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2019/7/28 LAMP IN TERREN 日比谷野音ワンマンライブ「Moon Child」

2019年7月28日、18時。
ライブ前にはiPhoneを電源から切るか、機内モードに設定するのが、私のルーティン。
台風6号が消滅してよく晴れた日比谷野外大音楽堂の空の下、タオルで汗を乱暴に拭いながら、ずっとそわそわキョロキョロしていたのを覚えている。

定刻を少し過ぎ、蝉の声と観客の話し声だけがBGMとなったステージに大喜さんが1人で姿を現し、静かに席に着いた。
スティックがくるくると回され、思わず息を呑んだ直後に鳴らされたタムの音が、LAMP IN TERREN、日比谷野音ワンマンライブ『Moon Child』の始まりを告げたのだった。

ドラムのビートに合わせた手拍子で、早くも会場が一体となる。メンバーが1人、2人と舞台袖から姿を現し、定位置に着く。
右手をくるくると回しながら紳士のようにお辞儀をした大さんが、おもむろに鍵盤に触れる。一呼吸おいた直後の1音目で、予感が確信に変わる。この素晴らしい日の幕開けに選ばれたのは"Dreams"だ。

「7月28日 LAMP IN TERREN ワンマンライブ『Moon Child』始めます!」
と大さんが一息に叫び、それに被せるように聴こえてきたのは"eve"の同期音。誰も予想だにしていなかったであろうセットリストに、会場が沸いた。

今日会うために 背中を押し合ってきた
さあ始めよう特別な日
まだ知らない世界に触れよう ぼくらと

それは、特別なこの日にしか聴くことのできない、特別な"eve"だった。 

そんな特別な日だからこそ、この日のテレンは最近では珍しいくらいに緊張していた。"林檎の理"の冒頭で大さんが「緊張してますか日比谷ー?」と問いかけてきたけれど、自分のことを言っていたのかもしれないし、歌い終えた後に「ヤベー緊張すんなー!」って白状してた。少年の目をしてぴょんぴょん歌う大さんは、とても可愛かった。

すっかりライブ映えする曲になった"凡人ダグ"、目に見えてわかるくらいはっきりと かっこいいスイッチ が入る"innocence"を経て、初公開の新曲へ。イントロから髪を振り乱しながらベース弾いてる健仁さんがあまりにもかっこよすぎたのでにやけてしまったし、その顔はしとみに見られた。

ここまでのバチバチのセトリが"イツカの日記"で少し解けて、"Water Lily"、"pellucid"とゆったりした曲が続く。陽が落ちていく刹那の涼しくて静かな空気によく似合っていて、今思うとここまで計算されたセトリだったのかと気がつく。

もう夜はすぐそこに迫っていて、薄暗くなったステージ、十分な沈黙の後の"I aroused"が、会場の空気を一瞬にして変えた。〈覚醒〉という言葉が最も近かったかもしれない。
「後半戦始めます」という言葉から、アルバムと同じように"New Clothes"へと繋がる。この2曲間の繋ぎこそが、この世で一番美しいんだと私は信じて疑わない。

続く"涙星群の夜"で涙が出たのは、照明があまりに眩しくて、美しくて、目に沁みたからだと思う。夜の下で聴くこの曲は本当に良いね。
そしてお待ちかねの"オーバーフロー"。野音で歌うの、ずっと楽しみにしてたんだ。大さんの「いくぞ!」の掛け声で歌った1回目、「まだまだ足りーん!」と言われて2回目、マイクを通さずに3回目を歌った大さんの声は、野音の空の下で真っ直ぐに響いていた。何を言われたわけでもないけれど、「俺よりでかい声出してみろ!」って言われているみたいで、思わずニヤリとしてしまう。この曲のシンガロングは、毎回会場の誰よりもでかい声を出しているつもりだったけど、この日これまでの全てを更新してしまった。自分の中にまだ余力があったことと、それを大さんに引き出されてしまったことを、ちょっと悔しく思った。
「愛してるぞお前ら!」と叫ばれたストレートな愛の言葉がとても熱くて、私たちの歌声はその気持ちに応えられていたかな。楽しすぎて泣いたのなんて、この時が人生で初めてだったよ。

野音の会場は客席が斜めになってるから"地球儀"で跳ぶのは結構キツい、というのは去年の野音で学んだことだ。それでもやっぱり、今年も座席に膝をぶつけながら思いっきり跳ぶ。体力温存なんてしてる場合じゃねえ。今この瞬間に全力を注がなくてどうすんだ。

この後に挟んだMCは、本来"pellucid"の前にあるはずだった時間らしい。大さんがテンパって飛ばしちゃったんだと。健仁さんが「台風消えて晴れたね!」って話をしても「いやみんな今更そんな話されてもってなるよね?俺がMC飛ばしたせいでごめんね?」みたいなこと言う大さん。いいじゃないか、嬉しいことは何度でも喜ぼうぜ。晴れてよかったよね。
すっかり夜なのに真ちゃんの第一声が「こんにちはー日比谷のみなさーん」で、ああ、この緩さなんだよなあとホッとする。テレンのMCはゆるゆるで仲の良さが溢れ出してるところがいいんだよな。大喜さんなんて沖縄でウミヘビに遭遇した時に健仁さんに置いてかれた話とか始めちゃうしね。ここで話すような内容じゃなさすぎて笑っちゃった。ずっとお互いに緊張していたから、こういう時間が安心する。

