課長への手紙 #14

前略

課長は一目惚れの経験はございますか?

私には過去一度だけあります。今回はその話ではなく、本当の一目惚れではなく、言うなればカッコ仮、偽一目惚れ、準一目惚れのようなことについてです。

先日、とある場所に向かうバスに乗っていると、何やら後ろの座席から声が聞こえてきます。バスには20人ほどの子供達の集団が乗っており、これから皆で何処かへ行く様子です。

年の頃は——さっぱり分かりません。小6と言われればそんなものかと思いますし、中2と言われても違和感はありません。かなり幅がありますが許して下さい。

「彼氏が出来たらこのへんを歩きたいな」

とその声が言っています。女の子の声です。話の前後は分かりません。とにかくその部分だけが耳に飛び込んできたのです。

なんだか可愛らしいな。微笑ましいなと思いながら、彼氏なんだな、誰々くんではないんだな、まるで「高校に入ったら彼女が出来る」と無条件に信じ込んでいた中2の俺たちと一緒じゃないか。

将来の?架空の?彼氏とか彼女とか——その手の抽象的な概念は至る所に蔓延しております。そして一目惚れ(仮)という現象もそのひとつに過ぎません。幻を見ているのです。

そういう、一瞬の幻としての一目惚れ(仮)ですが、まあ私にもなくはないと言うか、あったと思います。あってもすぐに忘れるのがこの現象の特徴であります。

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