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トイレの蜘蛛、そしてスロダメ

前書き

「スロウ・ダメージ」とは2021年2月25日にNitro+CHiRALから発売された18禁BLアドベンチャーゲームで、作品のキャッチコピーは『裂かれた(ひらかれた)傷と、欲望』 という性的な意味じゃなくこれは痛いだろみたいな悪い予感しかしない文言だったりします。実際、これからプレイする側の人間を親獅子もびっくりな深い谷底への落とし方をしているという点で、容赦が無いといえば容赦が無い作品ではあります。私はゲームが苦手なのですが、友人に勧められたからという理由でなんとなく始めました。しかし、そんな私でもnoteに書かないといけないと感じるくらい、おそらくゲーム全体のクオリティは18禁ではないゲームと比べても遜色無いくらい高いです。そのクオリティの高さを保証するものは何なのか、これからこの記事で語っていきたいと思います。本記事が目指すのは「スロウ・ダメージ」の攻略ルートがそれぞれ過去-今-未来という観点から全く違うものである、という結論に至るものであるということが伝わればと思います。
それでは私の偏見による考察ばかりになってしまうでしょうが、お楽しみいただけたら幸いです。

それと事前に書いておくと、これを書いている私はまだ真ルートを行ってなく、またヤクザもの、銃火器、組織内抗争みたいなのが好きな偏った人間であることを記しておきます(そういった文句も言うので)。ということで、順番に、ゲーム説明は微妙にめんどいので公式サイトから拝借しつつ、タク、レイ、斑目の各ルートの「役目」を書いていこうと思います。

スロダメのゲーム性の気持ち良さ

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上記の画像が公式さんからの大まかなゲーム部分の内容で、シナリオに必要となる要素を図式化して説明してくれたものです。
このゲームは心理パートを行うことで対象キャラクターを攻略し、シナリオを分岐させ、それぞれのキャラクターのシナリオを進めていくゲームです。それには捜索パートという主人公が行きたい場所を選んで、その場所で出会った人と会話し、そこでネタを仕入れる、という一連の行為が重要になります。この会話で得たネタは心理パートの選択肢やルート分岐に強く影響してくるので、トワくん(プレイヤー)は無駄足でも良いからと全部回ることになるでしょう。でも、これが意外と苦痛に感じない。実際、行きたい場所などをクリックし、それに沿った行動出来るというのはたとえ無駄足であっても、主人公のトワくんにちゃんとした「目的」があるように思わせます。あとクリック音が気持ちいいんです。パキッとかパリッて感じで。クリック気持ちいい!

で、実際どの順番で攻略したの?

攻略順はタク→レイ→斑目でした。
今ではこの順番で正解だったなぁと思うんですが、それは三つルートとも「過去-今-未来」に対する立ち位置が全く違うからという理由からです。レイとタクは最初に攻略しなければ次に進めない第一ステップなのでタクが先かレイが先かで印象は少し変わるかもしれませんが、多分「役割」は変わらないので気にしないことにします。なのでタクルートの考察からしていきますね。対よろです。

未来から今へ、そして未来に(タクルート)

このルートはレイ、斑目ルートのふたつのルートよりも、かなり重要度が低いルートだと思っています。何故ならこのルートは「未来から今を語る」ルートであり、他のものとは別物であるように見えるからです。
タクは幼いトワくんを知っており、ずっと主治医をしつつ、ついでに行くところのないトワくんに住まいと仕事を提供しています。昼は病院の受付をして、夜にはバーに行き酒を飲んで、よく知らない誰かと性行し、無事に帰り着いてもテレビつけっぱなしで眠剤を酒で飲んで寝て、寝坊して起こされ仕事に行く。タクはそんなトワくんを自由にさせつつ迷子にはさせない、外から見ると過保護ってくらいに世話を焼いています。
それはなんで?というのがタクルート、と言いたいところですが、全然です。確かにタクの過去は語られますが、なにぶんこのルートのトワくん、タクの何もかもに興味が薄い。タクが巻き込まれている事件さえ、他人に知らされてから知ります。まるで空気。というかトワくんにとって空気なんだろう、と思います。なのでこのルートでトワくんは「タクを疑う」ことがありません。ついでにタクが知っているだろう自分についての過去にも興味が薄いです。というのも、これは既にトワくんがタクが何をしてても構わないと受け入れている前提で進んでいる「未来から今」に向かって描かれている事柄だから、と言ってもおかしくはないでしょう。重要なのは、ふたりにとって約束された「未来」へ収束するために「今」がどうなっているかです。なので最終的にタクの問題については事件が起こった故に清算され、タクと共に歩むと決めたトワくんの野放図な生活や「euphoria」の活動の清算もまた行われます。そして清い身になったふたりは「未来」へ歩き出す。そこに「過去」は介入出来ません。トワくんの過去の全容を知っているタクとそのタクを信じることに決めたトワくんの間では「過去」に価値は無いからです。あるのは「未来」だけ。
MAD ENDについてはこちらも「未来」しかないのでびっくりしました。緩やかに死に向かうこともまた、「未来」へ向かうことのひとつですから。

