被写体深度 13

《12より》

「他人様に、迷惑がよ。払っておけばよ。」
他人様…良く言ってたな。


3年仕事が続かない男。それがオレの父だった。
父は、"子供が好き"な大人だった。
よく遊んだ。"子供"と遊ぶのが好きだったのだろう。多分父親の自覚は、これっぽっちもなかったと思う。
怒られも、殴られも、泣いたり、ハグしたりが全くない。いつもニコニコ遊ぶだけ。

記憶には、母の顔はない。
鬼の様な顔の女の人は、どうも父の話しによると、夫婦喧嘩のとき、オレをベランダまで持っていき、"棄ててやる!"と、オレの生命を喧嘩の切り札に使ってたと言うのだ。
その時の顔が刷り込まれたのだろうか。

こうなると、頼れる大人を探すのが、子供の本能で、近くには"お祖母ちゃん"しかいなかった。
「おーいいブロッコリー出来たで、持っていき。」
ここだけ聞くと、人の良い優しい "婆さん"だが、
「こうしておくと、お返しが来るんだよ。人様には親切にしとかなきゃ損だ。」
と、裏で言っていた。

この大人の品性を、疑い始める。

小学校高学年になり、やはり父親は居たり居なかったり…やっぱり"お祖母ちゃん"と一緒の日々。
父の借りたサラ金への入金の為、毎月街までつきあわされていた。母親は気配も感じない。

ある日近所の仲間と、竹で弓矢を作り遊んでいた。流石に、スグ飽きてアレンジしようと考える。

「なあ、大河ドラマでよ、火のついた矢が飛んでた。カッコ良かった!」

早速再現しよう!という事になり、誰かの家から灯油くすねて、雑巾もくすねて、マッチで火をつけ……
ヒュン ヒュン
それが、畑の枯れ草に燃え広がり……みんな真っ黒になってやっと消し止める。パートから帰った"お祖母ちゃん"にどうせバレから報告する。ぶん殴られるか、泣かれるか覚悟していたが、"お祖母ちゃん"の反応は、予想外だった。

ぶすっ? 包丁?正座してる畳の膝先に、刺さっている。

「そんなに死にたいのか?ほら殺れよ。この家焼けたら何処に住むんだ?お前がいなけりゃ、田舎に帰ってノンビリ暮らせた。私の金で暮らしてて、まだ苦しめるつもりか?」

ぱつーん
《14へ続く》




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