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世界選手権権利獲得デッキのマナベース論

チャンピオンカップファイナル一週間前。
競技プレイ、MtGから離れて久しい私に、旧知の調整メンバーから連絡が来た。
「dropくんならこのメタゲームでなにを持ち込む?」
これは後に世界選手権の権利を獲得するデッキの思考フローを残すものである。

まずは環境に存在するデッキの相性について洗いざらい説明してもらうことから始まった。
これまでの予選の結果からメタゲームのバランスは概ね判明しており、ラクドスミッドレンジが最強で最多のメタであることは疑う余地がなかったため、ラクドスミッドレンジを起点にメタを分析していった。

ラクドスミッドレンジ
最強デッキではあるが、全プレイヤーが意識してくる上、ミラーマッチで安定的に勝利を収められるだけの自信が無いので別の候補があればそちらを選びたい。

緑単
ラクドスに有利とされているが、近年のラクドスのリストは固定化されており、固定枠のサイドカードがクリティカルに当たってしまうため高い勝率を出すことが難しそう。ミラーは地獄。

青白コントロール
環境には2種類の青白が存在している。トラディショナルな青白コントロールと、【睡蓮の原野/Lotus Field】を使用する青白ロータスだ。トラディショナルな青白はメタのタイミングによっては有利なタイミングがあるが、単純にデッキパワーに不足を感じるため今回は見送る。
青白ロータスは特定のカードに依存するコントロールであるため、初手の要求要件が厳しいコントロールということで一旦保留。

これまでの予選の突破者が使用していたデッキは上記の3タイプ。これらのデッキに有利に戦えるアーキタイプを探って議論を進めた。
私はパイオニア環境に対して漠然とメタゲームを眺めていた程度で、実際のプレイの経験はなかった。なので、こちらが質問をする、相手がそれに答える、これを繰り返す哲学の問答法のような面倒くさいプロセスを経てメタゲーム上に存在する大体のデッキの立ち位置について理解を深めていった。

結果として候補に上がったのは、ラクドスミッドレンジとヨーリオンファイアーズの2つ。
ラクドスはプレイヤーに経験があったので、ヨーリオンを試してそれが頓挫したら消去法でラクドスを握ることに決めた。

ヨーリオンに目をつけた理由
・ラクドスミッドレンジに大幅に有利。
・緑単にもやれる可能性がある(要検証)
・青白コンに有利に立ち回れるブレイクスルーが産まれた。
・シルバーバレット戦略でTire2以降の立ち位置のデッキに取りこぼしが少ない。

本稿で伝えたい部分は青白コンに対するブレイクスルーが起点となる。
従来のファイアーズ系デッキは青白コンに対して、打ち消しが無くなるまでマストカウンターを連打して、着地したカードで頑張る。といった半ば運ゲーのようなプランを取ることが是とされていたりしなかったり。
だが、最終的には告別によって盤面をひっくり返されて負けてしまうのが常で、五分とは言えない相性差があった。

しかし、関西の熱心なヨーリオン調整チームによって【世界樹への道】が発見されたことによって状況が一変する。


テキストを見るだけではなんのこと無いエンチャントだが、実際のプレイにおいては無二の性能を発揮する。
それは一生セット&ゴーのプランが肯定されるということだ。
たった2マナのエンチャントを盤面に置いておくだけで、7マナに到達すればアドバンテージとクロックを唱えることなくもたらすこのカードは、ただターンを経過していくだけで時限爆弾のように機能する。
アドバンテージを獲得したあとは熊でクロックをかけながらプレッシャーを継続すれば良い。2枚目以降の世界樹への道も何枚引いても嬉しい。
もちろん土地をサーチする能力もロングゲームにおいては特に重要になる。ミッドレンジvsコントロールの対戦で土地を置き続けられることの重要性はここで語るまでもないだろう。

というわけで新たに強力なゲームプランを獲得したヨーリオンファイアーズではあるが、同時に大きな問題を抱えることになった。マナベースである。

もとより5色デッキであり、岩への繋ぎ止めというマナベースに強力な負荷をかけるカードを有するこのデッキは、それ以外にも様々な成約があるにも関わらず、創案の火による踏み倒しに期待をしてか、既存のいくつかのデッキリストはマナベースが脆弱であるように思えた。

