2015香川県大会 TSED「「少年王は夜旅立つ」より」(2015.11/26初)

【少年王演出ノート1】高2の夏に渡された少年王の初稿は、今でも実家のコンテナの中にある。23年経った今でも全てのセリフを覚えている作品。今までで一番長く付き合った戯曲がこの「少年王は夜旅立つ」。思い出があまりにも多すぎるので、顧問となってこの作品をするのにはとても勇気がいった。 

【少年王演出ノート2】役者としての力量が極めて高く、かつ同学年で、かつプライベートでも仲が良い女子が2人いないとできないと考えていた。そんな2人が今年の2年にはいた。入部した時から天性の素質を感じたヨブナと、2月の四国高校演劇サミットで大きく成長したカオル。 

【少年王演出ノート3】この2人をツートップに、二郎、アオヤギに男子2人を配置した。アヤ子はとにかく体のこなしが尋常ではない。物怖じしない性格で、23年前のアヤ子を超えてくれると信じてキャスティングし、見事にその期待に応えた。1年とは思えない。それはビデオガールもしかり。 

【少年王演出ノート4】もともとは大きく戯曲に手を加え、再構成する予定だった。しかしそうはならなかった。戯曲の構造がしっかりしているからだ。ただ23年前は今にして思うと甘かったであろう部分を中心に、リメイクではなく新作を作る気持ちでこの戯曲と向き合った。 

【少年王演出ノート5】この作品は「銀河鉄道の夜」が底流にある。ヨブナはジョバンニ、カオルはカンパネルラ、二郎はザネリ。この構成を崩さず、新しい視点からの解釈を試みた。それは自分自身。16歳の高校生だったときと、23年経った39歳の自分。大人の視点からこの作品を再解釈した。 

【少年王演出ノート6】それはアオヤギとビデオガールの位置づけ。そして少年王の存在。23年前は分かりにくくなっていたここに、大人の僕の視点からの演出を加えた。特にビデオガール。ビデオガールはループ性の象徴。だから今回はずっと舞台上にいた。「同じことを何度も繰り返す」象徴として。 

【少年王演出ノート7】少年王はあくまで象徴。実在はしない。砂も象徴。雨も象徴。実際にはどちらも降っていない。それらをいかに感じるのか。そのことは稽古の際何度も注意を促した。講評でも指摘されていたが、やや甘い。そこは確かに惜しかった。象徴だからこそより明確にしたかった。

 【少年王演出ノート8】この世に未練を残して死んでいった子どもたちが少年王となる。そして死にたいと思っている子どもたちを探している。そこには雨が降る潤いの世界があって、砂の降り注ぐ現実とは違う理想郷が広がっている。この作品の登場人物は全て、何かを失い、雨を求め、もがいているのだ。 

【少年王演出ノート9】砂の降るこの世界に絶望した子どもたちを少年王は探している。そして雨の降る湿り気の充満した世界(アフリカも象徴)へと導く。子どもたちは皆少年王を求めている。でも会いたくない。でも皆少年王なのだ。オープニングの演出意図はそこにある。 

【少年王演出ノート10】冒頭の曲にはジャングルの響きと都会の喧騒がクロスフェードしている。雨と砂、ジャングルと都会、アフリカとここ。それらが入り乱れる空間に観ている人を引きこませる目的。照明はもう少し暗くしたかったけど、共通仕込みのためあれが精一杯。スモークもリハの時より薄かった。

 【少年王演出ノート11】少年王の存在とビデオガールの位置づけを明確にするために、舞台はシンプルに作る。装置は何もいらなかった。ソースフォーの矩形で屋上を表現し、あとは役者の演技でそこを屋上に感じさせる。転換は全てシームレスに。観ている人をずっと少年王の世界に留めさせたかった。 

【少年王演出ノート12】少年王を遠く、そして高い位置に置きたかった。だから視点をずらし、客席方面へのベクトルを意識させた。できるだけ袖に役者ははけないように。客席を使う演出もその一つ。空間的広がりを持たせることと客席も少年王の世界に巻き込むための演出。うまくいったと思う。

 【少年王演出ノート13】台本が創りだす大きな世界に負けないようなメッセージ性の強い曲を選ぶのは、いつものこと。特に今回はループ性を持たせるために、屋上に上がる2回は同じ曲を2回使った。レベルを下げる時の下げ方が少し強くて聞こえにくくなっていたのがやや惜しかったけど。 

【少年王演出ノート14】ヨブナとカオルは本当によくやった。2人はプライベートでも仲が良い。ヨブナは毎回通し稽古のたびにカオルを突き落とすのが辛かったことだろう。袖でいつも泣いていた。ここまで役と一体化した子は彼女が初めて。今までその能力ゆえに彼女にはあまり合っていない役(続く) 

【少年王演出ノート15】(続き)ばかり与えてきたけど、今回は演じる喜びを存分に感じることができた。演出意図をしっかり読み取り、役作りをしてくる。うちのエースだった。そんなヨブナに負けていられないカオルと二郎もよかった。二郎は最後まで役作りに苦しんでいたが、いい本番だった。 

【少年王演出ノート16】アオヤギは背負っているものが非常に重い。普通の人の人生では経験しないものを背負っている。それをカオル、ビデオガール、少年王を通して間接的に明示することは難しいことだった。アヤ子はこの作品のアクセント的存在。2年生の中に混ざって1年1人でよく(続く) 

【少年王演出ノート17】(続き)がんばった。身のこなしとセリフ回しが巧み。観ている人から愛されるキャラそのものの子なので、特に本番直前の通し稽古は観ていて楽しかった。ようやくアヤ子を気持ちよく演じれるようになったところだったので、もう少し稽古させてあげたかったのが本当のところ。

 【少年王演出ノート18】大きな世界を立ち上げる。その台本、演出に負けない、力のある演技を役者たちには要求し、見事にその期待に応えたと思っている。頭のなかを真っ白にして、与えられた役に没入し、その世界に佇む。そして世界を立ち上げる。そんな稽古を積んできた。 

【少年王演出ノート19】演出に負けない作品研究を生徒たちだけで本当によくやっていた。世界観を部員全員が共有できていたからこそ、あの上演につながったと思っている。難解な台本だ。でも難解だからこそその演劇的試みは共感されたのだと思う。本当にいい上演だったと自負している。 

【少年王演出ノート20】同好会として2年目。3学年が揃って通し稽古や本番を見に来てくれたりして、部活になったと思う。6月の「カフカズ・ディック」、今回の「少年王」。難解な台本をいい上演にすることができる集団になった。演じる喜びを本番で感じることのできる集団になった。

 【少年王演出ノート21】いつもは淋しい大会1日目最後の上演なのに、実に多くの方に観ていただいた。多くの反応を感じたことだろう。ボランケンの時と同じだった。顧問として本当に心地よい瞬間だった。そんな今年の香川県大会。ということで、「少年王は夜旅立つ」はこれにて封印。(おわり)

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