菅新政権で中小企業に起きる事態と、中小企業の生き残り方

中小企業の削減に走る菅首相

9月16日に菅内閣が発足し、新首相の下での政策が注目されていますが、中小企業分野に関しては、菅首相は中小企業の削減に舵を切る可能性が注目されています。また、DX(デジタル・トランスフォーメーション)も推進される見込みです。

菅首相と懇意なデービッド・アトキンソン氏

この政策を新首相が掲げる理由として、ブレーンに小西工藝社のデービッド・アトキンソン氏がいることが挙げられます。アトキンソン氏はかなり過激な中小企業削減論者として有名で

・賃金を上げるため、生産性の低い中小企業を大企業~中堅企業に集約し、生産性を高めよ

という主張をしています。

実際の中小企業の生産性は?

中小企業の生産性が大企業に比して低いことはよく知られていますが

・中小企業はもともと生産性の低いサービス業が多く、サービス業に限って言うと大企業でも相当に生産性が低い

・非サービス業であっても、大企業と中小企業の生産性の違いはブランド力の違いで説明できるところも多く、技術力やブランド力のある中小企業の生産性は、大企業に劣らないところも多い

・大企業中心主義を取った場合、国内産業の多様性が失われ、韓国のような財閥社会になる。大企業に就職できるかどうかが人生を分けてしまい、社会に不満がたまりやすくなる

・多様性の低い社会は、ショックに弱くなる。日本経済がショックに強いのは企業の多様性が高く、ショックによって揺らぐ部分が少ないためである

・大企業中心の経済政策は、起業環境を悪化させ、経済のダイナミズムを失わせる。米国や中国のような成長する経済大国は、起業環境が良く、意欲ある個人が中小零細企業をどんどん創業することによってダイナミズムが保たれている

といった批判もあり、大企業・中堅企業中心の経済政策は好ましくない、とも考えられます。

ビジネスと生活の境目にある企業が淘汰の対象か

とはいえ、政権として成立してしまい、当面自民党の優位も揺るがないものと考えられる中、菅政権はこの政策を実行するものと考えられます。

この時、ビジネスと生活の境目にあるような零細企業やフリーランスが淘汰の対象になるものと思われます。特段の独自性がなくても、身の回りの人脈や地域活動などによって支えられている「自営業」の個人ですね。

競争地位の4類型でいうところの「フォロワー戦略」を取っている企業で、他にはない独自の戦略も、業界シェアも無く、なんとなく日々を送っているような企業です。

競争の4類型とは、企業の地位をリーダー、チャレンジャー、ニッチャー、フォロワーの4つの分類したもので、それぞれ業界トップ、それと争う企業、独自ポジションで生きる企業、その他の有象無象という風に企業を分類し、それぞれの生き方について語るという経営用語です。

小さな企業が淘汰されるプロセス

小さな企業が淘汰されるプロセスで最も多いものは、中堅・大企業の勢いが社会の隅々まで及び、小さく、独自性もない企業が追い込まれて廃業するプロセスです。菅首相周辺側からすれば「社会のゴミ掃除」なんでしょうが、こういうことを考える人たちが掃除した後のゴミ処理まで考えて行動するんでしょうか。多分そこまで考えてないでしょうね。

他には、多少規模のある企業であれば、M&Aによって買収され、退場することも考えられます。

生き残りたい中小企業にとって必要なこと

今後、中小企業は逆風に晒されることが予想されるわけですが、生き残り策としては自社も自ら規模の拡大に走るか、絶対に脅かされないポジションを確保するかしかありません。

一つの道は、誰にもマネが出来ない独自の技術力で顧客を掴み、例え大企業の影響力が拡大してきても自分の商圏を守ることです。独自性のないフォロワーから独自の市場を持ち他を寄せ付けないニッチャーになる必要性があるということです。

製造業であれば他社では出来ない加工を追求すること、飲食業であれば他店では出せない味で勝負すること、サービス業であれば同業他社では出来ない仕事を完遂するということです。

もう一つの道は、M&Aによって他の企業を吸収合併し、規模を大きくすることです。株式の買い取りだけではなく、事業の譲受、店舗不動産の購入、コア人材の受け入れなど、他社を吸収する方法は多様ですので、詳細は中小企業診断士と相談するのが良いと思いますが、特に購入時に考えなければならないのは

