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連載小説【夢幻世界へ】 2−1 コカコーラ・レッスン

【2−1】


 努力による解決などない。

 そう思うようになったのはいったいいつの頃からだろうか。谷川俊太郎の「コカコーラ・レッスン」を読み、自分の価値がコカコーラの空き缶ほどもないのだということを知り、会社勤めをする上で何度も降りかかる転勤に意味付けすることはできても、その結論がどういった仕組みから導き出されたかを知ることがない非対称的な空間に、長く身を寄せすぎたせいか、楽観的な運命論者が、年齢を重ねるごとに悲観的になっていった。


 そんなことを考えながらコカコーラ・ゼロを飲み、プラットフォームで列車を待つ。隣では、無慈悲な殺傷能力を持つ残酷なものがうろうろして、危なっかしいったらありゃしない。

コカコーラ・ゼロではなく、ミネラルウオーターを買うべきであったと思う。蒸し暑い中では、甘味料の分泌物が体から染み出てきて、なんだか粘っこく感じるからだ。この世界の住み難さが、ミネラルウオーターで変わるわけでもないのだが、少しはましというものだ。滑るようにやってきた列車に乗り込み、座席に座り計測器を取り出す。この世界で彼女は一般市民だ。勤め先であるコンピュータソフトの会社に派遣社員として働いている。その通勤先で接触し、干渉から守らなければならない。


 隣に座っている昔の女友達が言う。

「もう、いつまで待たせるの」

「おや、22、いたのか」

「おいていくわよ。こんな場面でぐずぐずしている時間は私にはないわ。コードなき差異の戯れに死ぬまで付き合っていなさい。シニフィアンはあなたに何も教えてはくれないわ。シニフィアンはあなたに肘打ちを喰らわすだけだわ」

「ちょっと待ってくれ、まだ全体像が」

「馬鹿ね。全体像なんか、そもそもないのよ。わかってるでしょ」


そう言うと昔の女友達は風塵を残して消失する。

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