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サービスエリアのペレットストーブ

 一晩中降り続いた雪の晴れた朝は、降り積もった雪が町の喧噪を吸い込んでしまい、澄んだ空気の清々しさ、どこからか感じる日差しの明るさが、静けさと束の間の安らぎのような希望を感じさせる。 
       
 自然の恩恵は、幼い時のいろいろな思い出に繋がる。その頃の冬は積雪が多かったので、二階の家の窓からスキーができたし、学校の体育の授業でもスキーがあった。雪の多い日は、かまくらを作って、中でぜんざいを食べた。練炭の炬燵は勉強机代わりだったし、夜は豆炭の行火(あんか)をして寝た。電気の安易さは無かったが、体の芯から温もった。  
   
 先日、尼御前のサービスエリアで、トイレにペレットストーブが焚いてあるのを見かけた。霙の降りしきるぬかるんだ駐車場を渡って中に入ると、掃除の行き届いたトイレと暖かなストーブがあったのはとてもうれしかった。中日本高速道路金沢支社が、北陸と滋賀県の一部のサービスエリアに、「冬のおもてなし」として、ぬくもりのあるトイレをという配慮からペレットストーブを設置したらしい。  

 最近、雰囲気があり、暖まるという魅力から薪ストーブがはやっているようだが、火の周りに人が集う光景は、家族団欒と憩いの象徴のようだ。
 茂木健一郎さんは著書の中で、中村好文さんという建築家について触れて、中村さんは「設計する家に必ず暖炉をつくる」と語っている。「理想の家」を求めて世界中を旅した中村さんは、何よりも家に家族や生活の息づく物語があるべきと考えているそうだ。 
 名建築と呼ばれる家には暖炉という共通点があり、暖炉こそ生活の物語の中心で、そこに住む人間に対して何物にも代え難い安らぎを与えるということだった。 

 人の心を落ち着かせ、心を和らげる暖炉と同じに、最近注目されているのが、薪の代わりに廃材を固めて作った燃料を焚くペレットストーブだ。 
 燃料の木質ペレットは、廃材から水分を抜いて固めたものなので、薪のような大きな場所を取らないし、温室効果ガスを大幅にカットできるため、町中でも利用し易いということらしい。外気を取り入れながら、温風を吹き出しているので部屋の空気もきれいに保てる。化石燃料の代替えエネルギーとしての森林資源の有効活用という点でも利点があるらしい。富山県でも木質ペレットの需要調査やコスト試算を受け、事業化に向けた支援策を検討するらしい。 
 
 火と水と空気というのは、人には切り離せない原初的な資源だが、人間はそれなしでは生きていけないと同時に、それ故か、なぜかそれらによって、根源的な癒しを受け取るようだ。清浄な火と水と空気が溢れる場所で暮らすと、人間の生命力も瑞々しく蘇ってくるのだろうか。 
 いつも側にあるようでいて、貴重な資源であることを「二十一世紀は水の世紀」と言われることからも分かる。日本は山が多い故に、清浄な河川に囲まれ、海洋深層水や様々な天然水に恵まれている。この海洋深層水については、新聞にこんな記事が掲載されていた。 

 膵臓癌の手術をして、一年経っても体重が四キロ減ったまま元に戻らず、口角炎が頻発して治らない患者さんが、新鮮な多品目の食材やあらゆる薬剤を試した結果、一向に治らず、母なる海の深層水を飲んだら治った。人間は、微量元素や活性物質を巧みに働かせ、栄養素を使って新陳代謝を行い、生命活動を維持している。これは何かの微量物質を深層水が与えてくれたのかもしれないと。
  
 人間を取り巻く環境と、環境が人にもたらす神秘については、一言で言えない深いものがあるのだろう。エコをし、自然の恵みを生かして生きてゆくことは、かつての日常にふんだんにあった季節感のようなものをなつかしむ行為のように思われる。エコを推奨するのも、そうした人間の節理とも言えるだろう。

(これは以前書いた原稿です。)

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