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Vol.7 お札を踏んで、神社のご神体を捨てる

■お札を踏んで、神社のご神体を捨てる

 わしが十二歳くらいの頃の話なんやけど、兄貴が紙をそろえてるところを、わしがドタバタ踏んで通ったら、兄貴がえらい怒ってな。

「おい、待てコラ!」とか大声だすんや。

「お前は目が見えへんのか?これ見ろ。何て書いてあるねん?奥平大膳大夫ていうお名前が書いてあるやろ。」て、プンプンなんですわ。

「ああ、そうなんや。ごめん知らんかったわ」て言うたら

「知らんて何やねん。目ぇついとったら見えるやろ。お名前を足で踏むて、どういうつもりやねん。ええか、臣士の道ていうのはなぁ、、、」とか、難しい話を始めて、しつこく怒ってくるから謝らへんわけにはいかへんやん?

「私が悪うございましたから、ホンマに勘弁してください。」て、土下座までしたんですわ。心の中では、アホちゃうか、て思ってたけど。

いや、殿様の頭を踏んだんならわかるで。名前を書いてる紙て。そんなもん踏もうが何しようがどうでもええがな。今思っても腹立つわ。

 それから子供心で考えてみて、兄貴の言うように殿様の名前が書いてある紙を踏んだらあかんねやったら、神様の名前が書いてあるお札を踏んだらどうなるんやろて思ってな。人の見てへんところで、お札を踏んでみたんや。

どうなったと思う?何も起こらへんねん。ほら何ともないやんけ、と。

これおもろいなと思ってな。今度はこれを便所でやってみたろうと。ホンマに便所で試したんよ。これはさすがに何かあるやろと思って実はビビッてたんや。

でも何もないんや。ほら見たことかと。兄貴はアホみたいなこと言わんでええねん、ほんま。まぁ、でもこれは親にも兄弟にも言うてへん話や。どうせ怒られるから。

 それから二、三年したら、もっと度胸もついて、年寄りがよく言うてる「神罰」なんかは大ウソやと信じ切ってたわ。それで今度は稲荷様を見てやろかなてまた悪いこと考えてな。叔父さんの家の稲荷の社の中には何が入ってんのかなと思って、開けてみたら石が入ってた。とりあえず、その石を捨てて、代わりにその辺の石を拾って入れておいたんや。

 また隣の家の屋敷の稲荷様を開けてみたら、今度はご神体として、木の札が入っててな。これも取りあえず捨てといた(笑) そしたら間もなく祭の日になって、のぼりを立てたり太鼓を叩いたり御神酒を上げてワイワイしてるから、それ見てめちゃおもろかったんやわ。「アホやな~。俺が入れといたその辺の石に御神酒を上げて拝んでもうてるやんか。」と一人で笑ってるくらいやったから、小さい時から神様が怖いとか仏様が有難いとかそういう感覚は全くない。占いとかまじない、キツネやタヌキが憑くなんていうのは、初めから馬鹿にしてたな。子供ながら、中身はこんな感じの人間やったわ。

 あるときに、大阪から変な女が来たことがあった。その女ていうのは、わしらが大阪にいる時に家に出入りしてた人間の娘らしく、三十歳くらいやったと思う。その女が中津まで来て、「お稲荷様が使える」とか言うて回ってるねん。

「ご幣を持ってもらって、それに対して、私が祈れば、そのご幣に稲荷様をつけて動かすことが出来る。誰が持ってもできる」とか大ウソついて、うちにもしょっちゅう来てたんや。
 その時、わしは十五歳くらいやったと思うわ。「それ、おもろいやん。やってや。俺がそのご幣持つから、動かしてみて」て言うたら、わしの顔をじろ~って見て「坊ちゃんは出来ません」とか言いよるねん。腹が立ったから、「今、誰にでも出来るて言うてたやないか。早くやれよ」て、詰めたってん。えらい食らってて、おもろかったで。

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