【熱力学4S】自由エネルギーの凸性と熱力学的な安定性

4節「つり合いの条件」の補足記事になります.

要請3では,自由エネルギーの示量性と自由エネルギー極小原理を要請しました.この二つの要請を認めると,実は自由エネルギーの関数の形は何でも良いわけではなく,数学的に制限されていることがわかります.実は,自由エネルギーは外部変数に関して下に凸な関数なのです.これは次のようにして簡単に示せます.

自由エネルギーが下に凸であること

適当な大きさの系を二つ用意して,自由エネルギーが

$$
\begin{align*}
\lambda F(T,X_1) + (1-\lambda) F(T,X_2)
\end{align*}
$$

というふうに書かれるようになっているとしましょう.ただし,$${\lambda}$$は$${0}$$から$${1}$$の間の値をとる適当なスケーリングパラメータです.次に,二つの系を合わせて一つにして(壁などを取り除いて外部変数はやり取りできるようにして),新しい平衡状態となったとします.新しい自由エネルギーはもとよりも小さくなっていること(自由エネルギー極小の原理)から,

$$
\begin{align*}
F(T,\lambda X_1 + (1-\lambda) X_2) \leq \lambda F(T,X_1) + (1-\lambda)F(T,X_2)
\end{align*}
$$

という不等式が成り立ちます.ここで,左辺の新しい自由エネルギーを書くのに示量性も使っています.するとこれは,数学的には下に凸な関数の定義式となっています.

(注: 上の不等式の向きが逆になったものは「上に凸」と言います.)

下に凸な関数とは下図のように,どこを見ても下に出っ張っているような関数のことです.数学的な定義式が,ちゃんとそんなグラフを表していることは,図をよく見ると納得がいきます.

画像3

連続性・片側微分可能性

数学の定理により,凸関数ならば,連続であるし,片側微分も可能であることがいえます(図をイメージするとなんとなく理解できると思うので証明はしません).つまり,自由エネルギーは外部変数について連続であるし,片側微分可能です

つり合いの安定性

下に凸な関数の極値は必ず最小値となります.(これも図を見るとそんな気がすると思うので,証明は省きます.)というわけで,実は自由エネルギー極小の原理と控えめに言わなくても,自由エネルギー最小の原理と言い換えても良かったのです.

4節での結論は,系が平衡状態になっていることの必要条件として「部分系の一般化された力が等しくなっている」ことが導かれたわけですが,実はこれは平衡状態であるための十分条件でもあったこともわかります.つまり,局所的な力の釣り合いだけを見れば,それは自由エネルギーの極大値などにはなっておらず,大域的に見ても系が安定な平衡状態にいることがわかります.

これは,逆に言えば,熱力学の通常の理論体系では,「不安定なつり合い」の状態(過冷却状態のような)は扱えないことを意味しています.熱力学を不安定なつり合いにも拡張する試みはされているようですが,それがどれくらい普遍的な理論なのかは,不明です.

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余談

下に凸な関数は英語ではconvex functionといいます.そのまま訳して凸関数ともいいます.上に凸な関数は英語ではconcave functionといいます.そのまま訳して凹関数ともいいます.凹凸で表現すると,漢字の形から連想される関数の形と逆になってしまいます.ややこしい!なので上に凸とか下に凸とかいう方が間違いありません.凹凸の上下をひっくり返した漢字を作って欲しいところです.

クオリティの高いノートをたくさん書けるように頑張ります!