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読書ノート 「11人の考える日本人」 片山杜秀

                   
 あっさりさくっと近代日本の石杖となった11名について解説する新書。早急に要約を求める輩には最適の書。需要はあります。で、まとめてみました。


  • 吉田松陰…理想家ではなく、軍事リアリスト。「教育」で国を守る。

  • 福沢諭吉…テーマはお金。法律や政治よりも経済優先。個人国家も自らが経済的に自立してこそ。国は税を取れるよう、参政権をカードに使った。皇室財産の必要性。

  • 岡倉天心…エリート官僚、アジア統一を目指す。『東洋の理想』『東洋の覚醒』『茶の本』『止静と観照の実践法』フェノロサの影響。

  • 北一輝…革命家。SF的と言ってもいい未完の超進化論。2・26事件青年将校たちの精神的支柱。大川周明らの猶存社。『日本改造法案大綱』社会主義と進化論。

  • 美濃部達吉…天皇機関説。立憲主義的近代人。天皇は国家の最高機関である、という主張。憲法と天皇の関係で天皇が上位と説く立場からは敵視。「五箇条の御誓文」が論拠。民主的でラディカルな内容。世界戦争に突き進む時代精神に翻弄される形に。

  • 和辻哲郎…大正教養主義。日露戦争が終わり、ひたすらの明治の頑張りが一息つく時代背景。ポスト『坂の上の雲』の価値観。立ち止まって考える。『三太郎日記』自己形成していく成長物語(ビルドゥングスロマン)。問題は先送りされる。キルケゴールなどの厭世観をテーマに思想を展開。間柄、関係性を重要視。どうにもならない(恋愛も)、解決しないこと。

  • 河上肇…社会主義運動をする経済学者。『貧乏物語』金持ちが贅沢をやめ、貧富の差を何らかの力で矯正し、所得格差をなくそう。甘い考えと堺利彦らに批判される。「一度は騙されてやってみなさい」この言い回しが、ブルジョワ的なごまかしの態度。現状維持を願う人間が言うコメントだと。最後は、人間性に基づく行動変容が重要。

  • 小林秀雄…何でも科学的に説明できると信じる人間が増えると、世の中はダメになる。直観把握の重要性。スピードと健康。

  • 柳田國男…「飢え」に耐えるための民俗学。官僚時代のデータ整理のスキルをもって、農村を救おうと考える。農業技術の向上と「中農」のすすめ。「不条理に耐えていく知恵」「日本人の諦め方」『妹の力』近代日本が直面した農業社会の崩壊という危機に冷徹に対応した。弟・松岡静雄は、アジア太平洋の開放を説く。

  • 西田幾多郎…この世のすべてには意味がある。「うまくいっていない人間にも生きる意味はある」「逆対応」悲しみの底には慰めや喜びがあるということ。「純粋経験」思いと動きが一体化している状態、無の境地につながる。「絶対矛盾的自己同一」一例でいうと、過去と未来という相反する、絶対に結びつかないものが、現在において同一化すること。「世の中に正答や解答はない」中心のない世界を生きる。この実現のために世界戦争をする、という思想に担ぎ出されてしまう。

  • 丸山眞男…戦後の思想。戦後民主主義の創始者。「『である』ことと『する』こと」「超国家主義」「八月革命」被爆者でもある。安保闘争のオピニオンリーダー。「大日本帝国の『実在』よりも戦後民主主義の『虚妄』の方に賭ける」美濃部達吉、新憲法不要に対して、宮沢俊樹・東大憲法研究委員会派が反対、そのなかで「八月革命」論ができる。新憲法は無血革命、なぜなら天皇主権の明治憲法とは繋がれていない、国民主権憲法だから。「無責任の体系」天皇も東条も意志を持って行動していない。どこまでいっても行動に責任を持つ主体がいない、それが日本だ。普通の生活の継続性のなんと大事なことか。

 吉田松陰はさておき河上肇、北一輝、丸山真男について言及するところがこの作者の真骨頂。社会の形成に打撃を与える人間への共感・憧憬を感じます。

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