マナベースを考える時にはデッキの動きとして要求されている要件を洗い出す。
デッキに採用されているカードで、唱えるまでに最もスピードが求められるターンが早いものと、シンボルが重たいものをリストアップするのが効果的だ。
岩への繋ぎ止め、苦々しい再会、世界樹への道、海の神のお告げ、スカイクレイヴの亡霊、力戦の束縛。
ヨーリオンファイアーズが求める要件は以下の通り。
・岩への繋ぎ止めを2ターン目に唱えられること。
・2t目にエンチャントを唱えられること。
・4t目に白白が出ること。(白い呪文+岩への繋ぎ止めや力戦の束縛で2アクションを取る可能性が4t目以降グッと高まる。)
・4t目に青が出ること。
・版図による力戦の束縛のコストを下げるために、できるだけ多くの基本土地タイプを場に並べること。
これらを満たせるマナベースを構築していかないとならない。

適正ターンに呪文を唱えられるようには何枚の色カウントがあればいいのかを確認する際には、Frank Karsten先生のこの記事がバイブルである。

これをそのまま読むと、このデッキに必要な色マナのカウントは、白23 青18 黒16 赤18 緑22になる。(記事の下部に様々な条件があるが、今回は表のみを参照した場合に絞った。)
しかし、黒い呪文は最速で唱えるパターンが非常に少なく、黒を入れる主な理由はケンリスの起動コストと版図の達成であるため、黒のカウントはできる限りあればよい。
そして、岩への繋ぎ止めの存在がマナベースをさらにややこしくさせる。岩への繋ぎ止めを2tに撃つためには白マナと基本土地タイプ・山を揃える必要があり、条件の達成のためにはデッキ内に20枚以上の山が入っていることが望ましい。つまり、赤マナを捻出できる土地は全て基本土地タイプが含まれているものでなくてはならない。
産業のタイタンやデッキ内のいくつかのクリーチャーは、奇怪な具現からサーチすることを前提に投入されたカードであるため、実際のゲームプレイにおいてはマナベースを圧迫するほどの影響を与えない。大切なのは再現性である。
これらのことを考慮した上で、本当に必要なカウントは白23 青18 黒any 赤18(山20+)  緑18だ。
このカウントを満たすためには、デッキ内のすべての土地がトライオームでも28枚の土地を要する。当たり前だがすべてがタップインでは適正ターンの概念は意味がなくなる。
デッキ内には相当数のアンタップイン土地を採用する必要がある。
世界樹への道が採用されている関係上、各種基本土地も土地の中に含める必要がある。
ここまで列挙してきた事実で、いかにこのデッキのマナベース構築が難しいものであるかご理解いただけたと思う。

苦心してマナベースを組んでいたが、安定性とカードの強さを天秤にかけると、妥協しないとならない場所が見えてきた。
【海の神のお告げ】である。



ヨーリオンファイアーズに採用される2マナのエンチャントの中で、【世界樹への道】を除けばどう見ても最強に便利なこのカードであるが、これがあることによって青マナの必要カウントが爆増していた。
この部分で妥協すると必要カウントは18→15まで下がる。
デッキに10枚程度は2マナのエンチャントを採用したい関係上、次点で利便性のある【苦々しい再会】を最大数採用したとて、道と併せて8枚に留まる。
残りの2枚を赤、緑、白から選ぶ必要があるが、弱いカードであることは承知の上で仕方なく【ナイレアの存在】を加えることにした。

そうしてできたマナベースが本戦で使用したリストのものである。

白23 青13(両面で+1) 黒5 赤20 緑18と、要求値をすべて満たすマナベースが出来上がった。

特筆すべきはこれらの要素。
世界樹への道を唱えた以降は追加の緑カウントは必要なくなるので、基本土地の中で【森】だけは不採用になっている。
どうしても緑と白のカウントを満たせなかったので81枚目に【寺院の庭】を加えている。
記事にもあるが、本来2色以上の呪文を唱えるためにはさらにカウントをシビアにしなければならないが、世界樹への道とナイレアの存在によってある程度軽減できることを期待してタイトなカウントに抑えている点。

マナベースが1トーナメントに与える影響は、個人で実感できるほど大きなものではないかもしれないが、個人的には最後まで詰めた結果、満足の行くマナベースが構築できた。
それによるところかはわからないが、15回戦の中で色によるトラブルが起こらなかったという事実を誇らしく思う。

土地は大抵のデッキで1/3程度を占める重要な要素だ。どれだけ強力な戦術も、実現するための足元がふらついていては力を発揮できない。
これまでの調整の中で一度も妥協したことがなかったからこそ、今回の結果に貢献できたと思う。

内容の殆どがFrank Karsten先生の受け売りではあるが、あなたも今一度マナベースについて真剣に向き合ってみてほしい。

※移動中にパパっと書いたので、画像や不足分は後で追記します。

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