サイクル

 ボクは計画通りに何かできた試しがない。

 何かを思いつく。小目標を設定して、そこに至るまでの道筋を考える。考えているうちは楽しいが、それを達成できた試しが一度もない。
 朝起きて創作活動をするためにタイムテーブルを書いた。それはただの紙切れ以上の意味を持たなかった。
 ネタ帳にアイディアを出した。ボクの覚えているかぎりでは、それが最後まで形になったことは無い。

 実はここで、ボクが達成するのしないのと言うのは語弊がある。正確には、達成するために動くのはボクの義兄である火星であって、ボクではない。だから、より正しく言い表すなら「ボクの計画と義兄の行動が噛み合った試しがない」のである。

 計画を立てる以前に必要なのは、ボクと義兄の間での報告・連絡・相談。
 義兄が実際に出来ることと出来ないことを彼から聞き出し、その上でたたき台をブラッシュアップし、いくつかの案を出し、実際にやってみて、フィードバックをもらい、再びブラッシュアップ。
 仕事なんかでよくあるサイクルだ。ボクはそんな仕事を持ったことはないけど。
 本体がこの世に生をうけてから三十余年経って、ようやくこのサイクルの重要性に気付いたというのだから笑えない。

 だが正直に言おう。死ぬほど苦手だ。

 相手ありき。自分一人で完結できないという苦行。ボクが何のために12室に引きこもっていると思うのか。
 義兄は決して悪い人間ではないが、何かというと、やいのやいのとボクの生活スタイルに口を出してきて鬱陶しい。なるべくなら話す機会は少なくしたい。計画を提出するとその場では盛り上がって褒めてくれるが渡したきりでお終いになってしまうことを、ボクは内心では嬉しく思っていた。

 そうもいかなくなったのは、太陽からのお達しがあったからだ。

 曰く、「やりとげるまで帰りまテン」。元ネタの番組も見たことないのに何を言ってるんだろうこの獅子サマは。
 ただ要点は「はじめに計画をするのではなく、火星の行動記録を見ながら、無理のない範囲で出来ることを滑り込ませてほしい」ということだった。
 ボクからの発信ではなく、受信ありきの立案。机上の空論ではなく、実際の行動ありきで組み立てる計画。
 義兄の行動記録はメールで定期的に送ってくれるそうだ。そして、計画の提出先は義兄ではなく、「太陽宛に」「メールでOK」とのことだった。義兄にはない柔軟性にひとまずは感謝である。

 ボクたちの住む邸(やしき)には、土のエレメントを持つ天体(ヒト)が海王星一人しかいない。
 つまりどういうことかと言えば、「ボクはこの邸に住むヒトも、自分自身のことも、かけらも信用していない」ということだ。
 かけらもだ。信じるという概念すら自分の中に存在しているか怪しい。
 現実に根差したものが乏しい中でいったい何を信じるというのか。火と水偏重のサウナのような環境で、確かなものなんて何もない。

 だが、行動は記録に残せる。それは確実に土の領域だ。

 そして、土から風、風から水に―――水星であり蟹座であるボクに、渡してくれれば、そこに想いをのせて次の行動の指針を与えよう。

 これからボクの計画のサイクルは、土から始まる。ボクの想いは意志にかわり、試みと考察を繰り返して、新たな現実を生むことになるだろう。


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