no.04-05(end)

PM8:09 金曜日   〖警察長室〗
「査問委員会がお前に興味をもってるらしいね。あの時何故御手洗に、説得を認めたのか…ちゃんと考えとけ。私は、お前とお前を慕う部下の隊は崩したくない。査問に潰されるな!あと、トキ……絶対係わってるはず。調べろ!」
 首、謹慎、減俸などは無かったが、何だか重い空気。まあ、いつも道理、スパイでも何でも来い!俺の俺だけの正義は折れないもんね!街から、岬までのvシステム解析して貰いましょう。トキのことだ、証拠残すわけねー まあ岬も行ってみましょう。
 
PM6:36   金曜日~  〖去りゆく部屋〗
 強い西日が、磨り硝子に色を落としている。黄色からオレンジへ。玄関のわきにすぐ“ブーン”と大きめの古い冷蔵庫。申し訳無さそうに、僅かな段差の玄関。一人そこにたつと、誰も出入り出来ない。突っ張り棒を柱に造られた靴のぶら下げ収納に、ローファやパンプスがぶら下げ等れている。
 上がると直ぐ、900×900の食卓と椅子が2客、台所がある。食卓の上には、近くのスーパーの名前入りの袋に、食材が入ってる。その下に、生命保険の証書のコピー。受取人が変更になっている。”園 ときお“と……
 両開きの磨り硝子戸の向こう側…小さなちゃぶ台。窓は、オレンジから紫、藍色に変わる頃、日本語だと薄暮…壁にタンスと三面鏡。きれいに、化粧品のビンが並んでいる。反対側は押し入れ。きっと中も整頓されて居るだろう。
 とっぷり日が暮れても、窓の外は、歓楽街。色とりどりの光がチカチカしている。昼間より賑やかだ。2重のカーテンは5分の2空いている。この部屋の主は、この光嫌いなはずなのに、まだ締め切ってない。ちゃぶ台の上に、もたれている。動かない。動かない。
 不思議な笑顔だ。押し入れ側を向いて、ほっぺたをちゃぶ台につけている。
   〖連続殺人犯 サタンハンド自殺か!?〗
 …自殺には、見られない箇所の骨折が、いくつも有り、その上の広場には、2個体の靴痕があり、自殺とかたずけるには……
 この記事が、ちゃぶ台とほっぺたの間に挟まれている。
 涙が、右目から鼻の付け根を伝い、左の涙と合流して、左耳を経て新聞を黒く濡らしている。
 ちゃぶ台の向かい側には、陶器で出来たカボチャの中に創られた、カボチャプリンとスプーンが、置かれている。まるで、お供え物のように……部屋は、相変わらず、チカチカ光っている。
動かない
       動かない  ぴくりとも
AM8:21 土曜日   〖茶山花〗
 いつもの茶山花だ。タマが居る。コレだけで、昨日と違う世界に居るようだ。自然に顔がほころぶ!ん?何故?解らないが、いい雰囲気。
  「何来たときから、ニヤニヤして見てんだよ~もしや惚れてることに気づいた?」
  「へ?昔からこんな顔だってば。あー止めて止めて。今頼むから!」
  「ブッブー  タイムオーバ~  ムサシだね!1575円ナリー」
 いつもの感じ。ヤッパリ、タマが居ないと、ダメなのかしら?考え込む私をよそに、楽しそうにフルーツを切っている。マスターもみゆきさんも昨日より元気そうだ。私だけじゃない?てことは、恋愛感情ではない?んー
  「へい!おまちっ!ムサシだよ」
  「ここ…割烹でも、寿司屋でもない。茶店で、出てきたのは、デカいパフェ。なんでその掛け声でパフェが出て来る?」
  「あー久しぶりに、インテリっぽいつっこみ聴いた!それ聴きたくて、一生懸命無い頭絞って、ボケてるのかもな~」
     カランコロン
  「へへっ!トキのおかげで、刑事には考えられない土日が休み!空けだ空け!!俺辞めるまで、グレーなトキで居てくれ! お前暇だよなっなっ ~中古車屋一緒にいこ!で、山行こ!カオリまだこっち居るし、Zで4ケツ!」
 勝手に予定が決まった。
「後ろ狭いから、ぴったりくっつけるぞ~タマ!」
  「いく!  ブッブーマナブもムサシ~」
  「ガッデム!忘れてた、まーいっか空けだしー」
  ひょこっとマナブの背中から、美少女…カオリだ。
  「んーっ」
  「あーハイハイ」
 ありゃあ~濃厚なキスだこと。タマ、ヨダレヨダレ。3人で分けて食べましょう。ムサシ!
