三太 黒薄

〔夜の峠〕

ハー
自分だけは落ちないと、どっからそんな自信があったのだろう。
ゆるい下り、オレンジの灯りがついてる真っ直ぐな、そうだな…200メートル位のトンネル。出口には、意外とキツイ右曲がりのコーナ。
……
5キロ位手前でチンタラ走ってる、KP61を拔いた。したらよ、車中の男2人が嫌な笑み浮かべて、あおってきた。
オレのTDR250は、オンタイヤ履いて、RZのスプロケより2丁減のつけて、チャンバーオリジナルのくねくね、ポート0.5拡大、燃焼室加工、圧縮比アップ、点火系強化、キャブ調整等々、アップデイトしたばかりで、ウキウキして峠にやってきた。
あーあ。せっかくセットしたのに、一瞬でポンコツかよ。あっ……オレぐちゃぐちゃ……んーオレ…おれ?…オレか?…オレだよな!…俺だって!!…ハイ?
アンのばっかやろ!忘れねーぞ赤い、KP61!にやけた顔、ぜってー忘れねー。
パコ
「ってな!誰だよ!」
「どーもーご機嫌いかが?死神でーす。ごめんごめん。3日遅れたね。君良いよ。死んだのすぐ分かったんだから。」
何だこの狐顔で、尻尾あって、燕尾服着てスカしてる生き物は。
「おめー誰だ。の前にこの状況説明しろ。」
「君は死んだ。遺体はまだ崖の下。大丈夫!えーっと…」
7インチサイズのタブレットらしき物が、ポンと表れ、狐顔の前に浮いている。
「後、5時間後に発見される予定。良かったね!さ、何を恨んでるのかな?」
「何で分かるんだよ。」
「分かるんだよ。此処から動けないッショ。ココに居付いちゃうタイプの霊になっちゃうね。おめでとー」
どっから出した!そのバズーカタイプのクラッカー
「ヤーだよ。天国か地獄?連れてけよ。ここずっといても。つまんねー。」
「?……地獄なんてナイナイ。審判の門で、ハネられると、ココに戻ってくるだけ。ナーンにも出来ずに、悪戯さえ出来ない。見てるだけのお客様状態みたいな!」
ソレはそれで、キツそう。
「君さ、あのYO−行きたい?ココいる?5分あげる。僕も忙しいんだ。ナイショな!あの二人、いい死に方しないよ。」
あのーオレもあんまいい死に方じゃないと……

〔審判の門〕

ハネられた。
中学の時、いじめが原因で、クラスメートが自殺未遂した。俺は、直接加担した訳じゃない。手を下していたのは、男5人と女2人。
そっち側と、イジメ以外はつるんでいた。元々いじめられる奴の態度は気に入らなかった。ハッキリ言えば!もっと堂々としてろよ!とか思っていて嫌いで無視していた。
「自分の罪、わからんのか?わかるまで…」
ドン! ハンコ打つ音……不適合?
「彷徨ってなさい。あーこの時期バイトが少ないらしいから、そこ行って考えなさい。狐顔が迎えに行くまで。」

〔四国の山の中〕

今度は狸顔かよ!
「おー死国、いや四国の山奥まで、よ~来た。バイトだ。」
は~あ?
山の中腹、くり貫いて5階建てのフロアーにしてる。ココに電話やら、パソコンやら、ハガキやら無造作に置いてある?いや、整理しきれないのだろう。
私と同じ、足の先が見えない連中が、忙しくあらゆるメディアの情報も、整理してデーター化している。
「君さ、ここじゃなくて、実行部隊ね~バイク乗れるんだもんね。」
「つか ここ何?」
あの世とこの世つなぐ、緩衝地帯。
自然を守るために、メイクして山の入り口に立ったり、イタコさんや霊能力者に、ライセンス出して、交信できるようにしたり。この世で有益なコトなら、リクエストに答える
『心霊現象発生会社』
とのこと。
この時期、年末に依頼殺到といえば。
「君さ、モコモコにしないと、雰囲気でなそう。白いヒゲ、赤いコスチューム、白いズタ袋。はーい。ニコー!笑って笑って!メリークリスマス!ハイ!復唱!」
え?
「依頼殺到!子供又は対象の人の前に現れるだけで良いんだ!プレゼントは、生きてる人が用意するし。当然だけど、24.25忙しいぞ!」
ハイ?
「サー練習!メリークリスマース!リピートアフタミー!」
えーっと。サンタですかぁ〜?

