no.06-04

AM9:52   土曜日   〖五戸家〗
 保険屋…以外と夢中でログ建てている。好きなんだこういうの。基本的に、器用なんだな~昼飯は、新人の登竜門!五戸家と一緒にやって貰おう!
 赤いヨタハチ…リョウジと五戸家のじいさんを知り合いにさせた車だ。赤だとまるでサツマイモのような、かわいい車…
 ここに、強引に家族を連れてきたのは、この爺さんと連れ合いの婆さんだそうだ。五戸家は、小さな弁当屋から始まって、今や外食業界5指に入る”さいかい屋“の創業家。今は、一人息子に社長の椅子を譲り、相談役に就いてる。この二人、仕事バカで不器用。若い頃遊ばなかった分、今反動が来て居るらしい。ついでに、孫が出来た頃から、自分の息子に罪悪感が湧いてきたそうだ。仕事仕事で、どこにも連れて行かなかった…クリスマスも、正月も、夏休みも、運動会も…写真の数も少なく、かわいい頃の息子とキャッチボールしたことも…
 五戸家は、平三爺さん、さくら婆さん。一人息子のまさし、嫁のさやか、2人の間に、長女の長男の6人。
  「あー平三さん!ご無沙汰してます!また、番組作りましょうよっ!提供さいかい屋で!」
 “女優 響りこのアウトドアライフ”の撮影に来ていた、背中に赤いセーター背負ったディレクターが、にこやかに話しかけている。さやかさんとさくらさんは昼何にしようかと考え中で、ローズを中心に、チビすけコミュニティーも出来つつある中………
同日  同場所  同時間   〖まさし〗
 俺…何でココ居るんだ?しかも、1週間?たく~オヤジ最近壊れてきた。コレ俺への謝罪のつもりかね?今さらなんだかな~そりゃあ昔は寂しいとか思ったけど…会社遺してくれて感謝してる。オヤジやオフクロと違って、年一回は子供とさやか連れて、1週間旅行もしてやってるし、写真もムービーも残してる。これから、太りすぎた会社をスリムにして、新たな体制でグローバル化!世界進出をしようと思っていたのに…まーいっか!休み明けに、大規模リストラ…古クサーイ高年収の者達をバッサリ…そう、おやじ世代の重鎮には消えて貰う。
 しかし、ここは何なんだ?こんな若い奴らが、新しい里山作るって…時代に後退する…それとも最先端行きすぎてるのか…まあ俺には関係ない。何しててもいいなら…しかし…うちの子供らはしゃいでるな~うっさい!
PM6:03   土曜日   〖里山予定地 夕飯〗
 めんどくさいから、バーベキュー&カレー。人数多いし…随分珍しがってくれた!2升焚の羽釜。熾火に炭、火力上げるときはボンボン藁で、お陰で御飯炊く人は、付きっきり…私がやりました。火加減だけ。刃物持てないからしょうがないよな~。
 しかし、やけに馴染んでる保険屋…あのめんどくさい人知らないうちに仲間になってそう~悪い人じゃなくて、めんどくさい!一人いるからそのキャラは要らないんだけど。
  「ね~ハハ!ご飯が美味しい!」
  「おいしー」
 長女のミキちゃんが、自分の母親に事を“ハハ”と呼ぶのが、面白くて可愛い!その後必ず短くセリフを復唱するタツミ君も、セットで可愛い!ヘイゾウさんも、さくらさんも和やかだが、独りだけ浮いている男…どうも全く興味が無いようだ。父親兼社長のまさし。火から一番遠ざかって、アウトドア様のディレクターズチェアーに座り、足を組み10インチのタブレットで仕事の新着状況を見ている。あの空間だけ、街のオフィスだ。
 その周りを、テンション上がったタマとちび同盟がキャイキャイ騒いでおる。子供は一度テンションあがると、疲れるまで終わらない。
  「コレ トキ!ボクが狙ってる王子様~タマのディフェンスが堅くて…」
 と、まあいつものように、胸に抱きついている。それをいつものように、引っ剥がそうとするタマ!
