2015作品研究会 TSED「カフカズ・ディック」(2015.6/20初)

【カフカズ・ディック演出ノート1】違うメンバー、学校で3回目のカフカズ・ディック。同じところ、違うところ、それぞれにあります。貫くことは「演劇でしかできない表現をすること」。小説やテレビドラマ、映画やラジオでできることならそっちですればいい。
 
【カフカズ・ディック演出ノート2】演劇でしかできないこと、演劇的表現を試みることができる戯曲なので、このカフカズディックが好きなのです。快く上演許可を出していただいたケラさん、本当にありがとうございます。今回もいい上演になりました。
 
【カフカズ・ディック演出ノート3】1920年代のプラハにノトススタジオを引き込むこと、これはこれまでと変わらない冒頭の演出。カフカへの鎮魂の蝋燭。カフカの葬列を表現する冒頭です。火は人間、というか動物を緊張させます。炎が生み出す緊張の世界に人々を引き込むことを意図しました。
 
【カフカズ・ディック演出ノート4】カフカは孤独ではありませんでした。実に多くの人々、女性と交わりながら生きていました。中心以外のオブジェはそれらを表現したもの。雑然とした人物の乱立の中に、人間は一人では生きていないことを表しました。表現を失ったオブジェ。
 
【カフカズ・ディック演出ノート5】白と黒は対比。カフカの二面性を表現しています。小説家としてのカフカ、女性の前でのカフカ。両極端な二人のカフカ。今回のカフカの演技にはその対比を強く求めました。その人物造形はもう一超えしてほしい部分があったことは事実ですが、それはまた次の機会に。
 
【カフカズ・ディック演出ノート6】舞台はできるだけシンプルに。見ている人たちの想像力に委ねる部分を増やすこと。演劇ならではのことだと考えます。今の学校に来て、舞台芸術にかなりの制限がある以上、そのマイナスを逆手に取る演出を求めます。部員たちにはだいぶ浸透してきたと思います。
 
【カフカズ・ディック演出ノート7】世界を立ち上げること。役者(特に2年生)に強く求めたことです。冒頭の演出も世界を立ち上げる一つです。カフカの「掟の門」の世界に、1920年代のプラハに、見ている人たちを引き込み、世界を立ち上げる。高校生にだってこれくらいのことはできるのです。
 
【カフカズ・ディック演出ノート8】「どういうことかわからない」という感想がいくつかありました。観客の想像力に委ねる演出を施している以上、ある程度予想されることです。想像してほしいなあと思います。演劇にはその可能性があるということを演劇をはじめた1年生に知ってほしいなあと。
 
【カフカズ・ディック演出ノート9】舞台美術に制限がかかる以上、音響にはこだわります。今回もそうです。壮大な音楽が使えるような大きな世界を描くことのできる芝居がやりたい。テーマは大きくなる。大きなテーマはどうしても身近なものから離れ、認識しにくくなる。でもそんな世界を表現したい。
 
【カフカズ・ディック演出ノート10】入ったばかりの1年生、上の世代と常に比較されてきた2年生。本当によく頑張りました。この作品の上演に踏み切れるくらいのカンパニーに成長したということです。本当に難しい戯曲だと思います。よくついてきました。ただ、まだまだ読み込みが足りない。
 
【カフカズ・ディック演出ノート11】細かな部分には目をつぶります。同時多発のガヤの音量や立ち位置など。デッサンに粗さが出ていることは百も承知。それよりも心を真っ白にして役に没入すること、そのことを役者たちには求めます。与えられた世界に没入し、うまくやろうと、演じようとしない。
 
【カフカズ・ディック演出ノート12】プログラムに部会長が書いているように、演劇の持つ多様性を信じたいと思います。特に高校演劇の。正解はない。こういう高校演劇もある。こういう演出もある。世界を共有できるかどうか。そのことにこれからも挑戦していきたいと思うのです。
 
【カフカズ・ディック演出ノート13】ということで僕にとって3回目のカフカズ・ディックはこれにて終了。このメンバーでこれをやるのが今日の1回しかないことが悲しいとある部員が言ってました。そういうふうに作品を愛することができること。きっと次もいい舞台を創造できると思います。
 
【カフカズ・ディック演出ノート14】次は文化祭。また全く違う作品を作ります。いろんな作者のいろんな作品を作っていくことでその多様性はさらに広がると思っています。部員たちよ、次は身体だ。今年の夏も身体だ。
 
【カフカズ・ディック演出ノート15】ご覧頂いた皆さん、ありがとうございました。これが桜井の目指す演劇です。今年の集大成を秋にお見せします。(おわり)

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