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Vol.12 せこい作戦


その奥平壱岐の親父をわしらはご隠居様と崇めてたんやけど、そいつがいらんことしよった。
 長崎にいる息子の壱岐と打ち合わせしたんやろな。その隠居がわしの従兄弟にあたる藤本を呼んで、「諭吉を呼び戻せ。あいつがおったら俺の息子の壱岐の邪魔になるんや。でも呼び戻す理由は『母が病気』ってことにしろ。」て、言うたらしいわ。

直接の命令やから藤本も断られへん。「わかりました」言うて、帰ってからうちの母に全部説明して、わしには「母が病気につきすぐ帰れ」という手紙と、「こういう事情でしゃあなしでこんな手紙書いたけど、母はいたって元気やから気にせんでええで」ていう手紙をくれた。

これ見て、ホンマに腹立ってな。なんやこいつ?と。しょうもないこと考えて、しかもおかんが病気とかいう嘘までつかせて。中津に帰ってシバきまわしたろかなと思ったんやけど、まぁ実際隠居相手に喧嘩しても負けること目に見えてるし、思いとどまったんや。あんなやつのために自分の人生を棒に振るなんてアホらしいしな。

だから、めっちゃ驚いたふりして、壱岐のところに行って「母が病気のようなので、心配だから帰らせてください」て言うたんや。
そしたら、壱岐も驚いたふりして、「マジか。それは心配やな。すぐ帰ったほうがええわ。また体調がよくなったらすぐに長崎に戻ってこれるようにしたるから」とか白々しいこと言いよんねん。うまく騙せてるとか思ってたんやろな。
 「今、おっしゃっていただいた通り、早々に帰国しますので、何かご隠居様にお伝えるすることあればおっしゃってくださいね」て、言うて、その日は帰ったんやけど、翌日もう一回行ってみたら、「まずこれを頼むわ」と、隠居宛の手紙を渡してきた。
で、続けて、「これを六助のところに持っていけ。お前がもう一回長崎に出てくる時に色々とやってくれるから」とか言うて、わしのおかんの従兄弟の六助宛の手紙を渡してきた。見てみたら、ワザと封をせんと見れるようにしてんねん。

 家に帰って、封をしていない方の中身を見てみたら、「諭吉は母の病気が原因で、帰国したいていうから、一旦帰すけど、勉強中の身やし、もう一回長崎に出れるように、手伝ってやれ」とか書いてある。
もうこれ見て、マジでしばいたろかと思ったわ。ほんで、面倒みてくれてる山本家にもホンマのことは言われへんし、「母が病気」の一点張りで暇乞いをしたんや。もし、ホンマのこと言うて、この奥平の面目潰そうもんなら後で何されるかわからんしな。

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