おはよう、世界。

その日は久々に朝から浮き足立っていた。こんな状況になってから、"ライブ当日の朝"を過ごすこと自体久しぶりだった。グッズのTシャツとタオルを用意して、年単位で使っていなかった兄の部屋のデスクトップパソコンを起動させる。

2020年6月7日(日) 16:00、開演。

「大阪府文化芸術活動(無観客ライブ配信)支援事業 PR LIVE -ACCESS CODE OSAKA!-」は、今なお困難な状況に立たされている劇場や演芸場、ライブハウス等の施設が文化の発信拠点としての社会的な役割を継続できるよう、 大阪府が最大70万円の補助金を交付し、無観客ライブ配信事業の立ち上げ・普及を支援するというものである。今回の無観客ライブは、その第1回目だ。

この日の司会を務めたのは、大抜卓人さん。FM802を比較的よく聴く私にとっては、馴染みのある喋りで嬉しかった。準備が押していたのか、話にキリがつきそうなタイミングで袖から出てきたスタッフさんに耳打ちされ、すぐに出演アーティストの紹介に繋げたところは、流石喋りのプロだなあと感服した。

「彼らのライブは、大阪のライブハウスシーン、その夜明けとなることでしょう」

大抜さんの言葉を受けて、ステージが冴え渡るような青い照明で満たされる。聞こえてきたのは"数學少女Z"。そういえば新しくなったSEから始まるライブはまだ観ていなかったかもしれない、と頭の片隅で思った。
いつものように、俺たちのリーダー石川大裕が先頭を切ってステージに駆け込んできて、廣瀬さんと熊谷さんがそれに続いた。ライブを取り巻く環境が目まぐるしく変動する世の中で、変わらないものがあるって嬉しいことだと思う。変わったことといえば、熊谷さんの髪の長さ。きっとこの日に合わせて美容院に行ったんだろうな。

「大阪生まれ大阪育ち、3人組ロックバンドBURNOUT SYNDROMESです!よろしくお願いします!」

1曲目は、夜明けを宣言する"Good Morning World!"。「大阪〜〜〜!!!」と、熊谷さんが故郷に向けて声の限りに叫んだ。
ギターソロの裏で向かい合って演奏するリズム隊がカメラに抜かれた時、廣瀬さんが心底楽しそうにニコニコしていて、私も泣きながらつられて笑っていた。幸せだなあと思った。「弱点をCharm Pointに」で、セーラームーンみたいに目元でピースする熊谷さんは、ソーキュートでした。

「大阪府の皆さんのおかげでこうしてライブができている」と大裕さんが感謝を述べ、メンバー紹介へ。

😎「生野区出身、熊谷和海!」
🐻「綺麗な平野川を!鮭の獲れる平野川を目指して活動しています!(大嘘)」
😎「鮭は難しくないか?💦」
🐻「いけるいける」
😎「いける?」
🐻「我々ならやれる」

😎「天王寺区出身、廣瀬拓哉!」
👼「よろしくお願いしま〜す!!!🙌」
😎「すごい量の拍手が聞こえるわ👂」
👼「聞こえるね!」

😎「そして私、技術のまち、東大阪市出身でございます!👏」

大裕さんの「自粛期間中は何してた?」の問いに、熊谷さんは「映画観てた」、廣瀬さんは「ずっと寝てた(笑)」。

😎「俺はアニメ観てたな。我々アニメの主題歌をたくさんやらせてもらってるんですけど、中でもバレーボールのアニメが一番多くて」
😎「僕はこの生配信ライブ、バレーボールに似てるなと思うんですけど」
🐻「どこが?」
😎「え?わからない?皆さんが見ているこの画面、横長で、四角形で、まさにコートじゃないですか!それから、1(🐻)、2(👼)、3(😎)。3回のトスで繋いで、音楽を届ける。その音が僕たちと貴方の間にある"ネット"を必ず越える」

