被写体深度 14

《13より》
そうか。オレに愛情向ける奴は、いないんだ。1人か……初めからそうだから、別に良いんだけど、このババアと戸籍上の父には、仕返ししないとな。

この日から、"お祖母ちゃん"でなく、心の中では"ババア"と認識する。元々テメーの息子がここに連れてきたんだろ?テメーの息子には甘くて、孫に依存するって変だろ?

ココから心を閉ざす。笑顔の仮面を被る。
無条件に注がれる愛を知らないまま、良き孫を演じ、町役場に入り、ババア名義の土地に私名義でローンして家を建て替える。連帯保証人を親父にして。
ソコに住んで7年後に、パリ経由で、外人部隊に入隊する。なぜって?2年間違い無く足跡残さず失踪出来るから。何処の諜報機関も追って来れない場所。
ソコで欲しいものがある。サバイバル技術と体力。後は生活と金。一石何鳥にもなるのが、外人部隊だった。
結局1年延長して、3年居て退役した。

シャバに戻って、初めにしたことは、自宅に電話。
『この電話番号は、相手の事情により、かかりません。』

復讐終了。
どうなってるか解らないが、家は住んでない。死んでてくれれば、嬉しいけど。土地建物の登記簿調べてもらおう。

無気力……
これからオレ、どうしよう。
街をフラフラしてた時に、中古カメラ屋に彼を見つける。
誰が売り飛ばしたんだろう? NikonF3プレスモデル。通常版との違いは、セルフシャッターが無いだけ。これ、販売前に記者連中に配って、使ってもらってエラー潰しするためのカメラ。
安っ!その場で本体と、レンズ3本を買った。


《1988年5月》
『お前さえいなければ……』
久し振りに嫌な事思い出した。
よっぽどオレを恨んで……まあいい。ドンと来い!オレは復讐したんだから。
ゴキブリ並みの生命力の、親父らしき人は、きっとどこかで生きている。バアサンは狂ったろうな。
1回だけタクシーで、通り過ぎてみた。見知らぬカーポートが庭に出来ていた。ババアの子供の誰かが、法的措置ちゃんとしたのだろう。

まあいい。

オレにはとうに過去。悔しいのは、そこで築いた友達関係が、全く無くなったこと。それ位だ。
後悔などしてない!
自分で選んだ事だから。アングラにも詳しくなったし。この名前、聖川克樹は新米ホームレスから買った戸籍。背格好、歳が似ているのよく見つけてくるよね。

そんな感じだった今迄のオレが、オヤジの死で、気づいてしまった。

オレは、捨てる事で忘れたくなかったんだ。愛されたかったし、愛したかった。寂しい子供で、そのまま歳くっただけ。
寂しいと素直に言えない。
言って、受け止めてくれる人も、いない。
オヤジに素直に成れれば…良かった… そう思っても、もう大事な人はいない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?