ampm12:00 土曜日  〖そしてめぐり逢い〗
  「探してるのだ!CR-X!いい感じの」
  「腰痛い。何件目だよ~リョウジに頼もうよ~きっと良いの探してくれるよ。」
  「えー 私は嬉しい!ねー次は膝の上~」
 感想も様々。どうも、カオリとマナブの仲の良さに触発されているタマ。満足そうにペタペタしてくる。いやな気は全くない。可愛いし、良い香りだし。こんがり焼けた太もも美味しそうだし…
  「な-これ…」
  「ダメ!左に傾いでる。エンジンもいじり過ぎ!あーこっち…」
 1500ccの載ったCR-Xを指差す。
  「どうせイジルんでしょ。ボディがしっかりしてるのが良いよ。コレなんか、シャンとしてる。ほぼノーマルで、タバコの匂いも無いし34万……もうちょっと値切っても……」
 カオリとタマは、向かいの茶店に居る。
例の感じで値切り中のまなぶ。
   「やー店員さん?良いねーこのCR-X!まま、ゆっくり奥で話そうか。店長さん?君も来るんだ。カツ丼喰うか?」
 何かチョット違うような…まーいっか~あー懐かしい。TDR250!2ストオフロダー。まークネクネしたチャンバー付いてますね~マジマジと見ていると背後から、穏やかなテノールの声。耳に優しく聞こえてきた
  「いらっしゃい。若いのに渋いバイクの趣味ですね。私の大事な娘だ。さっきの明るい人も、マニアックだ…どう?乗ってみる?」
  「ココの子達満足げ~!!現役感…凄い出てるんですよね、あなたのように。」 
 少し汚れた、白いツナギ。手はあれている。年の頃なら65から70の先代って感じで、喰うための仕事じゃなく、自分の満足のための仕事ってかんじだが、ココの車達のよう現役感がある。
  「さっき、君があの車選ぶまでの話し、聴くとも無しに聴いていて、素人じゃないぞと見ていたのだ。」
  「素人ですよ。プロはあっちの店でお茶してます。レストアしてる友人が居て、たまに手伝わされるので、シャンとしてるボディは解るつもりですけど」
 パシッと、受け取る。放物線を描いて投げられた、艶消し黒のジェットヘル。
  「暖機して下さい。最近セッティングやり直したばかりだ。感想聞かせて。おーい かずお!それ売るな!同業に馬鹿にされるぞ!このお客さん達ごまかせねーぞ」
 ガチャッと、事務所の扉が開き苦笑い。
  「はは、よーく解りましたよ。CR-Xへのこだわりと、走りへの熱い気持ち?一緒にオークションに行って、良いの探してくることになった。奥でやつ泣かされてるよ。あの聞き上手、説得力、話術は何?」
  「話し好きな、地方公務員。ココ良い店ですね。車が好きそうだ。借ります。」
  「私も~…」
 カオリとタマが戻ってきた。
  「嬢ちゃんも良いぞ…どっかで見た?後ろの嬢ちゃんもどっかで…」
 息子が、バタバタと雑誌をさがす。
  「とーチャンコレコレ! カオリだよカオリ!!勝利請負人!二輪四輪にスポット参戦のスペシャリスト。男から女へ。でも速い!…」
 「あー どうりで、って可愛すぎ。本当に元男?26歳?」
 事務所から出てきたマナブにペタッとひっつく。
  「悪いな~面倒な客でさ。ああこいつにもあれ乗せてやって!」
 「とーチャン!とーチャン!ほーけてる…良いですよ。とーチャンカオリのファンなんです。後で握手とか、色紙に手形とかお願いしても…」
  「ホラーカオリ、君のファンだって。サービスしてあげなよ。あれ乗ってみたいんだろ?」
 コクンと頷いて、つなぎの親父さんに近づいて、
  「じい…名前…」
