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連載小説【夢幻世界へ】 断片4 摩利支天像

【断片4】


「十月四日、高尾から京に出掛け、その夜、陽炎なる摩利支天まりしてん像を見ました。

 七匹の猪を引き連れ、座して投げかける眼差しは、やわらかな春の日の日差しのようでした。光の物体化を象徴する摩利支天は梵語でマリーチといい、武勲の守り主でもあり、私には馴染みのある仏です。恭しく礼拝をし、帰着しました。その夜、次のような夢を見ました。

 あるところのお堂に参拝をしました。中に木造の天女像がありました。天女像は私に微笑みかけています。やさしい、母親のような眼差しでした。私は居てもたまらず、この像を抱き抱え、接吻をしました。天女像はゆるやかに動き出し、互いに愛情深く、撫で、さすり、接吻を繰り返しました。

 天女は私のことを愛おしく思ってくださっている。そのことが伝わり私は幸福感で包まれていました。周りを見ると多くの、七、八人の神聖な女性像があり、私たちを取り囲んでいました」

(明恵上人「十一月夢記」より)


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