  「アホローズ!元々私の彼氏だ!トキ~何故許す?」
  「そう…トキはキズき始めてるの…ちょっとした過ちだったと。ボクに先に逢っていればってね~だから拒否しないのさ!」
  「キー んなわけないやろ!」
 あーまたいつもの…目の前真っ暗…美味しそうな太ももをタップする。残念な胸…ってローズと同じ位なのがほんと残念。
  「また関西弁?ヤーネかわいい子絶賛発売中って感じで~ホラホラ、トキ触ってみて!タマより大きいぞ~」
 ムニュ…目の前真っ黒のまま、両手を導かれるままにしてると…コレ胸だよね?ほんとに、タマと一緒だけど、押し返す力が強い!暫くすると、視界が開けてやっぱり胸だ…
  「触るな!揉むな!感じるな!トキ!」
  「トキに怒るのは違うわ~ボクが触らせてるんだから。モノの本質は、感情で流されてはイケないのだよ~タマバア!」
 どっちが大人だか…ミキちゃん、タツミ君、きょうかがグルグルと走り回り、何故かローズの応援してる。ほんとに子供の社会は、私も通った道なのに、理解不能だ…可愛いけど。
  「ローズ~大人の匂いって、安心するのね~タツミとトキの匂いこんなに違うんだ!」
 私とタツミに交互に抱きついて比べているミキちゃん。抱きつかれた余韻を楽しんでるタツミ君。ほんとねーちゃん好きなんだ…
  「うるさい!少し落ち着け!ミキ、タツミ!」
 その声に、シュンとして寂しげにさやか母の右左に座る兄弟。何もなかったように、頭を両手で撫でている。動じない…華奢で色白ぱっと見儚げな美女だが、なかなかどうして肝っ玉座ってるようだ。
 それに比べて、まさしの両親…ちょいと心配ぎみ。
  「おまえがどっか行けよ!ってこのおっさん何?子供ははしゃいだり、遊ぶのが仕事だ。見てみろ~2人して元気無くなったじゃないか。ココでは何も束縛はしてないけど、人の邪魔はしないのが暗黙のルール。だからみんなテメーの勝手も赦してたけど…この2人の元気元に戻せよ!…父ちゃん何だろ?」
 「口の効き方の解らんガキだ。俺がうるさいと言ったら静かにするのが、子供の仕事だろ?」
  綺麗に、アルミ缶をサイコロ状にタタミつつ睨み返すタマ。
  「アホか!私は人見るんだよ。6年接客業してるからな!私が尊敬できる人にしか敬語使わねー。親しくなるともっと使わねーな。それより、元の元気に戻せないんだ!自分の子供にも、支持されてないのに、よく会社のてっぺんやってられんな?あー親の七光りか?札束でほっぺたひっぱたいてんのか?寂しいやつだ…タツミ~ミキそんなアホほって置いて、続きすっぞ!」
 結局…タマの求心力が勝ったらしく元道理。キャイキャイ騒いでいる。憮然としていすを抱えて客室のログのウッドデッキに移動したまさし。缶ビールに泡で攻撃されて、独りで勝手にイライラしてる。人のバタバタは、遠目に見てるととってもコメディだ。この人、1週間で変わるのかな?
AM7:07   月曜日   〖まさしin田舎の休暇〗
 朝食か…
 初めて6人で卓につく。ディナーを店に食いに行くことは在ったけど、こういうのは初めてだ。ミキもタツミもさやかさえも浮かれ気味だ。俺の母とさやかの手料理…正直うちのエース格のシェフにはかなわないが、懐かしいような‥求めていた温もりのような…
  「コラ!まさし!食事の時は新聞もTVも当然そのパソコンみたいな板もダメ!我が家のルールだっただろ?守らないと、ピンするよ!」
 はいはい…ガキじゃ有るまいし、そのシカリ方昔のままじゃん。俺の黙ってムクレるのも昔のままか。よーく母には言われたな…あの時は、いつも居ないくせに、こんな時だけ親ズラしやがってと思っていたっけ。今は、今頃親ズラすんのかよって感じ?
