no.06-05

PM2:29   月曜日   〖チェーンソーと女優〗
 はー最近の若手女優の中でも、実力派のリコだよな?見事な鷹の置物だこと…この番組信用してなかった。どうせ、他のもんがやってんだろ?観客も解ってんだろ?なんて…見方が変わった。凄い真面目で、好きなんだ…アウトドア。観客に紛れる。
  「そうね~庭に、レンガの竈とか作ってみる?庭ある人手アゲて……以外と居るね。じゃー企画決まり!庭でピザを焼こう!
 パチパチと声援があがる。凄い行き当たりばったりライブ録画番組だったのね~。
  「窯のデザインお客さんに任せて、そこの男性2人!手伝いなさい!フルーイ誰でも出来る水平の出し方…水式するから。いくらデザイン良くても、基礎がしっかりしてないとね!仕事も、人生も基礎よ基礎!私、スコシ前基礎壊したけど、新しい基礎作って、今居場所作ってる最中~…笑いごっちゃ無いわよ~離婚だわ、子供居たってカミングアウトするわ……なんでこんな事話してんの私?基礎作るよ!」
 へー清楚で取っつきにくそうな人かと思ってたけど、さっぱりした性格の人だ。参加してるのは、6家族17人。子供もいる。
  「ハイハイ、ココ20㎝位掘る!真ん中もう少し適当に掘る!でこの器具と、板と釘と水糸ね~」
 何故か俺も掘っていた。元々、好きなタイプのリコ…近くで見たかっただけの理由。体動かすうちそんなこと忘れていた。
  「ね~透明なパイプの中の赤い水、これが一定なの。4カ所コレ見て板にくぎ打って糸張ると…コレが地球に対して水平…コレを基準に…」
 コレ3泊4日で、今は一日目。基礎入れて後はレンガや耐火セメントをホームセンターに買いに行くらしい。凄いライブ録画だ。私は途中で畑に向かう。
  基礎ね~俺は独りで勝手に作って無いだろうか?家族なら、夫婦なら、親子なら…それぞれ関係の基礎ちゃんと合意して基礎が作れてるのだろうか?
PM3:33   月曜日   〖宝の山〗
  「あーチチだ」
 最初に気が付いたのは、ミキだった。携帯灰皿に半分用の終えたタバコを押し込む。まあまあの広さの土地に、沢山の野菜…げっ!あっち麦畑?しかも国産の種“ハルユタカ”へー。こっちは、田んぼの予定…えーこの池も人口?”3の池“って後二つ在るんかい!何やねん!あの若者ども~ただ単に、田舎を懐かしむだけじゃないんだ。自然に帰る、新しい共生をやろうとしてるのか?
  「あなた…手ぶらなの?お茶とかお菓子は?」
  「あ…気が付かなかった…夕飯作るから許せ!」
  「…ハイハイ、気にしてませんよ。ココにあるし!ただ…まーいーや」
 気になるな~てなわけで、使う野菜をもいで下って行く。近くの町に買い物へ…何を言いかけたのか…それが俺の欠けているモノ?
あーったく!今までこんな事考えなかったのに、ここが悪いんだか、時間が有りすぎてこうなんだか。忙しいと家族の事なんか年に3回位しか無いのに…近くの町近く無いじゃん!駄目だってば…今まで先送りしてた問題が押し寄せてくる。
 俺は、両親に愛されていたのか?本当に俺は2人が嫌いなのか?振り向いても居なかった時、良く拗ねて気を引いた…あれを踏襲してるだけ?
 俺は本当に家族を愛してるのか?子供の笑顔も作り出せない影響力の無い俺でも、好かれているのだろうか?
 仕事していて、社員のため、会社のためとやっていれば、良い社長に写るから…忙しくして家庭から逃げては居なかったか?
  うだうだと考えながら、作ったタコスに角煮にゴーヤチャンプル。沖縄の夕げ…
  「なーさやか。まーいーやって…何?」
  「良い?簡単に教わったことは、簡単に忘れるの。考えなさい!最終日までに解らなかったら、離婚よ!」
 げっ! にこやかに笑顔だけど、この離婚というセリフ、マジで怒ってる。2度目だ…1度目は、浮気したとき…おでこが削れるくらい土下座したなぁ~それでもさやかが良いところは、情けない姿を子供には見せなかった所。両親にも。男のメンツは潰さない賢いところ。おかげで、会社に精力を注ぎ込めた。
 そんなさやかが、怒っている。静かなのがまたまた怖い。ヒステリー起こしたり、泣いて暴れたりしてくれた方が、よっぽど騙しやすい。それまでお見通しなのだろうか?
