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『メキシコ旅行の途中で』[14] 眠りを脅かす人

お婆さんがヨーロッパに行った話を始め、「ドイツはツアーでなく、個人で行ったことがある。」と言い出した。
眠るつもりだったが、ドイツと日本に半分ずつ住みたいと思う私は、昨年行ったドイツを思い出しながら、お婆さんの話を聞いていた。
ふと横を見ると、山田さんも林さんも眠っていた。神経質な林さんは、アイマスクをつけている。
「このツアーはシーズンオフだから、良いと思ったけど、年配の人が多いんですね。あまり、お婆ちゃんと付き合いがないから、あのお婆ちゃんと同室になるらしくて、不安なんです。お婆ちゃんでも、もう少し気の若い人だったらいいけど、70過ぎてたら、世代も違うし、.....。」
「そうやなあ、あまりにもお婆さんお婆さんしてるし、80は絶対過ぎてるで。一人で大丈夫なんかいな。」お婆さんは「店をやっているから、良くわかる。」と自信ありげだ。
次に、あの気になる『オレンジハウス』の二人は、何者だろうと話題になった。
「男の人は、カメラマンのようだけど、住所が飲み屋のありそうな場所だし。女の人は若いみたいだけど、夫婦じゃないみたい。」と成田までの飛行機の中でのことを話すと、「あれは、どう見ても夜の商売や。スナックのマスターとホステスや。あの娘の顔の色、あれは陽に当たってない白さや。まともな人間の白さと違う。ああいうややこしい関係、私は嫌いや。カメラマンには見えへんで。」
自信たっぷりのお婆さんの言葉に、そんな風に見えると思っていただけに、同調した。
午前中にロサンゼルスに着くから、眠っておこうと、話をやめて眠ることにしたが、なかなか眠れない。やっと、うとうとしかけた頃、お爺さんに、ぐいぐい押されて起こされてしまった。足ぐらい、またいで通れるはずなのに、無言のまま、力まかせに突き進んでくる。お婆さんは、座席の上に座り込んで眠っている。
『通して下さい。』くらい言えないのだろうか。年寄りは、これだから嫌だ。
立って通路に出て、お爺さんを通すしかない。トイレならすぐ帰ってくるだろうと思ったが、20分も眠らずに待たされた。
入院してた時、老人が夜中に何度もトイレへ行くのを見た。
利尿剤らしき薬を飲んでいた。嫌な予感がする。
当たらないでほしい予感だったが、お爺さんは二時間おきにトイレへ行く。その度に起こされ、20分待たされる。それも、うとうとしかけた時を狙ったように、トイレへ行く。
病気だから仕方ないと思ったが、席を決める時、ちゃんとチェックしないのだろうか。薬を飲む水だけは、時間通り運んでくるスチュワーデスと、何処かに座ってるコンダクターに矛盾を感じた。
隣の林さんも眠れないようだ。眠れない同志、旅の話をする。お婆さんだけが、ちゃんと眠っていた。
いつも、眠りかけると起こす迷惑なお爺さんに腹が立っていたが、何回も見ているうちに、お爺さんの足が不自由で、擦って歩くことしか出来ないことがわかってきた。そうなると、怒ることも出来ない。 

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