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読書譚12


2020年1月28日初版発行
著者:加賀 乙彦
発行所:講談社

【読書譚12】

昨年6月に地元のボランティア団体に入り、毎週日曜日に近隣市内に住む外国人に日本語を教えるようになってから、日本のことを教える難しさを実感するとともに、文化というものがいかに自国のアイデンティティを表すものであるかを感じています。

また仕事がら実務書に触れることが多いのですが、月に数回、こうした文芸書関係に無性に触れたくなることがあるなかで手にした一冊がこちら、「わたしの芭蕉」でした。

芭蕉と言えば「奥の細道」がとても有名ですが、たぶん芭蕉関係の本をはじめて手にしたのは、20代後半に秋田県に住む友人を車で訪ねることになったとき。この時、せっかくなので土地の歴史をいろいろ調べていたおり、秋田の県境近くにある「象潟(さきかた)」を舞台に一句詠んだ句が、芭蕉最北の地のものであることを知ったのが、芭蕉関係最初の本。今回の「わたしの芭蕉」は、私にとって芭蕉関係2冊目の本となりました。

象潟や 雨に西施がねぶの花


▽旅への憧れ

話は変わりますが、私の父親は観光バスの運転手として昭和~平成の時代を過ごした人でした。景気の良い時代であったのと勤務先から自宅が遠かったこともあって、父親が家にいるのは週に1回あるかないか。そんな父が帰宅するといつも地方のお土産を持ってきてくれたことは、必然的に私の旅への憧れこころを煽ったのかもしれません。

幸いにして今の私の仕事も一カ所に留まることなく、都内・大阪をはじめ、ときに近隣県や地方への出張をする機会が多く、仕事の傍らで旅心も十分満たされる日々を送らせてもらっています。


▽読後の変化

この一冊を通じてもっとも残ったのは、「漢字とひらがな」の効果と「推敲」の重要性について。

芭蕉の句と聞いて思い起こされるのはそれぞれだと思います。

夏草や 兵者どもが ゆめの跡
閑さや 岩にしみ入 蝉の声

これ以外にも句を挙げればキリがありませんが、そのいずれもが、漢字の表現か、ひらがなかが吟味され、かつ何回もの推敲を重ねたのち一つの句として成立するまでの過程が書かれているのがとても印象に残っています。

仕事柄、報告書の類やプレゼン資料、セミナー関係の資料などをつくることが多いのですが、「相手の琴線に触れ、動く契機になる」ことができるような物となるようこれからも精進をしていきたい。

そして旅への憧れを捨てず、多くの土地を訪れ、人に触れ、歴史に触れ、明日をより楽しむものにしていきたいなぁ…などとこの本を読んだ締めくくりに思い巡らす週末の夕暮れを過ごしています。




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