メイド喫茶で働いていた時の思い出①VSキチガイ編

 私は22歳のオタクです。この前までメイド喫茶で働いていました。といっても最初から真剣にお金が必要だったわけではなく、暇だったのと、学校の受験が終わりずっと家に引きこもっているおしまいのカスみたいな生活だったので、その生活を改善するためになんかやろうかな〜という雑な動機で働き始めました。なので、他のメイドさんのように「シフトが少なくて生活費が😭」というようなことはただの一度も思ったことがなく、むしろ極力長い時間働きたくないと思っている労働意欲底辺のメイドでした。

 店を受ける時も、予め私は「文章を書く仕事をやっています」と言っていたので、店長は私がメイド喫茶で起きた出来事を面白おかしくネタにすることを知っていました。にも関わらず在職中に店長が私に向かって「これ面白い話なんだけどさ〜」と言いながら高頻度で店の秘密を話してきたので、店長は本当に何も考えていなかったんだと思います。店長のしていた行為は、金正恩に向かってペンタゴンの内部機密をペラペラ喋るようなものです。店長のことはそういう国で生まれ育った人なんだなと思っていました。

 まあそんな前置きはどうでもいいので、今回はメイド喫茶で働いていた時に"ご帰宅"していた、頭のおかしいおじさんの思い出を書きたいと思います。

 弊社はどうしてかわからないのですが異常にメイドの平均年齢が低く、働き始めた当初は私より年上のメイドは1人しかおらず、そのメイドさんも途中で消えるようにして辞めたので、22歳の私は16〜18人ほどいたメイドの中で最年長でした。メイドもやたらに高校生が多く、深夜帯のシフトに入るメイドが慢性的に不足しており、私は深夜帯にばかり出勤していました。他のメイド喫茶にはもうちょっと年上の人も多いと思います。なんで弊社にあんな高校生ばかりいたのかは謎です。

 @ほぉ〜むカフェなど、よほど人気の大手でなければ、大抵のコンカフェには「散歩」等と称される客引き行為があります。秋葉原とかに行くと、路上にわらわらいる看板を持って突っ立っているメイドがいわゆる「散歩」中なのですが、弊社にもご多分に漏れず「散歩」がありました。

 コンカフェというのは本当に良くできたシステムで、自分目当てのお客さんが店に来ている場合はそのお客さんを接客するため、外に「散歩」しに行かなくていいのです。よって、逆に言えば自分のお客さんを持っていないメイドは外でクソ寒い中一生「散歩」することになり、モチベーションが雲散霧消してさっさと退職するため、自然に客を持っていないメイドは淘汰されてゆきます。元々客を持っているアイドルやツイッタラーなどがコンカフェで幅を利かせているのには、このような事情が背景にあります。

 私もしょっちゅうではないにしろ外に「散歩」しに行くことがありましたが、東京の街は魔窟なので、目の前でゲロを吐くジジイ、立ちションを始めるジジイ、爆音で走りゆくホストのトラック、メイドから1mしか離れていないところでマリファナの取引を始める黒人などの百鬼夜行が目の前で繰り広げられていました。水木しげるもドン引きです。これは嘘松などではなく、実際に弊社が入居していたビルの非常階段ではしょっちゅう黒人が暗闇の中で大麻の取引をしていて、私目当てにご帰宅してくれるご主人様に黒人が大麻を売りつけようとするなどの事案が発生していました。何なんでしょう。まあ大麻をやり取りするくらいならこちらに実害はないので別に良いのですが、酔っぱらった狂人のジジイが身体を触ろうとしてきたり売春を持ちかけてきたりするのは日常茶飯事なので、徐々に感覚が麻痺してゆき、私はそのようなことが起こっても何も感じませんでした。

 さて、そのような環境下で客引きをするのですが、こうなると疑問が生じてきて、客引きについてくるような客は全員ろくな奴ではないのでは?と思うわけです。

 自分の立場になって少し考えてみたらわかることです。正常な判断力があれば、リスク回避ができるので路上で客引きしている怪しいメイドにはついていきません。逆に言えば客引きで釣れるお客様というのは、やや判断力に欠けている方々ということになります。

 メイドもメイドで、クソ寒い散歩から早く脱出したいという心理が働くためか、「そんな奴連れてくんなよ」と思ってしまうようなお客様を店に案内してくる場合があります。そのようなお客様の思い出として深く心に残っているのがキチガイ客のS(仮名)です。

 Sは誰かが路上で客引きして連れてきた電波系のご主人様で、推定50歳前後の小太りのおっさんなのですが、なぜか全身をGUESSで固めていました。謎に金払いが良く、メイドに無限にドリンクやボトルを出すので、会計が20万を超えた日もありました。聞いてみたところによるとマンションの大家をしているらしく、納得といった感じです。Sは毎日メイド喫茶に来るので私も何回か雑に接客していましたが、一応儀礼上「私も〜ご主人様と一緒に乾杯しても〜いいですか〜?」と聞くといいよと言ってくれるので、ボトルをおろしてもらったりして結構な時間目の前についていた記憶があります。