 だから考える。あのシュチュエーションで“まーいーや”何だろう?
  「まさし、美味しかったよ。ありがとう!」
  「ん~どーいたしまして」
  「チチ、美味しかった。御馳走様。」
  「御馳走様。ありがとー」
 3人から、お礼のほっぺちゅー!すごい久々だ。嬉しいもんだね。コーヒー入れて、俺は後かたずけ。最後までやって、料理の精神が叩き込まれてますから。リビング…ログ狭いからすぐそこだけど…でまったりくつろぐ5人…あの中にはいるのは、まだ出来そうにない。さやかからの宿題に答えなければ、マジ離婚だ。ビールを持って、今日はそれだけでウッドデッキのディレクターズチェアーに腰掛ける。つまみは角煮…良くできた…イヤ、そうでなくて~ 
AM7:05   火曜日   〖レストア〗
 今日も朝昼母とさやかで、夜は俺…すっかり当番のようだ。オヤジは工場、後は野良仕事、ここのアユムさんも行ってるらしい。
  「気が遠くなる。コレ全部削るん?特殊な液体があって、かけると溶けるとかさ、おーきな洗濯機が…」
  「無い。手間が金になるんだから。」
 言い返せない。オヤジの小さい手でも、俺やリョウジさんの大きな手でも、紙鑢のパットの大きさは同じ、エアーツールである程度地金が見えてるが、残った所は、手作業だ。すげーパテの盛りよう…いい加減な板金屋多いんだね~
  「…なぁ~チチ…俺の倍近く生きてて、いつが一番良かった?」
  「…どした?」
  「別に…わすれて…」
  「今だな。相方は可愛い、嫁は賢い、孫は元気だ…まさしは何を捜してる?」
 意外だ。若い頃か、会社が右肩上がりの頃かと思ってた。
  「仕事は仕事。お前じゃない。何かを得るための手段だ。自己を投影するな。」
 ボソッと言って、車に向き直る。それは自己の反省のようで妙に胸に刺さった。そういえば、損得抜きの友は、遠い存在になってる。自分の居場所が会社しか無いような感じ…オヤジも通った道なのか?だから気付かせたいのだろうか?
AM12:00   火曜日   〖まさしの居ない工場〗
  「まーしーすげー顔して、悩んでたよ?何にも言わないの?」
  「いえた義理じゃないし、10歳までに厳しく教えてあるから。大人だし、こんな爺さんの説教は聞かんじゃろ。近すぎるからな。良い先輩が居ればのー」
 そんなもんかね~
  「簡単に言われたことは、自分で咀嚼しないと簡単に忘れる。自分で気づかないとな~」
 とわかばをプカリ。きつそうだけど、甘い香り。元大企業の社長らしいお言葉…
  「歳を取って、先が見えてからやらないとイケないこと、やるべきことって何かわかるかな?」
  「わかんないって!社長とは言っても2人だし…20代だし、今で無我夢中ですよたいちゃん」
  「人を育てる。繋げないとな色々とさ!君…リョウジの技術も、誰かに渡さんと…人に教えることが出来て、始めて一人前じゃ!」
  「そんなもんですか~」
  「そんなもんじゃて」
 爽やかな風に舞う、パテの粉が鬱陶しい。タバコの煙が2つスーツっと青空に消えてゆく。どうみても、小さな爺さんだけど、デカくかっこよく見える。
PM1:21   火曜日   〖畑&炭小屋〗
 オヤジもリョウジさんも来てる。炭を焼くらしい。掘っ建て小屋の脇に、煉瓦作りの窯が、伐採した建材にならない木を、窯に並べ土曜日まで火を炊き続ける。まーめんどくさそう。買ってくれば?いちいちやるんだよな~。畑組は、牛豚鶏やぎ合鴨の世話に行ってる。工場組だけで…腰痛い!天井低いから!90°の会釈して移動してる感じ…
  「お前ら、炭くらい買って来いよ~」
  「可哀想でしょ?せっかく産まれて育った木をだだ棄てちゃうの。それこそecoじゃない。」
  言われて見りゃそうだ。エネルギーが有るのに手間を惜しんで棄てるのは勿体無い。
 俺のやろうとしてる、首切り…勿体無い所はないのだろうか?必要な人材も、チチ親世代と言うだけで、リストに入れてないだろうか?
