甘辛フリスク

ピコピコしてる音楽聴いて白目剥いてたらいつの間にか桜散ってた。こんなに暑い季節に生まれた覚えは無い。19歳になっても私はなんにも変わらなくて、大きなあくびが出る。諸行無常の世で1人、死ぬほど退屈なのだ。

誰にも嫌われないように生きていたら誰も好きになってくれなくて、小さなくしゃみさえも出ない。1度でも、超美少女転校生として噂されてみたいものである。知らん奴に「あいつは鼻が低い」などの悪口を言われたって構わないじゃないか。頭の中ではわかっている。

素直に好きなものを話すと、「わかる〜!私もゴイステとか好きだよ。BABYBABYイイよね。てかさぁ、最近の音楽ってマジクソだよね〜。ワンオク好きな奴と仲良くなれないもん私(笑)」とか言われるからもうなんも喋りたくない。別にええやん。ワンオク歌上手いやん。どうでもええやん。言葉をごくりと飲み込んで、むせて咳き込む。伝染らないように距離をとって、また毒にも薬にもならない。やはり私はなんにも変わらない。

好きなものとか普段なに考えてるかとか、頭の中をバラす行為は、髪の毛を1本ぷちっと抜いて相手に渡すようなものである。超美少女転校生の艶やかな黒髪でさえ、抜いた瞬間死んでしまうのに、私なんて即ゴミ箱行きだ。ぽっかりと穴が開いてちくりと痛い。

秘密主義なのに嘘がつけない。喋りすぎた翌日はゆくえをくらます。バイト先のミステリアスな美人の先輩が「今日は帰ってトマトスープとアヒージョを作るの」と仰っていて、ますます見えなくなった。別の日に話の流れで、車の免許必要ないんですか?と聞いたら「そうね、乗せてもらうから……。うふふ」と仰っていた。どうせ運転免許を取るなら船や飛行機のがいいわね、とも言ってた。喋れば喋るほど謎が深まる稀有な人である。はあ。私、貴女の髪の毛が欲しい。

……はっくしょん。誰ですか、今私のことキモいって言ったのは。

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