ハイキュー!!に絡めた名MCから、2曲目"FLY HIGH!!"へ。
無観客だったので、いつものようなこちら側への「歌って」の言葉は無かった。それでも私は画面越しから一緒に歌ったし、きっと全国各地のメンバーが今この瞬間大合唱を作っているに違いないと思った。涙で私の歌声は震えた。

熊谷さんがエフェクターを踏んで、あの神聖な曲のイントロが聞こえてきた。
「今は暗い時代かもしれないけれど、必ずその先に光があると信じて。一緒に行きましょう、"ヒカリアレ"」
全てを絞り尽くすような熊谷さんの歌声が、画面を突き抜けて真っ直ぐに届いた。このたった30分程のライブに、これまで歌えていなかった分も全部全部詰め込んで。今日のこのライブに熊谷さんは己の全てを使い切るつもりなのではないかと思うくらい、熱い、熱い"ヒカリアレ"だった。

「このライブを作ってくれた大阪府の皆様、音楽関係者の皆様、メディアの皆様、そして今この配信を観てくれている貴方、今日は本当にありがとうございました」
「どんな小さな居酒屋も、カフェも、ライブハウスも、きっと何処かの誰かの憩いの場であり、思い出の味であり、大切な場所なんだと思います。だからこれ以上1箇所も奪われることなく、みんなで助け合っていきましょう」
「最後に、何度やられても立ち上がる不死鳥の歌を」

彼らがこの日のステージの締め括りに選んだのは"PHOENIX"。
上着を摘んでヒラヒラとさせる熊谷さんは、さながら雄大に羽ばたく不死鳥のよう。「何度でも立ち上がれ」の歌詞に、図らずもこの曲には今の世界に届けたい言葉が詰まっていると感じた。


演奏後、ステージには大裕さんが残り、大抜さんが話を聞いていく。

『無観客ライブはどうでした?』
😎「僕たちは応援してくださる皆さんのことを"メンバー"って呼ばせていただいてるんですけど、ま、今日はメンバーの姿が見えなくてちょっと寂しかったんですけど、みんながいなくてもこれだけ頑張れるんだぜってところを見せられたと思います!でもいつもどれだけ力を借りてるか、逆にわかりましたね(笑)」

『メンバーと集まって演奏すること自体久しぶりだったと思うけど、どうだった?』
😎「昨日スタジオに入ったんですけど、まあそんな変わらないですね。僕ら15年やってるから、3か月くらい大丈夫です」

『1曲目は"Good Morning World!"でしたが』
😎「今日のライブを「おはよう」から始めるのは決めてました。熊谷くんの言葉は今の状況に響きますよね」

『大阪の皆さんに一言』
😎「大阪人はやっぱり新しい物好きだと思うんですよね。新しく何かを始める時はうまくいかないこともあるけど、何度でも立ち上がっていきましょう」

『今日の4曲は本当に光があったよね』
😎「そうですね、曲名のとおり。悲しいことや辛いことは分かち合えないかもしれないけど、楽しいはみんなで増幅できると思ってるので、一緒に新しい時代を作っていけたらと思います」


この日のライブを観ていて感じたのは、どのアーティストも、目の前に居る人たちよりももっと広い、その向こうの人たちにまで想いを馳せてパフォーマンスをしているということだった。それは、画面の向こうで配信を観ている人たちだったり、ライブハウスを守り続ける経営者の人たちだったり、ライブには関係ないところで必死に生活を守ろうとしている人たちだったり。
「音楽は生きるために必要ではない」とはよく聞く台詞だし、真っ先に切り捨てられていく現状を見れば、それを実感せざるを得ない。でも、そんなの私は絶対に受け容れないからな。音楽を、ライブを、何としてでも守ってみせる。でも、一音楽ファンに過ぎない私が、どうやって?
今回のライブは、そういう気持ちがすくわれたようなイベントだったな、と思う。先はまだ見えないし、これからどうなるかわからないけど、みんなで乗り越えていこうな。乗り越えた先で、また必ず会おうな。集合場所はライブハウスで!


1. Good Morning World!
2. FLY HIGH!!
3. ヒカリアレ
4. PHOENIX