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チック・コリア訃報に寄せて

少しジャズの話を。

1960年代〜1970年代にかけてジャズは大きくそのスタイルを変えていきました。ジャズが純粋にジャズだった時代は終わりを告げてロック、ソウル、ワールドミュージック、電子音楽など他分野の要素と急速に結合を始めたのがこの時期でした。そのジャズ大変革の先陣を切って突っ走ったのは帝王マイルス・デイヴィスで一枚毎に新しいアイデアを繰り広げていきました。

そして、この変革期のマイルス・デイヴィス・グループにはキーボード奏者が三人〜四人いるという状態でした。

ハービー・ハンコック。
キース・ジャレット。
ジョー・ザビヌル。
チック・コリア。

それぞれが違う個性を持った後のトップアーティストとなるキーボード奏者が一堂に会した奇跡的なラインナップでした。しかし、このマイルス時代にその才能がよく見えなかった、わからなかったのがチック・コリアではなかったかと思います。

チック・コリアが目指したサウンド、チック・コリアの才能というのは、あのマイルスの濃密でハイテンション過ぎる作品ではうまく映えなかったのではないかと思います。

やがて。
マイルスの元を去り。

チック・コリアは自身の進むべき方向性をいきなりわかりやすくハイグレードに表現することに成功しました。それがあの「Return To Forever」(1973)でした。この作品の爽やかさ、鮮やかさ、明快さはおそらくマイルス時代の濃密で窮屈で抽象的すぎる音楽性への反動であっただろうと私は思います。

この作品の録音メンバーにはブラジル人が複数参加していますが、このことがチック・コリアの路線をよく表しています。南米の洗練された鮮やかな風景。これが描きたかったと言わんばかりのクリアなサウンド。

他のキーボードのメンバーはマイルスバンドを去った後も割と濃密的・重厚的な作品を作りましたがチック・コリアだけがそれをしませんでした。

美しい詩的なジャズ。

それをずっとチック・コリアは貫いて行きます。本質的にそういう人だったのだろうと思います。音楽的な幅広さ、奥深さではハービーやキースの方が上だったでしょうが飾らない詩的なジャズピアノということならでチックの方が上だったと思います。可憐さ、美しさ。

2月9日に亡くなったとお聞きしました。そのピアノサウンドに若い頃、心奪われました。その感動は今もずっと残っています。ご冥福をお祈りします。

#koko書房


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