  時間が有りすぎて、考えることが多い。ココからみる街の自分は、どうも滑稽である。
  無理して、オヤジに抵抗してる子供みたいだ。振り向いてほしくて、認めてほしくて、自分を大きく見せることだけパタパタとせわしくしている。これは自分じゃない。
  俺はもっとお人好しで、アホなこと考える奴だったはず…
  「誰が誰だか…見事に真っ黒ね~」
  「ハハ!コレチチだ!」
 たつみが、微妙な位置を叩きながらのたまっている。そこ少しズレると、オレの俺だ!
しかし、畑組は……
  「くさっ!有機肥料くさっ!」
  「良い鼻してるじゃん。肥料作りしてたんだよ~イヤーココきて良かった!野菜や肉って、買いっぱなしだったけど、ピーマン一個、唐辛子一つ得るにも、手間かかるのよね~」
 ありゃ。あのさやかが2日目にして洗脳されてる……てか、元に戻ってるのかな?
 うちだって、農地の自由化が有れば…会社単位で畑やりたいよ。自分ところで作ると、コストはトントンか少し高くなるけど、イメージアップ戦略になる。安心安全、オーガニック。規模が大きくなれば、野菜商品単体でのお届け会員制の事業や、海外輸出も出来ると…
  畑仕事ね~経験しときますか?
  「あなたは、夕飯の支度!戻ってシャワー浴びて買い物行かないと~今日は?」
  「中華にしようかな~」
  「ミキも行く~」
  たつみもミキの服の裾握りしめている。ハイハイ…
  「一緒に風呂入るか~すげー久しぶりほら行くぞ~」
 すげー自然に子供たちがぶら下がってる。家族……まだ、最小単位の社会から見放されては居ないみたいだ。
  「お前ら重くなった。げっ!体力筋力つけんと、おまえ等と遊べないな~」
 しみじみ口にして確認。
AM7:38   水曜日   〖畑仕事〗
夕べの中華…なんだかんだ言って、野菜がうまかった。味が濃いって言うのか、ピンとしてるって言うのか、生命力がパンパンなのかわからんが、旨い。
 栽培法を見に…これ着ろって?……見てるだけじゃ許されないようだ。腰筋肉痛だっちゅうのに!いつのまに俺のサイズの作業着まで…
  「こっち半分は、お休みさせるんだって~お休みの手助けしてあげて!私は、向こうにブロッコリーとか冬の支度するから。ミキ、たつみは最初水汲みだ!頑張れ~」
  近くの農家の青年団にいろいろ教わって農作業してる。
  「まさしは休みの畑の方ね~まずこーやって土をひっくり返して!はい鍬ね~」
 なーんだ!楽勝楽勝~イボイボ付きの軍手をして、やりましょう~
  「どうしたのかな?まだ15分だぞぉ~力の入れ方が無駄なところがあるようだね!」
  「上から目線だな!ふん!まだまだ!」 
 やべー…こんなに運動不足だったとは…腕と腰がプルプルしてる。
  「こんな時は、どうすればいいのかな?んっ?」
  「あーさやか教えろ!コツ!おまえ俺より筋力無いくせに、ずっと一定に鍬振ってるじゃないか!」
  「嫌!教わるときはどう言うの?子供のお手本になるように、美しい日本語使いなさい。」
 あれ?もしかして前の、まーいーやの答えがココにあるのかな?そういえば、ココ7年位言ってない単語が数個有る。
 まず、疲れや、こつを教えてくれない怒りは置いといて…今は、知りたいのだ。知ってる人から…
  「さやか…教えて下さい。鍬の使い方のコツを…」
  「いいよっ!こーやって…」
  「おー楽!ありがとう!」
 これだ!教わる姿勢と、心からのありがとう。
 社長と言う肩書きで忘れていたものだ。夕飯の時や、俺が何かやったとき、必ず子ども達やさやかは、ありがとうと言っていたな。さやかはちゃんと躾してるな~。オレまで躾られたようだ。そうだ…ハハにもチチにも昔言われた!そうか…忘れてたんだ。
  「チチ…どうした?どこかぶつけたのか?」
 心配そうに、ミキが覗き込む。どうも焦点が合わない。
  「んっ?何でもない。なくはないか~優しくて、幸せな子に育ってくれて、ありがとう。俺も…イヤ、チチも変わるぞ。」
 不思議そうな顔してミキとたつみが脚をぶらぶらさせて騒いでいる。
  「ちち、まだ力有るじゃない!イヤ~ホッペじょりじょり~タバコ臭い!下ろしてよ~」
  「や~苦しい~ムフフ♡ねーちゃんタッチ!!」
  「たつみのスケベ!チチ離して~」
 生温い…幸せってこんなんなのかな?   

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