・買収すると、商圏が広がるか(水平展開思考)

・買収すると、下請けや元請けの技術が獲得できるか(垂直統合思考)

です。重要な技術や重要な商圏は、お金を出して守りにいくという考え方が必要です。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)の推進

もう一つ、政府が推進しようとしているのが、デジタル・トランスフォーメーション(DX)です。平井卓也氏をデジタル担当大臣に任命し、本格的にDXを推進するつもりです。

この平井氏、国会でワニ動画を見ていた人物としてネタ扱いされていますが、IT方面では国会議員で最も知識のある人物と言われており、将来的にはデジタル庁を作るという菅首相の構想もあり、本気度が窺える人事です。

DX(デジタル・トランスフォーメーション)って何?

ここまで書いてきて、デジタル・トランスフォーメーションってなんやねん!という声もあるかと思います。デジタル・トランスフォーメーションとは、経済産業省の定義では

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること

という官僚パワーあふれる名文ですが、要は、データやITを使って最新のビジネスを立ち上げて、社会も何もかも変えてしまおうぜ!ということです。行政という、保守性が非常に必要な世界でこういう発言が出てくるあたり、政府の危機感が表れています。

で、どうやるの?

画期的なビジネスを立ち上げてください(直球)

いきなり無理めな結論に達してしまいましたが、実はDXは、画期的なビジネスアイデアがあることが大前提で、それに向けて情報を集めにいく、というのが基本的な考え方です。

こう聞くと無理な感じがしますが、画期的なビジネスアイデアというのは、ある程度誰でも作りだすことが出来ると現代の経営学では考えられており、ビジネスモデルキャンバスやブルー・オーシャン戦略といったツールも開発されてきています。

特に、自分の業種の事をよく知っている既存企業は大企業であれ中小企業であれ、画期的なビジネスアイデアを作り出しやすいと考えられており、あとは思考力や仮説検証力といった力があれば、(成功するかどうかはともかく)画期的なビジネスアイデアを作り出すことはそう難しいことではありません。

経営者の頭の中を整理し、ビジネスアイデアに落とし込むのは中小企業診断士が得意としています。弊社イチコンでも中小企業診断士を紹介できますので、ご相談ください。

社内にある情報を整理しながら、画期的なビジネスアイデアを考えるという手法も有効です。今後は可能な限り社内やお客様の情報を収集・整理・蓄積していくことが、DXを実現する上で重要なファクターになってきます。

やるDXと使うDX

ここまで話してきたDXの内容は、自社でDXを起こすいわば「やるDX」です。一方、画期的なビジネスアイデアを生み出せない会社は、他社のDXによって生み出された製品やサービスを使う「やるDX」を行うことも重要です。これは業務効率化や生産性向上の話になります。

自社の業務を効率化し生産性を上げていくのにどのツールが効率的かということも、中小企業診断士、特にIT分野の中小企業診断士が得意としています。

今後、起きるかもしれない中小企業政策の変化は?

これまで、菅新政権が行うことが予想される2つの変化(中小企業の集約・DX)を見てきましたが、では具体的な中小企業政策として、どのような政策が予想されるでしょうか?私が思うには、以下のような政策が取られるのではないか?と思っています。

・小規模事業者持続化補助金の廃止→中小企業の集約化

・ものづくり補助金(ビジネスモデル構築型)の拡充→やるDXの推進

・IT補助金の拡充→使うDXの推進

・事業承継補助金(Ⅱ型)の拡充→中小企業の集約化

・事業承継引継ぎ補助金の拡充→中小企業の集約化

・廃業支援等新たな補助金の創設→中小企業の集約化

・セーフティネット貸付・保証の縮小→中小企業の集約化

・専門家派遣事業における最低従業員数の創設→中堅企業の支援

単に寡占化が進むか、新たなビジネスが生まれるか

菅政権における中小企業政策は、一言でいうとリスキーで、新たな高付加価値産業が誕生し日本を成長させるか、単に寡占化が進み日本の閉塞感がより増すか、非常に難しい舵取りを迫られていると考えられます。

中小企業経営者はこうした中、単に流れに飲み込まれるだけではなく、自らが高付加価値産業の一翼となるべく経営努力を行い、新しいビジネスを興すことが求められています。

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