声優専門学校の文化祭に行った思い出

 2年前くらいの話になるが、声優専門学校の文化祭に行ったことがある。当時、私は高校を中退して中卒状態であった。大学に行こうと思っていたので高卒の資格を取るために半年間通信制高校に行っていた。特に学歴にこだわりも無かったが、高卒の資格はあると便利らしいのでなんとなく行った。資格は半年で取れ、進路も大学受験と決めていたのだが、当時書類上は高校3年生だったので怪しげな専門学校から「オープンキャンパスに来ませんか?」という趣旨のメールが日夜大量に届く。(高校3年生として大学の資料を請求するサイトに登録しているとそのようなメールが大量に来る。)アニメやゲームの専門学校からもメールが大量に届いたので怖いもの見たさで暇なときにチェックしていた。キミもアニメーターになろう!声優になろう!という趣旨の宣伝が大量に入っていて「これ、ちょっと夢見てる17歳だったら本当にそっちの道を志してしまうのでは?」と非常に不安になった。

 そのころ、もうサービス終了したものの、乙女系ソシャゲに好きなキャラがいて、そのキャラに声をあてている声優の現場に一度行きたいと思っていた。全く声優のことを好きではなかった。しかし一度どういう人間なのか確認しておきたいという謎の気持ちがあった。とはいうものの声優のSNSをこまめにチェックしているわけでも無かったのでタイミングを見失い時だけが過ぎていた。ある日、大量に届いている声優専門学校からの宣伝メールのうちのひとつに「当該声優が無料トークショーをやるので来い」という内容のものがあったので、怖いもの見たさで行くことにした。書類上高校3年生だと全くそっちの道に進む気がなくてもそういう催しに入れるのでラッキーだなと思った。

 インターネットで闇として語られている声優専門学校に合法的に侵入できるまたとない機会である。私はトークショーの招待券を持って声優専門学校に入り、文化祭が開催されている校舎内をウロウロした。廊下にエロゲの会社の求人票が貼られていたり空き教室で異常に低いクオリティのアニメが上映されたりしていたので良かった。声優トークショーに入場したら特に意味もなく最前列で気まずかった。

 隣の席には今で言うチー牛と呼ばれそうな見た目の少年が座っていて配布されたアンケートの「希望する進路」の欄の声優のところに丸をつけていたのでつらい気持ちになった。これはぜんぜん関係ない話なのだが、高校時代(1回目)のクラスメイトが声優だった。いまはアイドルコンテンツに出たりして大人気になっている。彼女は高校だか中学だかの頃から声優養成所に特待生として通っていて、レッスン費は払っていないのだと言った。愛想もよくて顔もよくて、声優でなくてもアイドルになれそうな子だった。偶然彼女の出ているアニメを見たことがあるが芝居もとても上手だった。逆に言うとそういう「特別扱い」、つまり一種のエリートの人間でも声優業界での競争に悩んだりするのに、18歳になって声優専門学校に年間100万払っているようでは完全に遅いのではという気持ちが湧いてきた。

 声優トークショーに登壇した声優は、ぜんぜんその専門学校の関係者ではなかったが、自分が声優になった経緯とか、声優の仕事の楽しさとかの話をして帰っていった。しかし、自分も声優になったからには、声優専門学校に通っていてはダメなことをわかっているのでは?と思ってしまい、目の前に集まっている青少年に声優の仕事をすすめていることに対してかなり怖い気持ちになった。「社会人になってから養成所に通って声優になりました」みたいな話をしていて良い話っぽかったが、それは自分に運があって才能があったからであって、青少年に金ドブをさせていい理由にはならない。ほんとは「この中の99%には才能がないので諦めも肝心です」みたいな話をしたほうがかなり人間として誠実なのではと思ったが、それでは声優専門学校がビジネスにならないので、この人はちゃんと請け負った仕事をこなしていて凄いなぁと思いながら帰った。

 声優業界には全然詳しくないのだが、その後もいろいろな声優専門学校から声優の無料トークショー情報が送られてきて、世の高校3年生は声優の無料トークショーに行き放題ですごいなと思ったし、声優はもしかしてみんな声優専門学校のビジネスの片棒を担いでるのか?と思ってしまい物哀しい気持ちになった。

 あと声優専門学校のトークショーに行ったあとに声優のシチュCDを聞くと「人間は夢を叶えるとシチュCDで胸キュン台詞を囁くことができる!」という気持ちになれて良い。

 後日声優トークショーで撮った集合写真が送られてきた。アンケート用紙に「集合写真いらないです」と書いたが完全に無視された。オタクにメルカリで売ろうと思ったがそれを忘れて2年経つ。でも当該声優のオタクだとしても本当にいらないな。

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