あのときよ、再び ~帰ってきたウルトラマン~ 第2話

太陽が東の空に昇り始めた
岸田はそれを見つめつつ決意を新たにしていた

かつての戦友、郷秀樹との再会

昨晩の全く予期しないこの出来事の余韻を感じつつ
岸田は夜明けと共に地球防衛庁航空部隊基地へ向かった

基地内はまだ人もまばらであった

司令室に向かう道で岸田はある人物に呼び止められた

「長官じゃないですか」

岸田が振り向くとひとりの壮年がいた

「おお坂田か」

「どうも」

会釈をした人物は坂田次郎であった
かつて郷秀樹と深く関わった坂田兄妹の弟、坂田次郎である

彼は約50年前の郷との別れのあと、
郷と交わした約束通りMATに入隊していた

その後地球防衛庁航空部隊へ転じ、
第一線で活躍したあと現役を引退

現在は基地後方支援部門において
各種戦闘機と設備の管理を担っている

岸田に歩み寄りつつ坂田は笑顔で語りかけた

「長官おひさしぶりですね」

「おおそうだな」

「こんなに朝早くどうされたんですか」

少し間をおき

「坂田、」

岸田は真顔で答える

「どうされたのですか」

「信じられんかもしれないが...」

少しの沈黙の後

「...昨日、郷がな、郷秀樹が私のところに来た」

「え?...」

それは次郎にとっては全く予想外の答であった

「郷秀樹?...」

「ああ、」

「...あの郷さんですか?」

「......」

岸田は静かにうなずいた


次郎にとり余りに特別な人物
郷秀樹の名をいま聞くとは...

言葉が見つからぬまま立ちすくむ次郎
岸田は昨晩の顛末を話した


50年前の郷の殉職の真相のこと
彼が実はウルトラマンであったこと
現在のウイルスの真相とコヴィッド星人のこと
その撃退のため、今日郷と共に出撃すること...


話はどれも夢うつつのごとくであった
50年の歳月はあまりにも長く
ひとつひとつの話はにわかには信じがたかった

しかし長官が嘘をつくわけもない

次郎自身もう郷と会わなくなって半世紀も経つ
年齢ももはや60を越えていた

長い時を越えて唐突に訪れた驚きは
突如雷撃に打たれて長い眠りから目を覚ましたかのごとく
次郎の耳を、そして心を打った

「長官...」

「驚いただろう」

「はい...でも、郷さんが...」

「ああ、俺も驚いたんだ」

岸田は少し空を仰ぐ

「でもな、あいつの目は50年前と変わっていなかったよ。強い目だ」

「...」

次郎は思い返した

50年前の殉職の真実を次郎は知ってはいた

あのとき、ゼットンとの戦いの後
郷は次郎の目の前で自身の姿を明かした
そしてウルトラ五つの誓いを残しつつ
遠い遠い彼方の星へと去っていった...

あのときの別れの淋しさ
胸を締め付けるような思い

そして郷さんの意思を必ず継ぐんだという確たる思い...

彼の人生を決定付けたあらゆる思いが
当時の波打ち際の景色と共に
今少しずつ、しかしありありと
次郎の胸によみがえってきた...

しばらくの沈黙のあと岸田が再び言葉を切る

「で、坂田、君に折り入って頼みがあるんだ。今日はそれでここに来た」

「はい、」

「いま話した通り、俺は今日郷と出撃する。私は高周波数発信器を備えて戦闘機で世界上空を回る。いますぐ、俺にネオMATアローを手配してくれ」

「長官、本当に行くんですか?」

やや慌てた次郎に岸田は毅然と答える

「当たり前だ。いまは地球の危機だ。私もこの歳になったとはいえ、まだ世界を飛び回るくらいなら朝飯前だ」

「...長官、いや、僕がいきますよ、僕が郷さんと...」

「いや坂田、これは俺と郷との約束だ、君には済まないが、俺が行く」

「長官...」

「大丈夫だ、責任は俺が全てとる。航空部隊幕僚長にも後方支援本部長にもここに来る前に連絡文書は送っておいた。地球防衛庁長官の決裁事項として今回の件は扱う」

「...」

「各国の地球防衛庁支部長にも連絡文書は電送しておいた。上空飛行にも問題はない」

「長官...」

「後は戦闘機に乗るだけだ。坂田、頼んだぞ」

「...」

「俺も今回が地球への最後のご奉公だ」

そう言いながら
僅かに笑みを浮かべた岸田の表情
そこには本物の覚悟がにじんでいた
そんな岸田を見て次郎は思った

"本当に郷さんは来たんだな
地球を救うために再び郷さんは来てくれたんだ

そしていま岸田長官を支えることが
郷さんから与えられた僕の使命なんだ..."

次郎は決意した

「わかりました!長官。いますぐ手配します」

「頼むぞ」

「高周波数発信器を設置するまで少し時間をいただきますが」

「それはかまわん、けどできるだけ早めにな」

「はい!」

およそ一時間後、
航空基地滑走路からネオMATアローが離陸した
みるみるうちに西の空へと小さくなっていくその姿を
次郎は眺めていた

長官の無事を祈りつつ

そして
再び地球にやって来たまだ見ぬ郷秀樹の姿を思いつつ...

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