 Sは本当に驚くほど会話が成立せず、こちらの振った話題に一切反応せずに一人でブツブツアニメのタイトルなどを無限に連呼しているので不気味でした。私は電波系の人には慣れているので目の前にいながらほとんど無視していたのですが、5分に一回くらい「ふーん」とか「へー」とか言っとけば何となくその場が維持できるので不気味ではあるものの楽といえば楽だった記憶があります。

 Sとはほとんど意思疎通が取れないので、接客という接客もする術がなく、私は他のメイドさんが必死に話題を振ったりしているのを見て「あらあら大変ですこと」とか高みの見物をしていたのですが、ある深夜営業の日に事件は起きました。

 Sは酔うとそこらへんにいる客に雑に絡む癖があったのですが、私が当時仲良くしていたお嬢様に向かって何やらブツブツとセクハラめいた言動を始めました。私は非常に現金なのでそこら辺でSがブツブツ呪文を唱えている分には全く構わないのですが自分のテリトリーに入ってくると途端に許せなくなります。キチガイよ私目当てのお嬢様に向かって変なことを言った罪で慰謝料500万円払えという気持ちで「不適切な言動をしないでください。静かにしてください」とブチギレたのです。思えばこれは明らかな人災です。変な奴しか来る見込みのない東京の魔窟で客引きをしている弊社と、意思疎通のできないオッサンにもすがりたいがゆえに「ご主人様とってもかっこいいですね〜♡」などと心にもないことを言って野放しにしてきたメイドが引き起こした人災です。人間社会で起こる大抵のトラブルは人災だと相場が決まっています。

 私は深夜3時に、弊社のグループチャットに「Sを出禁にしろ」と苦情を連投しました。その結果店長は「Sの会計をさせて帰せ」と他のメイドさんに命じたのですが、Sは会計をしてもなぜか店内に居座り続け、朝4時くらいになって突然意味不明なことを叫び始めました。Twitterで「バイト中にキチガイが暴れているのをみんなで見守るだけの時間があって花火みたいだった」というツイートをこの前見かけましたが、まさにそんな感じです。花火を見ている時と全く同じ気持ちでした。その時一緒にシフトに入っていたメイドさんはパニックを起こし、「何とかSさんの機嫌を直します😭」と言って必死にSを説得していましたが、精神科に入院していたことのある私は、電波系の人の発作というのはメイドが説得したところでどうにかなるものではないことを知っているので、無意味だな〜と思いながら見ていました。虚しすぎる。

 私は弊社最年長メイドだったので、必然的にその時一緒に働いていたメイドさんも全員年下で、みんな18歳とか19歳とかでしたが、時給1000円台の賃金しか貰っていないのにこんな客への対応をさせられる若者って大変だな……とまるで他人事のようにその光景を見ながら考えていました。そもそも時給1000円台の賃金しか貰っていないのに一所懸命労力を割いてキチガイを説得する意味はありません。私はいい加減鬱陶しくなってきたのでキチガイへの対応をアウトソーシングしようと思い、暴れるSを見ながら店長に「警察呼んでいいですか?」とLINEしました。するとあっさり「いいよ」と返ってきたので、「会計したのに帰らない変なオジサンが店内で叫んでいます」と110番に通報しました。日本の警察は優秀です。朝4時にも関わらず、10分後には店に警官が来ました。普段は税金払いたくねえな〜と思っているのですが、この時ばかりは納税をしていてよかったなと感じたのを覚えています。

 Sは私から出禁宣告を受け、警官に付き添われて店の外に出たのですが、20分くらいするとまた店に戻ってきました。帰巣本能の強いハトか? また店に戻ってきたので、もう面倒くさくなり、また警察を呼んだところ、また警察が来てまた店の外に追い出されてゆきました。その辺にいるつまらない芸人でも、全く同じことを2回やっても一切面白くないということは知っているはずなので、おもんなさすぎて鼻血を出すかと思いました。

 朝6時になって店を閉めることになり、ドアの鍵を閉めて他のメイドさんと着替えていたのですが、Sはなんとまた店に戻ってきて入り口のドアをガチャガチャと開けようとしながらビルの廊下で何かを叫び始めました。ホラー映画で見たことあるやつだ!と思いながら警察を呼び、警察に駅まで付き添ってもらって店から帰りました。日本の警察は仕事熱心で非常にありがたいです。

 ですが、そもそもよく考えてみれば、変な奴を連れてくるリスクが高いとわかっている客引きをしたことが原因で警察官を3回もメイド喫茶まで呼び出したわけで、根本的な原因はこんなしょうもない商売にあるのでは……と、思ったメイド生活のある日でした。

 しかし某@ほぉ〜むカフェに通っているケンザキさんもこんなことを言っているので、もしかすると客引きとかそれ以前の問題として、メイドカフェには"そういう人"を引き寄せる磁場のようなものがあるのかもしれません。おしまいですね♪(終)

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