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灰になるほどに

フィアンセの葬儀の翌週、
活動休止から全楽曲とバンド名を改めて
再出発のライブだった。

僕は楽屋で入念にストレッチをする。
それから息を止める、2分。

苦しくてとても長く感じる。
鼓動が加速していく。

血が巡る、熱くなる、
自分の命を自覚する、
これから叫ぶ唄と対峙する俺に成っていく。

その、昔から変わらない一連の準備が
冷たくなった貴女を強く思い出させた。

打ち上げで泥酔し、
先に帰って眠る貴女を抱けば、
「お疲れ様」
うつらうつらと
その一言をくれて再び眠りにつく。


喪ったことがを改めて自覚した。


声を殺して嗚咽した。
涙が止まらなかった。
そんな僕を他所に
メンバーは黙々と支度をしててくれた。

時間が近付く。
大勢の人が待っている。
俺がこのバンドだ。
俺たちがこのバンドだ。
平静を装い、四人、拳を合わせる。


爆ぜた。


何故、今あの日を思い出したのかは
わからない。
いつもと変わらない音楽と向き合う今日、
特別なことはない。

ただ、いつも以上に集中している。
昂ぶっているのだろうか。
伝える、という気持ちが強いせいだろうか。

わからない。

けれど、愛しくて恋しい。

だから、この煙草が灰になったら、

また全力で今日を頑張ろう。
灰になるほどに。


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