研究書評「日本の情報公開制度」

2023/6/1 岡本慎一(2012)「公文書管理法の制定の意義と施行後の課題について」アーカイブズ47号, pp.

 公文書管理法、延いては公文書管理法は、①「行政が適正かつ効率的に運営されるようにすること」 及び②「国及び独立行政法人等の有するその諸活動を現在及び将来の国民に説明する責務が全うされるようにすること」を目的とされている。この上で、行政の効率化はさておき、説明責任を全うすることによる有用性を調査する。

【概要】
 行政透明化への対応として、 1994年 4 月に行政運営における行政の行為一般に適用される統一的な手続き法規である「行政手続法」が施行され、2001年 4 月には「情報公開法」 が施行された。情報公開法には、文書開示の拠り所となる行政文書ファイルに関する規定が公文書管理の関係では1条置かれただけであった。公文書管理は事実上各府省に委ねられ、情報公開請求が行われても、文書不存在とされるものも少なからず存在することが問題とされていた。
 こうした中で、2007年に、自衛隊における航泊日誌の誤破棄事案、厚生労働省におけるC 型肝炎関連資料の放置事案など文書管理規則が遵守されていない公文書管理の不適切事案が相次いで発生し、国民の年金記録の管理にミスや不備が多く存在する問題と共に同年秋の臨時国会で政治問題化した。
 他方で、歴史的に重要な文書については、各府省と内閣府が合意をしない限り、ファイルが国立公文書館へ移管されない仕組みであった為、各担当府省の判断が優先され、内閣府及び国立公文書館の専門的な意見が尊重されなかったことから、 国立公文書館への移管が進まなかった。また、国立公文書館の施設も狭隘で老朽化・陳腐化が進み、その体制や利用状況も十分ではなかった。この為、国立公文書館の充実・強化が課題とされていた。
 また、従来、公文書管理に関する事務は、行政文書ファイルに関して情報公開法を所管する総務省が担い、保存期間満了後に歴史的に重要な文書を受け入れる国立公文書館を内閣府が所管する二元的な所管体制で行われていた。この為、各府省の現用段階の文書管理に関して、内閣府及び国立公文書館は所管外であることから、やるとしたとしても問題点の指摘や協力要請に止まり、権限に基づいて物申す事が出来なかった。これらの問題を解決するための我が国の公文書管理の改革の柱となる「公文書管理法」が、2009 年 7 月に制定され、準備期間を経て、2011年4月1日施行された。 公文書管理法では、内閣府の長である内閣総理大臣が、文書管理のライフサイクル全ての段階において、共通ルールとコンプライアンスの仕組を法令で定めて、その中で、各府省に文書作成義務等を課すことによって、公文書管理体制とアーカイブズ制度が充実・強化され、国の公文書管理を抜本的に改善することを目的とする取組みが本格化し、情報公開法と相まって、行政の透明化も進むことが期待された。 

 以上より、公文書管理法により行政の透明化を図ることで権力の一極集中を伏せぐことができるといった意味で、説明責任を全うすることに意義があると考えられる。


2023/6/15 Record Management “文書管理人材の育成に貢献するJARMA”

 日本では正式に登用されてはいないものの、記録情報管理士1級が諸外国のレコードマネージャーに準ずるものであると確認できたので、以下記録情報管理士の成立、JARMAが推進している人材育成事業について調査する。


【概要】
JARMAの設立
 わが国では2008年、公文書管理の在り方等に関する有識者会議が開催された。
 この公文書管理の在り方等に関する有識者会議は、国の機関における文書の作成から国立公文書館への移管、廃棄までを視野に入れた文書管理の今後の在り方及び国立公文書館制度の拡充等について必要な検討を行うため、公文書管理担当大臣の下に、開催された。
その最終報告「『時を貫く記録としての公文書管理の在り方』~今、国家事業として取り組む~」の「制度設計にあたっての基本的な考え方 」で「適切な研修、人材育成等により、文書の作成・管理のレベルアップがなされる仕組みを作る。」と報告された。
 このような文書管理に関する人材育成が必要とされる時代背景のもと、「文書管理に関する人材育成を行い、関連諸団体との緊密な連携のもとに、わが国の文書管理の振興に寄与すること」を目的とし、2008年7月にレコードマネジメント協会が設立された。
 その後、2010年4月の一般社団法人化に伴い、日本記録情報管理振興協会(Japan Records Management Association, JARMA)と名称変更を行い、現在に至る。