変わらない日常を(レイルート)

甘い日常が続いて何が悪い!平穏な日常の何がおかしい!幸せな今がずっと続くことを何故壊したがる!?そんなルートです。つまり日常という「今」この一瞬一瞬を選んだレイとトワくんは「未来」でもなく「過去」でもなく「今」を続けていきます。ルート自体はトワくんがレイの「どうしようもなく今を生きてる(by.VtL)」ところに惹かれながら、親子の因縁を断ち切りたいにも関わらずそれも叶わずに追い詰められていくレイをトワくんが支える、みたいな感じです。一番恋愛してたのはこのルートなのでは?と思うのはやはり2人ともが「今」一番幸せだからなんじゃないかと思います。ここでも「過去」は顔を出しません。レイのものは出ますがトワくんのものはあまり顔を出しません。レイはこのままの自分でも受け入れてくれるか的なことをトワくんに求め、トワくんはそれに応えます。それが「今」この瞬間瞬間を生きる、というのに繋がっているのではと思います。どんなに変わってもレイはレイだよ。
MAD ENDはまぁハッピーエンドといっても過言では無いのではないでしょうか。ふたりとも幸せだし。でも「今」の意味が違ってきました。死と隣り合わせのふたりは、穏やかなものではなく、もっと強く生々しい「今」を感じながら生きていくことになったので。これはこれで有なのでは。

停滞する「今」、繰り返される過去(斑目ルート)

