連載小説【夢幻世界へ】 2−5 そら豆と木箸
【2‐5】
北海道ではなく、戦いの場に着いてしまった。
曇天の空。
ビルは崩壊し、電柱は中程から折れ曲り、砂塵と突風が吹き荒れる。トラックは横転し、軽自動車はめらめらと赤い炎を立ち上らせる。人々は逃げ惑い、屍体と化した赤子が乳母車に忘れられている。
市街戦を今まさに行なっている中、なんとか大使館まで走り抜けなければならない。
三つの聖地が額ほどのスペースにあるこの場所で、椅子取りゲームを死に物狂いでする民族たちに囲まれ、私は大いなる違和感を持っている。
ここは、私の世界ではない。
いままでの戦い、いままでの呪い、いままでの怒りを理由に、四面楚歌になっている彼らに、軽蔑と侮蔑を述べたくなる。
ちゃんちゃらおかしいぜ、ということの勇気。
そんなものは持ち合わせていないが、だとしてもこの世界に私はいたくない。しかし逃げたくもない。憤懣遣る方無いとはこのことかもしれない。馬鹿馬鹿しいと言えない彼らを、神の、それこそ神の力で圧倒し、悔い改めさせたい気持ちになる。
彼らが信じる神の裏側に立ち、そんなものは寄って立つべきものではない、と断言したい。数千、数万の信者が私を消滅させようとするだろう。もしくは野良犬のように踏み潰すか。私の一つの命で、彼らに対抗できないのは承知の上だが、いま=ここの現存在に対して、彼らの信仰、彼らの願い、彼らの歴史にいかほどの価値があるというのだ。神は所詮、絶対超越的他者ではないか。人間は、それがなくても生きていける。
危険!
危険!
もうすぐ満ち潮です!
早く正気に戻りましょう!
「思い上がりもはなはだしいわ。何様だと思っているの」
「だってそうだろう。馬鹿馬鹿しい種的記憶に拘束され、本来の人間らしいおこないを遠ざけてしまっているのだぞ」
「甘ちゃんね。考えが浅はかなのよ。そんなこと言っているから、いつまでたっても助けるべき彼女のところにすらたどり着けないのよ」
「いや、近づいている、そう感じる」
「無理よ。私がいる限り、あなたは彼女に近づけないし、助けることなんて到底できないわ。よく鏡を見てごらんなさい。あなたはわたしよ。この世界に居続けるつもりなら、その事実に目をそむけないことね」
と言って彼女は一皮剥け、蝶になった。
蝶は上昇と下降を繰り返し、蛹になった。蛹は、そら豆になり、その豆を木箸でそろりと摘まみ上げる。
時間は後退し、空間は収縮へ向かう。
危険!
危険!
危険!
もうすぐ満ち潮です!
こらえて!
「プランク時流体ベータ計測機器がプラス2100を指している。今すぐ離脱しろ。さもないと次元の不確定地点まで引き込まれ、消滅してしまうぞ!」
スピーカーから同僚の声がする。Q 型時空間爆弾に着火し、閃光の中、意識が遠のく・・・・・
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