そんな感じで気が緩んでたら大さんが急に「あと3曲しかない」なんて言うから「嘘やん」って思ったけど、ここまでで既に14曲。楽しい時間はいつだってあっという間だ。
大さんが「次の曲大切な曲だから割とちゃんといかないといけないんだぞ!」といそいそとMCを閉じ、「ここで聴くこの曲凄いよ。楽しみにしてて」と言い残してフロント陣が客席に背を向ける。昼間みたいに明るい真っ白な照明の中で、真っ赤に燃えるLAMP IN TERRENのロゴは"BABY STEP"のMVを彷彿とさせた。その景色があまりに眩しくて終始目を細めていたが、次の曲の入りと同時に照明がフッと消えて暗闇が冴え渡る。大きな月がくっきりと浮かび上がり、いくつもの星が瞬くステージで演奏されたのは、このライブのタイトルとしても掲げられている"月のこどもたち"。夜空の中で踊るように歌う大さんは、月のこどものように、とても無邪気に見えた。

静まり返った月夜のステージで、「綺麗でしょ。これがやりたいがための全セットリストだった」と静かに話し始める大さん。せっかくなので、ニコ生アーカイブを観ながらまるっと書き写したMCを、ほぼノーカットでどうぞ。

「別に大した話じゃないんだけども、正直な話僕はものすごく後悔の多い人生を生きております。27歳になった今、振り返るとものすごい後悔が多い、あの時ああしていればよかったな、こうするべきだったな、もっとちゃんと考えるべきだったな。それは昨日、今日、今日でもそう。もっと上手い方法ないのかな、上手い言い回しなかったのかな、そんなプレッシャーに苛まれながら、多分俺は一生生きていくんだと思う。なんだけどもね、こうステージに立つ人間であることも同時に自覚しているんですだから、どうしても自分の心と上手く折り合いがつけられない時があります。ステージに立つ人間だからこう言わなきゃいけない、大切なことを伝えなきゃいけない、素晴らしいことを言わなきゃいけない、みんなの背中を押さなきゃいけない、だけどそんなポンポンそういう言葉は俺の人生からは出てこない。わかんない、全ては結果論だと思ってます。探していても俺の人生ではそんなに簡単に見つからない。だから、自分の好きなものを、自分が大好きなものを、たくさん曲にしようと思います。音楽にしていこうと思います。このステージで話していこうと思います。それが、結果的に皆さんの背中を押したらいいな、とか、生きる糧になればいいな、なんて願いながら。僕はここが、音楽をやっている自分が大好きです。だから、大好きなまま、大好きなものを、皆さんに、信頼している皆さんに、愛している皆さんに、いつまでも歌っていきたい、届けていきたい、鳴らしていきたい、そういう曲ができたので、最後に聴いていってください。今日はありがとうございました。またね」

そうして本編最後を締めくくったのは、この日のために用意された新曲、"ホワイトライクミー"。「演奏してみるとすごくゆっくりに感じる」と事前に話していた通り、速まりそうになるギターリフをぐっと抑え込む。手を挙げたいけど、ライブで初めて聴く曲だからみんなの反応はどうなんだろう、って窺っていたら、サビ前で大さんが「行こう」って言ってくれた。本当は周りなんて気にせず好きに楽しめばいい、わかってる。でも初めて聴く曲はいつもちょっと不安だ。そういう私を引き上げてくれるのは、ステージの上の貴方たちなんだ。
この曲がいくつものライブを経て研がれていくところが観たい、そう思った。


アンコールに応えて出てきた大さんは、次のツアーのお知らせという手土産を携えていた。袖からお知らせの様子を窺うメンバーが可愛い。ギターを構えてから、出ておいでとメンバーを呼び込む。

健仁さん「おもむろにギター持ち出すから1人でなんかやるのかと思った」
大さん「やんないよ?みんなでやろ!」

アンコールが終わったら今日が終わってしまうなあってグッと寂しくなっていたら、「離れたくないんだけどさー、サクッとやった方が次に繋がりそうな感じすんじゃん。だからやるわ」と大さん。離れたくない気持ちがお揃いで嬉しいのと、今日みたいな特別な夜だってあくまで未来のための通過点でしかないことにワクワクしてしまう気持ちと。

こういう場面で選ばれる"緑閃光"は、やっぱり彼らにとって大切な曲なんだろうなと思う。
「こんなところで終わるつもりはないんで。もっと素晴らしい景色を見せるつもりでいるんで。これからもよろしくお願いします」
「ありがとうございました。また遊ぼうな」

最後に汗を拭ったタオルを客席に投げ込もうとする大さん。そこにタオルをせがむちびっこが2人。

大さん「2人いるからもしあれだったらハサミで切って半分にして…」
ちびっこズ「「きょうだいだからだいじょうぶだよー!!」」

会場がこの日一番和んだ瞬間だった。

袖に捌ける直前の大さんが「君たちは大人だから俺の無償の愛をあげる!」と叫んで、日比谷野音ワンマンライブ「Moon Child」は幕を閉じた。
思えばこの日は、大さんから、テレンから、ひたすら愛を受け取った一日だった気がする。あの日から私は、どうしたら同じだけの、それ以上の愛を彼らに返すことができるのか、そればかり考えている。今はまだ明確な答えが見つからないけれど、それでも自分にできることからやっていきたいと思う。このライブレポも私の愛情表現の一つである。


こんなクソ長いのを読んでくれた人はありがとう。それでは☺︎