  さやかは、相も変わらずにこやかに笑みを浮かべてる。確かに…あのバカ娘に言われた事当たってるだけに悔しい。俺の子供…俺が居ると縮こまってる。さやかや父母に向ける笑顔を、俺には見せない。
 俺が稼いだ金で生活できてるのに、不公平だ。
 しかし、俺には2人の笑顔を作る手段が解らない。おかしい?必ず家族サービスしてるし、おもちゃも服も良いもの選んで与えてるのに…オヤジより子供といる時間取ってやってるのに。
 しかし、めんどくさい場所だ。熾火から炭や薪に火を移して、ご飯炊いたり、焼き物したり…ガス無いのか。でも、俺の母が火の使い方知ってて良かった。オヤジも…この面倒な調理器具で炊いた飯が、旨いんだ!子供らと俺いつもの倍は食べてるな。卵も黄身がオレンジ色で、こんもりしてて味が濃い。素朴なモノが、どれとなく美味しい。
 うちの店だって、それなりに選んで仕入れしてるのだが、全くかないそうにない。
  「コレから、私とさくらちゃんと子ども達は、畑よ!あなたはどーする?お弁当は人数分作ったけど…」
 妻…さやかがニコニコして聞いてくる。話をはぐらかして…
  「父さんは?」
  「工場だって。なんとかっていう車が見つかったから、リョウジさんと引き取りだってさ。そのまま弟子入りだって満面の笑顔だったよ。あなたは?」
 静かにディレクターズチェアーをウッドデッキにだし、スマホとタブレットを持って机に、足元にクーラーボックス。中身はビール…
  「ハイハイ…寂しくなったら、どこかに顔出せば?じゃーね」
 何時の間に、農家ルック?長靴に細かい花柄のモンペ…風通しの良さげなシャツとモンペと同じ柄の手さしに、ツバの長い麦わら帽子。首には白いタオル…”産直yottette“とタオルの端に印刷されている。子供たちは、タオル以外そのミニチュアだ。
 やる気ですな。
  「ずっとココ居るなら、夕飯でも作っといて。何十年振りかね~楽しみ楽しみ」
 母のあんな笑顔…久しぶりだな。まあいい。呑みながら、仕事するか。
PM1:04   月曜日   〖一つ気が付く〗
 やんわり言われたが、どうもココからの指示は、時間差があって邪魔らしい…やり始めて2時間で気が付いた。そりゃそうだ!私だって反対の立場なら“んだよ~呑みながらノンビリ指示出すな!”と思うよな。
 そんなんで、目標…旗だけ数本立てて見守ることにした。
 暇だ…夕飯何にしよう?
 街と、ココ…時間の進みが違うようだ。さっき弁当食ったばかりで、夕飯の心配しかないなんて…
  「出掛けますか~」
 つい独り言。こんなん言っても言わなくても良いのに、口についてでる。寂しいのかな?俺だけここで笑顔になってないし…オヤジ帰ってきたかな?
PM1:32 月曜日   〖工場内〗
  「何コレ?」
  「ISUZU 117クーペ 初期型ハンドメイドだ!」
  「どうみても、キロ幾らの鉄くずだ…」
 レストアする者からすると、書類は有るわ、形が残ってるわ、エンジン綺麗だわ、室内の備品残ってるわで当たりらしい。
 じゃ~ハズレって…どんなん?
  「まさし、手間を惜しまないと良いものが出来る。今朝実感しただろ?コレ一台で、半年かけるんだリョウジさんは。解るか?」
 よく言ってたな…
 週に2回は店に止まって、作り置きの惣菜を仕込んでたな~オヤジとハハ。極普通の材料と極普通の業務用の調味料。でも、手間が違うと、味が変わる。角煮や佃煮は今でもうちの看板商品だ。あの味は出せないが、今でもこだわって工場で大量生産して、通販や小売店に卸している。弁当屋でも同じモノを詰めている。
  今朝ね~確かにうまかった。竈ご飯に炭火の火力での、鉄フライパン調理か…炭火って火力あったんだ!火の通りが違うのかな?
 金をかけるか、手間をかける。どちらかしないと本物は得られない。かぁ~…
  「たいちゃん、ほれ降ろすよ。ハンガー持ってきて。」
  「ああ、すまん社長。今持ってくる。」
 あ~あ
 すっかり弟子入りだ。あの仕事バカオヤジが、自分の子供より若いモンに使われてるよ。この師匠…いい仕事するのはオヤジのヨタハチ見れば解る。あの古い車で、1年に一度の点検でコンディションを一定に保つなんて…車に興味あまりない俺にも解るが…弟子入りまでするか?
 この若者、良くできた奴で、仕事以外では”タイゾウさん“とちゃんと呼んでいる。あの小娘とは大違いだ!
  オヤジは目がキラキラして、少年の頃にタイムスリップしてるようだ。ちょっとうらやましい。なんで俺は、心から楽しめる事が無いのだろう。どうして意地を張るのだろう。俺の居場所は?このイライラは?などと考えつつ、畑に足が向いていた。

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