キレ気味で攻略しました。そりゃねぇわ、と何度呟いたことか。斑目は中学高校生時代のトワくんと連んでいた仲。加賀というトワくんの腹違いの兄も加えてなんとなく一緒にいた、謂わば猫集会みたいなもんです。ですが、この関係はある日起こった抗争によって崩されます。加賀は撃たれて死に、斑目は表向きでは死んだことになっていた。トワくんの左目が見えなくなったのもこの抗争で撃たれたからでした。
そしてそんな斑目が実は生きていた、というのが分岐ルート、ということで特定の条件をクリアすると出てきてくれるルートですが、タクルートと対立項になり、レイルートの否定になる流れなのでタク、レイルートを攻略しなければ解禁されないというのは理にかなってるなぁと思いました。そういえばスロダメで面白いのはルートごとに全く話が違うところです。レイルートの場合はタクは事件に巻き込まれていませんし、タクルートではレイの親子関係の不祥事はありません。ただ似たようなものは見られ、このルートではレイルートの黒服集団が斑目になってたり、遠野(タクの同級生でヤクザ)がタクを接待していたりします。このルートではタクは既に事件に巻き込まれて(或いは巻き込まれそうになって)おり、その辺の事情を知っているとタクルートの裏側とも言えるのではないかと思います。そして尚且つタクはトワくんにとって「異物」となるような行動もします。その「異物」になるきっかけが、タクがトワくんから逃げて言おうとはしなかった、タクの知るトワくんの「過去」のことに関してです。臆病者!まぁそれくらい酷いんだと思いますが「今」や「未来」の基盤である「過去」を蔑ろ(と感じた)にされたトワくんは最終的に斑目のところに行きます。斑目は当然ご満悦。そして暴力とセックスの日々が始まるのであった。ところでプレイをしながら斑目という男が本当に可哀想で堪らなくなりました。多分ですが斑目とトワくんが加賀の不在で繋がってるからじゃないかなぁと思うからなんですが、その不在を一番感じて焦ってんのが斑目自身なんじゃないか、だからトワくんともう一回連みたいのではないか、と思ってしまい、こんなにも「過去」に拘る斑目は途方に暮れた子供みたいに見えちゃったんですね。スロダメって時折キャラがすごく子供みたいなこと(理由がなくちゃ動けないような、そんなことないのに見捨てられるんじゃないかとか、その場に蹲って心細そうに泣きそうなこと)言うので、この人らはもう成人してるから大丈夫なんだよね?って思ってしまうことが多々あります。斑目とかその筆頭。トワくんもむらせクリニックをクリックしたら「もう戻りたくない」って出てお前は子供かよ!!!!!!ってなったけど、心境的にはお兄ちゃんみたいな守ってくれる人から突き放された子供みたいな感じなんだよね…って思ってからタクは絶対自己嫌悪と後悔と諦念と罪悪感で死にそうになってそうで私が死にそうです。というのは置いておいて、斑目ルートはタクルートの「未来から語られる今」と対立する「過去の繰り返しである今」の話にあたると思っています。彼自身は「今しか生きてない」と言いますが「今」って言葉にしてしまったら、それはもう「過去」のものなんです。「今」は「今」と言った瞬間にもう「今」ではなくなるんです。レイのそれは「今」を続けるために一瞬一瞬を重ねて「今」を作り上げました。しかし斑目はそうじゃない。そうして「未来」も「今」もない混乱した「過去」の繰り返しのなかで、斑目も夢みたいなことしか語らないし現実感なんてない。「未来」や「今」が存在している日常から離別したトワくんは、そんな夢の中のような頼りないそれに賛同してついていきます。結果的に事は果たすんですが、まず言いたいのはヤクザの組って金策や人事、後継者選び、下っ端の尻拭い、新人教育、会社内政治などがあってもおかしくないような団体で、榊や遠野が言ってる「時代が変わっていくのに取り残されたら舎弟たちに飯を食わせられなくなる」というのと、それに邪魔な人間は切るってのは普通の会社でも行われてることです。喧嘩が強いとか仁義に生きてるとかいうのだけだと組は金が無くなって潰されるからある程度社会活動はしなくちゃいけないしそれが頭に無いならカリスマがあっても頭になっちゃダメなのは正論なんですよね。加賀は話を聞く限りそこまで優秀な人材ではなかったようで、なのに跡取りだと邪魔でしかないだろうとは思います。その取り決めやなんやらを道理を無理で抉じ開けたのが斑目で、正直ヤクザの掟すら守ってないのでコイツは極道ではなく外道です。本人は肯定しそうですけど。ハッピーエンドも「過去の繰り返しの今」と言っても過言ではないかな、と思います。連んでいたときのように、同じことを繰り返し繰り返し、外部を排除してふたりだけの世界を作る。斑目がトワに対して「同類だ」「お前しかいない」っていうのは思い込みたかっただけなんじゃないかとか思ってしまうのは私が捻くれてるからでしょうか。加賀が生きてたらきっとそんなこと言わないだろうし。重要度高めにしては、帰着が「脆弱で刹那的な思考停止」で良いのか?とは思います。27歳にして中学生みたいなことやってるのに全くおかしさを感じず寧ろ楽しんでるトワくん、藤枝が楽しみです。
MAD ENDは多分タクが可哀想。でもお前が臆病者だったから仕方ないよ。

ちょこっとメモ

ちょっとしたメモです。というか個人的に気になった点なので箇条書きでいきたいと思います。

・タクの年齢は若過ぎ(薬学部で修士とって医学部で博士取得とか45歳は無理あるくないか?)
・遠野はベレッタM92Fでは
・斑目はグロッグ17辺り
・ウィスキーはジャックダニエル、斑目ルートはハイネケン、アサヒスパドゥラーイ、スミノフ、バドワイザー(予想)
・トワくんの煙草はアメスピターコイズ
・榊逃走用車両防弾ガラスとかじゃねぇのか
・リークされた情報とか危なっかしくてデコイをいくつか用意するのが普通だと思うんだけど
・なんで襲名式に正装してこないんだこいつら…
・ていうかなんで鉄パイプあるの
・タクルートのテーマは女装、レイルートのテーマは暴力
・すげぇこのゲーム若中と舎弟使い分けてるぞ
・タクルートは全てがMAD


以上、今のところ個人的に好きなのはタクルートです。藤枝でどうなるかわからない。次は藤枝ルートも絡めた総評でも書きたいです。
最後にこの考察をまとめたホワイトボードの様子でも貼っておきます。汚いです。

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この記事を読んでスロダメが少しでも気になった人はダウンロード版もあるので今すぐチェック!
https://www.nitrochiral.com/game/slow-damage/





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