屋根裏で猫を見つけて、雨降りの日に釣りをした話
雨が降ったり止んだりを繰り返す、1月のある日。
寒さに震えて家に引きこもっていると、どこからか不思議な音が聞こえてきました。
雨音とは違う、カリカリと爪で引っ掻くような小さな音。
出どころを探すと、普段は閉じている屋根裏からでした。
ネズミでもいるのでしょうか。
恐る恐る覗きに行けば――
埃っぽい空間のなか、小さな黒猫の絵と糸の付いた棒がありました。
ネズミじゃなくて、猫。
しかも絵。
そしてこっちは……?
棒に触れると、突然左右に揺れ始めました。
まるでダウジングのような動きをする棒。
見ていると不思議な気持ちになってきました。
私の足は、操られるように家の外へ出ようとして――
…
……
宝物でもあるのかと思いきや、ダウジングが反応するのは何の変哲もない水たまりばかりです。
歩いている間に雨は止み、水面には曇り空しか映っていません。
首をかしげていると、一際底が深い水たまりの水面がうごうごと揺れていることに気付きました。
水中で何かが暴れているのか、水が濁っています。
……?
そういえば、このダウジングのような棒には長い糸がついています。
もしやと思い、釣りをするように水たまりに糸を垂れると――
あっ
何?
透明の魚が釣れました。
これが水たまりのなかで暴れていたのでしょうか。
体がゴツゴツしているので若干触り心地が悪く、ひんやりしています。
機嫌が悪い様子は、雨が降ったり止んだりを繰り返す曇り空に似ていました。
…
……
透明の魚が釣れた後、今度は公園の手洗い場に辿り着きました。
天気が悪いので周りには誰もいません。
手洗い場で、先ほどと同じように釣りをするとなると……
ここでしょうか?
あっ
手袋!
今度は、落としものの子供用の手袋が釣れました。
たまに手洗い場の網がずれている時があるので、そのタイミングで誰かが落としたのでしょう。
少々ガッカリしていると、手のひらの上で何かが動いていることに気付きます。
えっ
???
小さな何かが出てきたので、透明の魚と一緒に持ち帰ることにしました。
…
……
家に帰り、濡れた服を洗濯機に入れようとしたところで、またダウジングが反応していることに気付きます。
洗濯機には水も溜まってないのに、どうして……?
不思議に思いながらも釣り糸を垂らしてみます。
えっ?
これは洗濯の後に取り出し忘れたネット?
なかで何かが動いています。
ティッシュの魚です。
ポケットにティッシュ入れたまま洗濯機に出した人、誰?
ネットを食べたのか、体の一部に取り込んでいます。
……と、観察していてとんでもないことに気付きました。
指輪まで取り込んでいる……
これ、この間親戚が遊びに来た時……失くしたって騒いでいた指輪……裏に名前入り……
……
……親戚の大切なものなので、後で返します。
これはある意味、正しいダウジングの使い方だったかもしれません。
…
……
寒いなか外を歩いたり、なぜか身内の指輪を見つけたりして疲れたので、温かいコーヒーでも飲みましょう。
あれ?
また?
もしかしてコーヒーに反応しているのでしょうか。
今から飲もうとしていたのに?
なんだなんだ、と釣り糸を垂れると――
え?
角砂糖入れ過ぎた?
恐ろしいものを釣りあげてしまいました。
でも、コーヒーを飲む前に取り除くことができてよかった。
使うならこれくらいにしておきます。
……と、角砂糖の魚の一部をもぎ取ってやりました。
…
……
角砂糖2つでコーヒーを飲みながら、4匹の魚を観察します。
水たまりで釣った透明の魚は、水に入れると瞳だけが目立ちます。
釣り糸を垂らさなかった水たまりにも、透明で気づけなかっただけで魚がいたのかもしれません。
公園の手洗い場で釣った小さな何かは、いつの間にか手袋に収まりきらない大きさに成長していました。
子供は大きくなるのが早いですね。
元気に跳ねたりじゃれたりと、公園から聞こえてくるような賑やかな音がします。
洗濯機で釣った魚は、服のなかにすっぽり包まるのが好きなようです。
たまに洗濯機のなかに戻りたいような素振りを見せますが、ティッシュは二度と洗濯機の中に入らないでほしいです。
コーヒーで釣った角砂糖の魚は、もっと細かくバラして使おうと思ったのですが……
2つ分の角砂糖をもぎってから怯えているので、しばらくそっとしておこうと思います。
…
……
結局、ダウジングの釣り竿と魚、これはなんだったのでしょう。
猫の絵を見ていると不思議と眠くなってきたので、考えるのは明日にすることにしました。
…
……
……?
朝になり、もう一度屋根裏に行くと魚がいなくなっていました。
夢だったのでしょうか。
……
……あれ?
もしかして、食べた?
……
……雨が降ったり止んだりを繰り返した、1月のある日。
屋根裏で見つけたのは、ダウジングの釣り竿と、そして小さな化け猫の絵だったようです。
そして一度化け猫に操られた私は、今度は自分から魚を探しに外へ向かうのでした。
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