あのときよ、再び ~帰ってきたウルトラマン~

地球防衛庁の長官室はその日も空気が重かった
時は2020年の秋

岸田長官は各国支部から届く報告に暗然たる思いを重ねていた

今世界の国々を正体不明のウイルスが襲っている
世界のほぼすべての国々で感染が確認されている

これは疫学的にまったく未知のウイルスであり、
このウイルスに感染した者のおよそ全ては死亡している
そしてその感染源と対策はまったく不明のままであり、
各国の衛生当局はなす術を知らなかった

ただしウイルスが流行した国では例外なく次のことが確認されていた
それはウイルス流行の前段階において、
正体不明の未確認飛行物体が各国上空を飛来していたということだ

しかも感染者が1000人を越えた段階で、
どの国においても医療機関の爆破事件が起きていた
爆破現場を検証しても何も手がかりはつかめなかったが、
爆破寸前にこれもまた未確認飛行物体が各地で目撃されていた

地球防衛庁各国支部から上がる報告書に記載された情報は
こうしたウイルス感染の発症や爆破事件、さらに未確認飛行物体の目撃は
いずれも日没後の時間に集中していることを示していた

こうしたことから、いずれの事件も
異星人の襲来によるものである可能性は高い
もしそうであるならば地球防衛庁としても
更なる捜査と対応が急務である

かつて地球防衛庁傘下のMATで数々の怪獣案件や異星人案件を扱ってきた岸田長官はこのように考えていた


しかし、あれから時は過ぎ去っていた


地球防衛庁の参謀も隊員も、そうした怪獣や異星人の襲来を経験していない者が大半となっていた
長く続いた平穏な日々は「重大な問題が発生した」という認識を嫌う傾向を作り出していた

それ故に長官の考えに完全に賛同するものは無く、地球防衛庁の動きは鈍いままであった

「どうしたものか...」

思案に明け暮れる長官

かつて隊長の電光石火の指示のもと激烈に戦いを展開したMAT
その往年の姿はすでにない

地球はなす術を失いつつあるのか...

...「岸田さん」


ふと長官の座席後方から声がした

長官が後ろを振り向くと、そこには一人の老紳士が立っていた

「な、何者だ!」

「岸田さんお久しぶりです」

「.......」

岸田は腰の銃に手をかけた
しかし相手は全く落ち着いた様子で続けた

「岸田さん、僕ですよ。忘れてしまいましたか?」

「.......」

「だいぶ歳をとってしまいました、でも岸田さん、お久しぶりです」

その老紳士は微笑んだ

「.......ぉ、お前は...」

岸田はまじまじとその人物の顔を見つめた

やや長めの髪は白髪であったが、その堀の深い顔立ちと鋭い眼は、岸田が若い頃に深く関わったある人物を彷彿とさせていた

「お前はもしや...」

「そうです、郷です。郷秀樹です」

「ぉ、お前、生きていたのか!....」

郷は1972年に東京に出現した宇宙恐竜ゼットンとの戦闘において、
MATアローによる襲撃を担当した
その際ゼットンに体当たりを試みたアローは爆発し墜落
郷はそのまま殉職したとされていた

岸田は腰から手を離した

「お前、あの時確か...もうあの時に...」

「はい、確かにそうです。でも私は死んでいませんでした」

「どういうことなんだ」

「それは...」

しばらく郷は沈黙した

「...あの時は黙っていましたけど、
...僕は実はウルトラマンだったのです」

「......」

ここで岸田は約50年の昔のことをありありと想起した

MATが死力を尽くし、なおも敵を倒し得ないとき、
必ず強烈な光と共にウルトラマンと呼ばれる巨大な存在が現れ、
MATの任務を助けてくれたこと

そして決して言葉にこそしなかったが、
当時の伊吹隊長は郷とウルトラマンを同一視しており、
郷の殉職を組織として承認し手続きを進めつつも、
彼の死を決して確信してはいなかった様子があったこと

これらをありありと思い起こした...

「お前はやはり...」

「はい......しかし、それよりも岸田さん、今日はどうしても岸田さんに伝えなければならないことがあって来たんです」

「何だ」

「いま地球に飛来しているウイルスのことです」

岸田は目を見開いた

「岸田さん、これはコヴィッド星人という名の異星人の仕業です」

「......」

郷は話を続けた

「このコヴィッド星人はかつて我々の星であるM78星雲にも飛来し彼らの作成したウイルスを散布しました。」

郷は話しながら長官室を歩き回り始めた


「しかし我々は光の国の民です。光には命を強める働きがあります。彼らはこの光に弱いのです。我々の光によりウイルスもコヴィッド星人もあえなく消え去りました」

「...」

郷は岸田の方を振り向いた

「岸田さん、彼らを倒すには光の力が必要です」

「...」

「しかし、地球にはその光の力がありません」

郷は再び歩き始める

「私も光の国の者として光を放つことはできます。しかし、私一人では足りない。しかも私は老いました」

「...」

「すると、この地球で頼れるのは太陽の力です」

郷は再び岸田を振り返り言った

「岸田さん、再び二人で出動しましょう!」

「どういうことだ」

「太陽の光を呼び込むのです。僕がウルトラマンになり、太陽の光を遮るあらゆる地球上空の層を一時的に突破し穴を開けます」

「...」

「岸田さんはコヴィッド星人の飛行物体を穴のすぐ下へ誘導してください」

岸田の顔にやや赤みがさした



「誘導地点は富士山麓、覚えていますか?パラゴンと闘ったあの場所です」

「...覚えている。おれはあのとき隊長の命令を無視して攻撃を続けたな。作戦方針をめぐってお前と口論もしたっけな」

「ははっ、そうでした。あのときの岸田さんは鬼気迫っていましたよ。でも今回は冷静にお願いします」

「ただ郷、どうやってコヴィッド星人を誘導するんだ」

「音波です。彼らは300000ヘルツ以上の周波数に引き付けられる性質があります。高音波発信器をつけて各国上空を飛行してください。そしてその後に富士山麓の地点へ向かってください。僕がそのあとを引き継ぎ、一瞬で地球を包む層に穴を開けます。そして太陽の光でコヴィッド星人とウイルスを消え去らせるのです」

「餌を撒いて引き付けて一気に片付けるという算段だな」

岸田はふつふつと血が騒ぐのを覚えた

そうだ。これが地球防衛庁だ。いやこれこそがまさにMATなのだ!
長く長官席に座っていて忘れ果ててしまっていたものが甦ってくる
そんな気がした

「郷、作戦はいつ決行するんだ」

「私の方はいつでも準備ができています」

岸田の目に力が帯びる

「よし、ならば早速明日に決行だ」

「岸田さん、やりましょう!地球防衛隊の飛行部隊に指令をお願いします」

岸田は目をむいた

「おい、何言ってるんだ郷、二人で出動するんだろ。俺が行くに決まってるじゃないか」

郷はいたずらっぽい笑みを浮かべながら

「ははっ、やはり岸田さんだ、ちょっとした冗談ですよ。やりましょう岸田さん!久々に二人でやってやりましょう!」

「おう!」

笑みを帯びた強い表情で二人の男は手を交わした

そこにいるのはもはや老紳士と老然たる地球防衛庁長官ではなかった

郷隊員と岸田隊員

MATの若き精鋭がそこによみがえっていた

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