  「エイジじゃ…おー近い近い。サーキットじゃ、卵位の固まりにしか見えんから…あんなアグレッシブな乗り方するカオリが、こんなに可愛くて小さいとは。どうしてホンちゃんで、コケたこと無いのじゃ?」
  「エイジ…解るために、乗る…後ろ…ゴメンマナブ。目つぶってて。」
  そんなやりとり知らずに帰ってきた私。
    スパパパパ
 「カオリ、8500~12000 一番美味しいのは9500付近。エンブレ無し、タイヤプア、フロント柔すぎ、ココの道、ギャップ多いからきおつけてって親父さん?」
 「カオリ流ファンサービス。社長紐あるか?」
 ??の顔で、パタパタと持ってくる。マナブが、2人を結ぶ。
  「プライド傷つけたかも、でもヤバいから。直ぐ解る。」
パウーンと、飛び出してゆく。
…………………………
  「68にして、イっちゃってるね…」
  「その様で、」
 にへら~と顔は笑って居るが、体に力が入ってない。股間が…
  「元気なじい 好きだぞ」
 とほっぺにキスしたもんだから、白眼だ。
  「死ぬまで、カオリファンで居る。あんた旦那だろ。辞めさせんなよ。レース!それくらいの甲斐性の無い奴にはカオリは渡さん!」
  「じいも…セット甘い…コレじゃ65%しか私力出せない。修行し直し。エンジンは良いけど、足まわりお粗末。自信のセット出来たら…連絡…また後ろ乗る。」
  「おーありがとよ、生き甲斐作ってくれて。連絡するよ。コレからもコケないで、目一杯助っ人頑張れよ」
  へーこんなつながりも有りなんだね。マナブに感謝かな。
PM6:27   土曜日   〖山ガレージ〗
  「おせーよ、腹減った。とっとと喰おうぜ~」
 トングまで食いそうな勢いのリョウジ。ほんとに待ちくたびれてたらしい。炭はすっかりいい具合。皿も、アルコールも、肉も、野菜も、準備済み。
 「 後片付けは、4人でやれよ。酒はおごってやる!食材は、割り勘だぞ!ハイトキ、レシート。喰おうぜ~肉肉!」
 あれま…リョウジには有り得ない!コストパフォーマンスの良い肉だこと。タレが市販のに一手間加えたmonoですね。教育されている、アユミに。
 こっちは、今年の仕事。映画一本決まった、女優の“響      りこ”と、マネージャー兼社長兼夫の”響  わたる“りこの連れ子“みく”すっかり里山の家族。山の中腹にログ建てて、休みの日は、山仕事をしている。父母が長期居ないときは、山葉の家にいる。まるで二つで一家族のように仲がよい。クロラブのラッキーも忘れてはならない。妙に人を見ている賢い犬だ。みくにペタッとひっついている。ナイトの様なのだ。つまずく先に、ラッキーが必ずいて、ブロックしているし、山で出くわしたマムシも、まさに命がけで救ってくれた。みくの頼もしいナイトだ。
 寂しそうな人が居ると、みくの元を離れて、その人にひっつく。別に何もしないが、多分慰めてるのだろう。撫でてるだけで、癒される…
  9人と一匹。犬には、考えられない味付けなので、”超薄味の特製温タルタルドッグフード添え”を一緒に味わう。
  「なあ、ラッキー。3時間は食事するから、一気に喰うなよ!約束?いいな!……待て……!よしっ!……だから~」
  いつもどうり、数秒で無くなりすっかり手持ち無沙汰……口持ち無沙汰になってこっちの食材を、恨めしげに見てふて寝してる。みなに笑われて、ますますいじけ顔。
  「賑やかで良いねー幸せそうだし!」
  「あらー田沢さんこそ…ねーラブラブで、」
  「リョウジの所も、落ち着いたというか、諦めたというか。」
 アレー、何故こっち向くかな…。タマは、焼くのと喰うのにみくと夢中。私?発言しろと?