〔お仕事〕

「メリークリスマス!」
俺達が持たされてるもの。
帳簿、ボールペン、ボタン2個しかないリモコン。
まず、時間を止める。対象者を肩を叩いて起す。10分ぐらい話すか遊ぶかして、寝かす。
依頼人起してサインを貰う。
リモコンの赤のボタンは、時間を止めたり、動かしたり。緑のボタンは、対象者を自然に寝かす。なるべく、夢の中のお話にする。これだけ。
「あーリョウタ!サンタだ!捕まえろー。」
こういうパターンが多い。
「ウェーアーン〜ママーぱぱーおあいよー」
コレも多い。そんなに怖いか?
「はーお迎えカネ?96だけんね。サンタ?ハー有名人にあえて。嬉しいね~。漬物もってくかい?」
冥土の土産にって、依頼人。
でも共通してるのは、依頼人の笑顔。
「ありがとうね。まだ夢見せてあげたいんだ。」
そう、対象者への無償の愛。
しかし、一晩100件はハードだね。
仕事しながら、考えていたんだ。
白赤に塗り分けられた、反重力スクーターで、星空を見ながら。
俺も、そういえば6歳まで信じてたな。母一人子一人、母ちゃん必死で……愛されていたんだよな。俺の葬式見てないけど、きっと泣いてたよな。
狭い公団住宅で、公的補助金貰って、朝も昼も夜も働いてて、寂しいから反発してさ。オレ言ってないよ。
「産んでくれて、ありがとう。」
今なら言えるのにな。
ん?
コレって、裕福でも貧乏でも同じか?母ちゃんが、産んでくれなきゃ、始まらねーもんな。
って事は、イジメられてたアイツだって、イジメてた奴等も、同じか……
こんなこと気が付いたけどさ、俺の罪って何だよ!イジメられてた奴かばえって事?そりゃ違うだろ!確かに、腕っぷしには自信がある。イジメてた奴等ボコボコにして、手を出させない!なんて出来た。それがイジメられてた奴に、プラスになるか?イジメてた奴等の会心になるか?標的が変わるだけだろ。俺の罪って何だってば!
「メリークリスマス!」

〔2日目〕

昨日を、トレース。ウダウダ考え中。でもお仕事では
「メリークリスマス!」
なんて、刷り込まれたハイテンションで、遊んだり、話したり。でも、スクーターにまたがれば、ウダウダ考え中。
200件目。ラストオーダー
「メリークリスマス!」
あり?反応なし。
「メリーク」
あっ、備考欄。耳がきこえない。ホワイトボードどこだっけ。
ポンポンと肩を叩く。ぱちっと見開いた目の前に、『メリークリスマス!』
彼女の手に、ペンを持たせる。
……ホンモノ?ウソーカメラカメ……
……ダメ。君の為に来たの。記憶の中で……
……わかった。いたのね。1つお願いが……
……何?……
……私を殺して。もうパパやママに迷惑かけたくない。痛くないように、殺して。もう嫌、こんな世界。こないだ駅で、怖い顔した人に、ツバ飛んでくるくらい怒られたの。何言ってるかわかんないし、胸ぐら掴まれて殴らてたの。大きな声で言っても、聞こえないの!判って!聞こえないの!ね~殺して!……

……生きなさい。君は選ばれた命。君が生きている事で、笑顔になれる人が居る。だったら。その人の為に生きなさい。ほら、笑顔になる人からのプレゼント。枕元にあるでしょう?その笑顔に叶う……な……ら生き抜いてくれ!……
……
「はーいご苦労様!」
ありゃ?狐顔……
「適合だってさ。あの世行っていいって。な~に泣いてるの?門番様がハンコ打ったよ。私にもわからんケド。まあメリークリスマス!150-22で、128年あの世でバカンス。生まれ変わりは何になるか。往くよな!」

〔エピローグ〕

ねえパパ。いたよサンタ

そっか、良かったな。

信じてないでしょ。シーツ触ってみて。サンタ泣いてた………


#Xmas2014

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