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穴の中の君に贈る

僕には、何かを穴が開くほど見つめていると本当に穴を開けてしまうという特殊な能力がある。仕事に穴をあけたり、工事したばかりの道路に穴をあけたり、迷惑をかけたこともあった。それで僕はこの能力を生かした仕事を探した。ドーナツに美味しい穴をあける仕事、ゴミを捨てる深い穴をあける仕事。ぴったり収まるネジ穴をあける仕事。
そんな僕に恋人ができた。彼女を穴があくほど見つめたかったけど、我慢した。
「なんで私を見てくれないの?」「だって君に穴があいてしまうよ」「じゃあちょっとずつ見ればいいのよ」
それで僕はちょっとずつ彼女を見ることにした。時々うっかり見つめすぎてしまうと、彼女に小さな穴があいた。彼女はそれを不思議と喜んだ。結婚して一緒に暮らし始めたある時、とうとう彼女に人が入れるくらいの大きな穴があいてしまった。
僕は夜になると彼女の穴に潜り込んで眠った。彼女は僕に「穴の中の君に贈る子守唄」を歌ってくれた。

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