JARMAの主な事業
 JARMAの主な事業には、記録情報管理士資格認定試験の実施大学への講師派遣の2つがある。知識・スキルを評価する資格認定試験と、それらに合格できる人材を育成するための講座への講師派遣という2つのアプローチで、協会の目的を達成することを目指している。

1. 記録情報管理士資格認定試験の実施
 記録情報管理士資格認定試験は、文書管理専門職の能力を認定する検定制度で2009年のITセクレタリー検定3級からスタートし、2010年から2018年までは、記録情報管理者検定の名称で、2019年からは記録情報管理士検定の名称で実施している。
 現在の検定試験は、1級から3級でレベルが分かれている。
 3級では、文書と情報の基礎的な知識や文書管理の基本的知識、文書管理実務で知っておくべき知識、文書管理の目的や歴史についてなど、初歩的な文書管理について知っておくべき知識を問う内容で、記録情報管理士検定標準テキストの上巻より出題される。
 2級では、上記3級の出題範囲に加えて電子文書、アーカイブズ、機密情報の管理、情報検索、文書管理に影響を与える法的要素や標準類についてなど、文書管理業務に関する基礎知識や実践に役立てるためのスキルを問う内容で、記録情報管理士検定標準テキストの上下巻より出題される。
 1級では、文書管理業務を理解しているだけでなく、自ら記録管理プロジェクトの中心となり推進実行できる程度の関連分野の知識スキルを問う内容で、記録情報管理士検定標準テキスト上下巻の他に、関連事項の知識や自身の意見、 主張とその理由を論理的に述べる能力が求められる。

2. 大学への講師派遣
 大学への講師派遣は、関連諸団体と連携を取り派遣を行ってる。派遣先に、日本女子大学、駿河台大学、別府大学がある。

日本女子大学
 日本女子大学は、女子教育のパイオニアであり、2007年に大学初のリカレント教育として、社会人女性の「新たな学び」と「再就職支援」の2つを軸としたプログラム「リカレント教育課程」を開設した。
 日本女子大学リカレント教育課程は、2015年に文部科学省の職業実践力育成プログラム(BP)に認定された。このBPは、「プログラムの受講を通じて社会人の職業に必要な能力の向上を図る機会を拡大」することを目的としており、英語スキル(リーディング、会話、ビジネス対応)、ITスキル、社会保険法・労働法知識、会計・簿記スキル、内部監査知識、記録情報管理士知識、消費生活アドバイザー知識等の知識、技術、技能を習得できる。
 このリカレント教育課程のカリキュラムに、「記録管理概論(記録情報管理士準備講座3級対策)」、及び「電子記録管理論(記録情報管理士準備講座2級対策)」の科目があり、担当講師の派遣を行っている

駿河台大学
 駿河大学では2009年にメディア情報学部が誕生し、さまざまなメディアを対象とした情報の創造、デザインと管理を総合的に学べる学部となっている。このメディア情報学部のカリキュラムに、「公文書管理論」、「記録管理論」、「電子文書と記録管理」、「記録情報演習」、「記録情報実習」の科目があり、担当講師の派遣を行っている。

別府大学
 別府大学の文学部史学・文化財学科は、西日本では、数少ない歴史学系の文学部史学科として1963年に創設された。さらに、21世紀の複雑な社会ニーズに応じて、歴史・考古・民俗・環境・保存科学など幅広く学べるよう、 2009年に史学・文化財学科として再出発した。この学科にて、文書館専門職(アーキビスト)養成課程を2004年に設置。この課程のカリキュラムに「レコードマネジメント論Ⅰ」、及び「レコードマネジメント論Ⅱ」があり、担当講師の派遣を行っている。


