思考メモ/「ハムレットQ1」@PARCO劇場

 「推しじゃないけどよく見る俳優ランキング」と「仕事の系統が羨ましい友達の推しランキング」を作ったら確実に両方トップ3に入る俳優、牧島輝くん。初見は2018年の「MANKAI STAGE A3!」だったが、その後友達にくっついていって牧島くんを見るだけでかなり面白い演目に出会えている。
・劇団た組「貴方なら生き残れるわ」
・「オーファンズ」
・「サロメ奇譚」
・「季節はずれの雪」
 色々と見ているが、この四本が牧島くんの出演作の中では気に入っている。特におしまいの兄弟の破滅を描く「オーファンズ」とベトナム戦争帰還兵を描く「季節はずれの雪」は未だにおもしろかったな〜と定期的に思い返すくらい印象に残っている。
 さて、私は森新太郎演出もかなり好き。「エレファント・マン」がたまらなく好きなのもそうだが、昨年同じくPARCO劇場で見た「夜叉ヶ池」もかなり良かったので、牧島くんが「ハムレットQ1」に決まった時は牧島くんのオタクの友達に「おい!!!!羨ましい!!!」と鬱陶しく連絡。そうしたら初日に連れて行ってくれることになった。嬉しいね。

 私は実は、戯曲「ハムレット」の登場人物の中では最もホレイショーが好き。なぜかというと、最後にみんながバタバタと死んでいく中、「語るべき人」という重すぎる役割をいきなり背負わされるのがたまらなく可哀想だからである。「ハムレット」のスピンオフである「ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ」(2017・トム・ストッパード作、小川絵梨子演出、世田谷パブリックシアター)を見た際にも、兼役ではあるものの安西慎太郎くんがホレイショーを演じていて、めっちゃ最高〜と思いながら帰ってきたのだ。

 PARCO劇場は2月の「モンスター・コールズ」以来。PARCO劇場のことを私はかなり気に入っている。交通の便も申し分ないし、商業施設の中にあるのに音響もかなりがんばっていると思う。客席の下にトイレがある構造は少し不思議だが、もしかして防音の役割のために設備を下の階に集約しているのか?とも思ったり。また、上手側の広場で休憩できるのもいい。友達と別々の席で舞台を見に行くときは、だいたいあの広場に溜まって喋っているので、あそこのことを私は「意見述べ述べスペース」と呼んでいる。
 森新太郎演出は日本語のリズム・響き・台詞回しに特に注力している印象があるので、音の響き方がストイックな印象を受けるPARCO劇場と相性が良いのではないか、と期待して入ったところ、まったくそのとおりで、良い意味で「言葉の渦に飲み込まれる」ような観劇体験をすることができた。
 主役のハムレットを演じるのは吉田羊さん。吉田さんは一応女性なので、もしかして王子ではなく王女に設定が変更されていたりして?と思っていたのだが、全体の脚本は有名な「ハムレット」のまま。つまり、吉田さんが「僕」と発声し、男性のデンマーク王子・ハムレットを演じるのだが、驚くことにこれが何ら違和感なく機能している。むしろ、男性の演じるハムレットよりも、ハムレット特有の「揺らぎ」「狂気と正気」「純粋無垢と暗黒」を表現できていて素晴らしいというほかない。吉田さんについてはそれまでお名前しか存じ上げなかったのだが、ものすごいインパクトが心に残り、休憩時間には牧島くんファンの友達と「吉田羊すごすぎる」という話題で持ち切りであった。
 吉田さんのハムレットは、「狂気と正気」を表現するときに意図的に声のトーンを二種類に切り替えて演じ分けるのだが、「狂気」のときは少年のようで、「正気」のときは青年のようで、その二つのトーンの間の揺らぎが客席にまでビリビリと緊張感を持って伝わってくる。
 脇を固める役者も凄腕揃いで、特に目を見張ったのがオフィーリア役の飯豊まりえさん。キョウリュウジャーに出ていたので昔はなぜかイベントでよく見ていた記憶しかなかったのだが、その記憶を一気に塗り替える好演だった。雰囲気が可愛さから切なさをはらんだ狂気に変化してゆくさまをありありと体現しており、ご本人のきれいで儚いルックスも相まって吉田さんのハムレットとの対比がものすごく映えている。
 とにかく芝居力と芝居力のぶつかり合いみたいな舞台だったのだが、そんな中で牧島くんも全くもって引けを取っておらず、全然推していないのになんか勝手に感慨深くなってしまった。劇中劇のシーンでハムレットの叔父・クローディアスを観察する場面や、最後の決闘のシーンで次々と登場人物が倒れていくのをガートルードを抱きながら見つめている場面など、言葉を発さずそこにいるだけでもしっかり存在感を放っている姿、毒の盃を落としてしまうときの絶望がひしひしと伝わってくる表情、そしてハムレットを腕の中で看取り語ることを委ねられて「しまった」結末。う〜ん、これが牧島くんで見られるなんて、最高だね! というわけで、終演後牧島くんのファンの友達と、「ホレイショー、最高〜!!」と意見述べ述べガールズになり帰宅したのであった。

 BGMもほとんど無し、(あえて)薄暗い場面も多く、思考回路のフル回転が要求されるのでキャッチーな舞台とは言い難い。また、正直ハムレットのあらすじを知らないと初見で完全に理解するのは難しそうではあったものの、個人的には大満足。お腹いっぱいで、余裕があればもう一度見たいと思うほどであった。

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