被写体深度 017

《2020年5月》

「お母さん。わたし貴女の娘だよね。」

洗い物手伝いながら、笑顔の仮面を外して、最初で最後のつもりで質問をした。
完璧な答えなんて求めてない。狼狽えて貰いたい…一緒に考えて貰いたい。同じ時間を過ごしたい。
あの写真集の最後、タダのにこやかに笑う家族の集合写真…小さな字で(この世で最も残酷な写真)って書いてあった。
真ん中に若い男性。制服?…作業着?ってくらいの粗末な軍服。
覚えてる小説の中で、家族に軍人が居ると、配給が優先的にってあった。だから?本人も家族も笑顔?だとしたら、本当に残酷な写真だ。それぞれが、家族の事想って精一杯の笑顔。
私、甘えさせてくれないだけで、目一杯スネている。だったら、本気で甘えさせて貰おう!受け入れてくれなきゃ、それまでだ……
私から、ボールを投げてみよう。

「何を馬鹿な事……」

私の真剣な顔に、セリフが止まる。洗剤のついたままの手で、私の頭を胸に押し付ける。
アマイ……懐かしいかおり。ヒックヒックと聞こえてくる。私も、忘れていた生ぬるい物が目から出て、アマイかおりの薄ピンクのセーターを、濡らしている。

「そんな…寂しい想いさせてた?"手の掛からない良い娘"に甘え過ぎたかなぁ?
ダンナは、給料こそ安いけど、真面目に仕事して、この家がある。
私もパートで…娘は天才で、良く出来た良いこ……あれ?」

「いつ抱いてくれた?
いつ叱ってくれた?
今みたいに一緒に泣いた事ある?
何もないじゃん!いないのも一緒だよ。感心ないんじゃないの?私ね、復讐するために、いい娘演じてたの。
でもね、たった今、確認したくなったの。私の事好き?本当に貴女の子供でいいの?ナニこんな事質問させてるの?」

その後、何話したか憶えてない。遅くに帰ってきた父が2人を見てびっくりしてたのは覚えている。
私は、言いたい事言えて、抱いてもらって、一緒に泣いてそれで満足した。

ここに居場所がある。

小説やお話で、動かなかった感情が、写真集2冊で変わった。最後のページのクレジットを見る。

プロデュース アラン
フォト 聖川 克樹

引っかかる。自分の写真集で、自分の写真なのに、プロデューサー?

《1988年6月》

「生きてたんだ。スッカリ死んだと思って、荷物整理してたよ。」

「アラン。何自分のテントに運んでるんだよ。整理じゃねーだろそれはよ。暇になったか?」
あの山津波は成功して、休戦状態。話し合いの最中だそうだ。全滅……戦争中の人は愚かだ。沢山の命が差し出されないと、気が付かない。

「あはあは。MO3て軽くて良いなー、なんてさ」
油断も隙もない。うかうか死んでられないじゃん。

見た目は静かな街に、2人で繰り出す。プレスの腕章と、カメラぶら下げて。明日は帰路につく。目に付くもの写しておかないと。

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