あのときよ、再び ~帰ってきたウルトラマン~ 最終話

岸田長官が基地を飛び立った翌日の未明
郷秀樹は富士山麓に一人佇んでいた

郷は緊密に岸田と通信連絡をとっていた

コヴィッド星人が活動を活発化する日没以降を中心に
長年のブランクを感じさせない手さばきで
ネオMATアローを操り岸田は世界各国の上空を飛行した

「雀百まで踊り忘れず、だな」

岸田は笑いながら言った

「さすがです、岸田さん」

「今度はお前が踊るんだぞ、郷」

「はい、任せてください!」

そして、高周波音波を搭載した岸田のネオMATアローは
コヴィッド星人とそのウイルスを招き寄せることに成功し
いままさに富士山麓に辿り着こうとしていた

郷が見上げた空には次第にこちらに近づく機体が
徐々にその姿を大きく見せていた

「郷、いま到着した。あとは頼んだ!」

「岸田さん、ありがとうございます!」

岸田の通信に答えつつ
郷は両手を天高く掲げた
強烈な光の渦が郷の身体を包み込む

そして

50年ぶりにウルトラマンが地球に帰ってきた


ウルトラマンはすぐさま身体を高速で回転させた
その身体を包み込むように、青いリングが幾層も現れ
ウルトラマンの回りを回転した

そのままウルトラマンは空へ飛び上がった

あたかもドリルが岩盤を掘り崩すように
地球の大気圏にある複数の層を破り
太陽の直接光でコヴィッド星人とそのウイルスを
焼き尽くすようにするためにである

自らの身体をいわば青いドリルにしつつ
ウルトラマンは我が身を犠牲にする覚悟で
その全ての力を振り絞り
大気圏外へと向けて飛び立ったのだ

この技はまさに諸刃の剣でもあった

ただでさえウルトラマンの身体は地球では3分しかもたない
その上その地球の大気圏の構造を部分的とはいえ変化させるのだ

これは多大なエネルギーを必要とし、
彼の生命を著しく危険に陥れるリスクがあったのだ

「これが地球への最後のご奉公だ」

岸田が昨日口にした言葉は、そのまま郷即ちウルトラマンの
思いでもあった...

コヴィッド星人が高周波数音波にひきつられているうちに
大気圏を突破しなければならない
時間は極めて限られている

だが、ウルトラマンが成層圏を突破するとき
コヴィッド星人はこの作戦を察知した
そしてウルトラマンに強力な闇の呪いの音波を送った

ただでさえ死力を尽くしているところに
この呪いの音波は致命的なダメージをウルトラマンに与えた

光の国のウルトラマンには
闇の力がもっとも大きなダメージを与える
M78星雲襲来時の敗北から
コヴィッド星人は雪辱のためこの事を学んでいたのだ

意識が次第に遠退いていくのを感じた
青い光の輪も弱く小さくなっていく
胸のカラータイマーの点滅も限界に近づいていた...

そのときであった

どこからともなく白い光がふたつ差し込み
ウルトラマンの身体を包んだ

それはとてもあたたかく
柔らかな懐かしさを与える光であった

そしてウルトラマンの耳に
どこからともなく声が聞こえてきた

「郷、頑張るんだ...郷聞こえるか、」

どこか聞き覚えのある男の声である

「郷、昔の俺との訓練を思い出せ。おまえはあのとき決してへこたれなかった。あのときのように、いまもう一度頑張るんだ...」

その後に若い女の声がした

「郷さん、聞こえる、私よ」

これも聞き覚えのある声だった

「頑張って...郷さん、また地球に来てくれてありがとう。どうか負けないで、頑張って」

ウルトラマン、いや郷ははっとした

その声はもしや坂田さん、
そしてアキちゃんではないか...


かつて郷を弟のように可愛がり、
流星号で日本一のレーサーになる夢をともに追った坂田
そしてひたむきな郷をこよなく愛し、
ひとときの安らぎを与えてくれたアキ...

50年前のあの懐かしい日々
本物の家族のように関わり、
郷を力強く支えてくれた二人の兄妹たち

そしてあの凶悪なナックル星人に兄妹は惨殺され、
突然その安らぎは奪われた
その時の喪失感...

それは思い出すたび
いまでも郷の胸を締め付けていた

その二人がいま
宇宙からのあたたかな白い光となって
ウルトラマンを、郷秀樹を
あのときのようにいま、
再び力強く支えてくれたのである

坂田さん、アキちゃん...
言葉にならぬ思いを郷は抱いた

そして白い光に包まれたウルトラマンは
再び無限の力を得た

青い光の輪は再び力の強さを取り戻し
ついにコヴィッド星人の呪いの音波を打ち破ったのである

勢いを得た青いドリルはその後大気圏を突破し
瞬時にして地球を包む全ての層を
部分的に消滅させた

そして太陽の強烈な光が
計算通りネオMATアローの誘導地点に差し込み始めた

岸田が誘導したコヴィッド星人とウイルスは
その光によって瞬く間にあっけなく全て消滅した

「郷、大成功だ!よくやってくれた!」


ネオMATアローからその様子を確認し
岸田は歓喜の声をあげた

その後、空色の光が差し込んできて
破られた地球の層は瞬く間に回復した

そして青と白の光はそのまま
遥か地球の彼方へと去っていった...

富士山麓の草原にネオMATアローは着地した
機体から降りた岸田は静かに空を高く見上げていた

微かな風が周りの草を揺らす音だけが聞こえていた

「長官!」

後ろから声がした
振り向くとマットビークルに乗った次郎が近づいてきた


「長官、お疲れ様でした」

「おお坂田、どうしてここに」

「すみません、実はどうしても気になって、あれからずっとネオMATアローの飛行をレーダーで追跡していたんです。それでおそらく富士山麓が着地地点だろうと思って来てしまいました」

「ははは、そうか」

「長官、郷さんは...」

「ああ、見事にやってくれたよ」


岸田は再び空を見上げた


「大した男だよ、郷ってやつは」


岸田の声を聞きながら次郎も空を見上げた


「郷さん...」

「あいつも最後のご奉公をしたんだ。この地球にな」

「...」

「あいつもこれでもう思い残すことないはずだ」

おもむろに岸田は次郎の方を振り向いた

「いや、でも坂田、実は俺はな郷からお前に手紙を預かっていたんだ。作戦が成功したら渡してくれって言われてたから昨日は渡さなかったんだがな、ほらこれだよ」

一枚の封筒を岸田は取りだし次郎に渡した

次郎は受け取った


「郷さんが...」

「ああ、郷もお前のことが気にかかっていた様子だったよ」

「...」

岸田は次郎の肩を叩いた


「また会えるときがくるさ」

再び微かな風が周りの草を鳴らした
太陽の光は富士山麓を静かに包んでいた...

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この日以降世界を震撼させたウイルス騒ぎは全く終息した

その後岸田は自ら地球防衛庁長官を辞任し、
若い世代に地球の命運を託することにした

次郎は航空部隊後方支援部門の責任者として活躍しつつ、
後進の育成にも力を入れた
その胸には郷からの手紙の言葉がしっかり刻み込まれていた

地球は平穏な日常を取り戻した

そして郷はあの日以来再び姿を見せることはなかった...



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