  「ねートキ?4年も想われてて、まだ観念しないの?」
  「観念って、そりゃタマに失礼ですよ。まあ…ねー」
  「嫌いじゃねーのに、今流行の草木系ってやつか?もしや、俺が好きとか!すまん!俺はカオリが…」
  「あーハイハイ。私の性の対象は女。草食系でもない。AV見ればフツフツくるし、タマも可愛いし、失いたくはないけど……」
  「えっ!今のホント?おおーまた前進!押し倒すのに~」
  「けど?」
  「昔のトラウマがあって、えっと、これから先は、イツキが揃ったら、全部話すよ。タマとカオリ、リョウジは知ってる話…」
 すーっとラッキーが、私の側でふせをしてる。ありがとうの思いを込めて、頭をなでる。
  「後一つ。私は待ってないぞ~トキよりいい男がいたら、あっという間に忘れてやる。私の気持ちは私の物だ!」
  まー男っぽいこと。そんなとこも、好いね。
  「そっか、じゃ今日は酒の肴にならんな。リョウジで良いか~カオリ、ダイエットコーラったって、飲みすぎはダメ!コレめっちゃ薄いから呑んでみ?」
  「んーまい…体が熱い!もっと!」
  「おーおー飲めたなーじゃーもっと薄いのなー」
 まるで親子だ。でも2人がその距離で良いなら人がとやかく言うことじゃない。楽しそうなカオリの顔良いね~。
  「リョウジ~工場貸してよ~ねえん~」
 カオリとマナブがしなだれかかる。あり?アユミ…ワナワナしてない。そっか…結婚式してないけど、籍もまだ入ってないけど、夫婦なんだ。居なくなる、取られるとか言うの超越したんだ。にこやかに、タマとみくと遊んで居る。へーアユミって可愛かったんだ。あっ、タマがみくの耳塞いで、顔赤くして熱心に話を聞いてる。性格と性癖は変わってないようだ。
  「ダメ!一台で手一杯、場所イッパイ。自分で建てなさい。リフトとか安いの探してあげるから。」
  「えー そこからやるの~壮大な話だ。」
  「んーっんー」
  「作ろうよ!って? ここにマナブの帰る場所……バッカヤロ泣かせること言うなーカオリは……」
 膝にうつ伏せのマナブ。背中をサスサスしてるカオリ。しかし、“ん”でマナブには通じるんだ~
  「うっし!俺も男だ!」
  「元男だ!」
  「家でも、股間でも立ててやる!」
  「そーそー でおかわりコレ」
 カオリが、カクテルに目覚めた!これで、大量のダイエットコーラ買わなくて済む。ニヤニヤしてハイハイ言いながら、ビールとトマトジュース、オイスターソースなど混ぜてオリジナルレッドアイを作ってる。そのマナブを見てにやけるカオリ。とばっちりがこっちに……
  「ばっきゃろートキ!トラウマだかイノシカチョウだかしらねーけど、嫌いじゃない女に言い寄られてよ~その女がよ…5年もキスしてねーっつの!」
  サメザメ
  「失いたくはないんだったら、キスぐらいシロってんだよ。抱くの躊躇するのは、……ケドナ!マジで思ってくれる奴胸に落ちるぞ!」
 大分酔ってる。けど、本音だね。じーっと見ないで、湿度85%の視線はだるいッス。……んー……チュ!
 わー泣くな~どしたらいいのこれ…ねー
  「アホ。ホント自分のことだと、きゅーっと抱いててやれよ。」
 もーメンドイ!けど暖かい。でもメンドイ!気持ちいい!訳わからん?てかしちゃったね。こんなに酔ってて覚えてるのかな?少しは独占欲が出たかも…他の奴に、キスされたくないぞ。

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