僕は問題ありません

私は身体が柔らかいから、ワンピースの背中のファスナーをひとりで上げられる。瓶の蓋を開けるコツを知っている。僕は問題ありません。ひとりで生きていける。寂しいときは寂しいと歌えばいいし、暇だったらなんか食べればいい。冷蔵庫の中身はいつも期待はずれだ。

思考回路がパーティーグッズの長いストローのように、メガネやハートになっている。大人になって初めて困った。小さい頃は不思議ちゃんだとか大人に言われて、なんだか腑に落ちずにいた。「私って卑怯ですよね?」って、他人に甘えたい衝動に駆られる。

学校へ行く。6時に起きて朝ごはん食べて舐められない程度に化粧をして電車に乗る。少し混んでいて、座れない。どこにもつかまらずに、己の体幹のみで小説を読んだ。ふらふらしてたら、あんまり人が近くに来ない。昼前に授業が終わる。帰る。途中下車をして、食べログで星の多いパン屋に寄った。おしゃれな菓子パンは超おいしかった。食べログは侮れない。お行儀の悪い確信犯は、歩きながら、もさもさとパンを食べていた。口紅塗ってない。歩いていたら、喫茶室のあるパティスリーを見つけた。アンティークな雰囲気。ちょっと悩んで結局入った。手書きのメニュー表は癖字で、私は、長い名前のケーキを自信なさげに注文する。どんなケーキかわからない。名前の響きだけで決めた。勝った。ちいさな賭けに勝った。紅茶と一緒に運ばれてきたそれは、白くて柔らかくて、洋酒が染み込んでいた。居合わせた婦人の客と、一昨日の月の話をした。

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