにでも観ているお客さんには緩やかに感じられるように表現すること。時間軸の揺り戻しが多い戯曲なので

【『日本の大人』演出ノート⑬】(続き)男子とそれ以外がそこを上手く表現できたことが、上演の成功に繋がったのだと思っている。衣装や小道具は目に見えるもの。演出的にはそこに時間軸の変化を感じさせたのではない。あくまで補完するもの。

【『日本の大人』演出ノート⑬】今回も、戯曲の持っている世界観に負けないように、大きな想像力を掻き立てる曲を選んだ。音響は舞台監督だったMが担当。四国大会では完璧な仕事をしてくれた。普段の稽古、リハーサルを含めて、僕の中で一番の舞台監督。

【『日本の大人』演出ノート⑭】そして芝居を補完するために今回も、部長Uが作曲した曲のキーボード生演奏をふんだんに取り入れた。特に卒業式の曲は贔屓目ながら見事。観察日記のシーンはキューブなども使ってライブ感を出した。あのあたりの演奏や編曲は全て生徒たちの手作り。

【『日本の大人』演出ノート⑮】プロの台本を高校生が演じるのは当然のことながら難しい。本がいい分、難しい。強い演出に負けない役者の演技力を見せてくれた。演出が要求することを完璧に表現しようとした。完璧すぎることは悪いことじゃない。それを実現できた彼女たちを僕は誇りに思っている。

【『日本の大人』演出ノート⑯】去年の『わたしの星』チームを継承すること、『わたしの星』を超える作品を作ること、常に『わたしの星』の見えないプレッシャーを感じてきた今年のチーム。僕の中でこの2つの作品は本当に特別な存在で、そんな上演にまでこの作品を高めること(続く)

【『日本の大人』演出ノート⑰】(続き)ができた今年のチーム4,5期生を顧問として本当に誇りに思う。観ている人たちを自分たちの世界に引き込むため、作品の完成度、クオリティを上げることに妥協を許さず取り組んだ今年のメンバー。あの子たちと『日本の大人』の旅をもう少し続けたかった。

【『日本の大人』演出ノート⑱】応援していただいた皆さん、保護者の皆様、そして何よりこんな素晴らしい作品をこんな素晴らしい上演にまで高めてくれた部員たちに、感謝しています。本当に永遠に終わらない夏休みのような上演でした。本当にありがとう。桜井の『日本の大人』はこれにて終演。(おわり)

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