【まとめ】
 日本におけるレコードマネージメントは2008年の公文書管理の在り方等に関する有識者会議に始まり、7月のレコードマネジメント協会設立に伴い、大学への講師の派遣による専門職の育成が進められている。
 大学教育によるレコードマネージャーの育成が始まり15年が経過した現在でも、教育課程を設置している大学は数少ない。が、政府でのレコードマネージャーが運用・社会へ浸透した場合、レコードマネージャーの教育課程を設置する大学の増加も見込まれるのではないかと考えられる。


2023/6/29 一般社団法人 日本記録情報管理振興協会 ”協会のご案内”

JARMAについて
 一般社団法人 日本記録情報管理振興協会は、文書管理(レコードマネジメント)に関する人材育成を行い、関連諸団体との緊密な連携のもとに、わが国の文書管理の振興に寄与することを目的とし、2008年7月にレコードマネジメント協会として設立されました。2010年4月、一般社団法人化に伴い、日本記録情報管理振興協会と名称変更しました。日本の文書管理レベルを欧米先進国並みとするには、まず専門職としての人材を育成することが不可欠です。
 一般社団法人 日本記録情報管理振興協会では、文書管理専門職の能力を認定する検定制度、記録情報管理士検定(旧 ITセクレタリー検定)(3級)を2009年度からスタートさせました。それに伴い、能力認定制度の基礎となる国際標準に準拠した文書管理(レコードマネジメント)の教育コース開設を全面的に支援しております。

JARMAご入会案内
 一般社団法人 日本記録情報管理振興協会の会員には正会員及び協力会員があります。正会員になることにより、「記録情報管理士コース」授業の実施が可能になります。その他、様々な特典をご利用ください。

正会員資格:協会が認定する文書管理(レコードマネジメント)専門職育成のための授業を採り入れる専門学校、大学等の教育機関および人材育成事業者
協力会員資格:協会の趣旨に賛同する教育機関及び公的機関

記録情報管理士とは
 記録情報管理士は、組織各部門の文書管理を効果的、効率的に実現するために、自らが中心となって文書管理に関する業務を推進・実行する専門職です。つまり部門内の人々をその知識・専門能力で支援する「文書・記録情報管理のコシェルジュ」の役割を果たします。文書管理システム及びその運用、情報倫理、情報セキュリティに明るく、優れたコミュニケーションスキルとITスキルを活かし、部門スタッフ/プロジェクト秘書として部門業務の問題解決を支援します。また記録情報管理士は、一般的な事務部門で必要な情報管理の基本を身につけていますので、どのような業種・業務でも優れた事務系スタッフとしてその能力を発揮することができます。
 この記録情報管理士の上級レベルの専門職がレコードマネージャーです。レコードマネージャーは全社・全庁的なレコードマネジメントのプログラムを立案し、効果的な実施・推進をコーディネートする高度な専門職(ナレッジプロフェッショナル)です。記録情報管理士の次のステップとして、さらに高度なレコードマネージャーへの道を目指すことができます。

記録情報管理士コース
 文書管理専門人材に対するニーズの高まりにもかかわらず、これまで国内ではその育成体制は整っていませんでした。「記録情報管理士コース」は、国内初の、国際標準に準拠した文書管理(レコードマネジメント)のスペシャリストをめざす教育プログラムです。
 「記録情報管理士コース」は、体系的な教育の実施により、文書管理の初級・中級レベルの人材を育成し、民間企業、官公庁、あらゆる組織に対応できる基本的な文書管理スキルの取得をめざします。同時にその能力を一般社団法人 日本記録情報管理振興協会が主催する「記録情報管理士検定」により認定する制度です。「記録情報管理士コース」は一般社団法人 日本記録情報管理振興協会が発行する記録情報管理者標準テキストを使用して授業を行ないますが、「記録情報管理士コース」の中で、既存の情報関連科目との組み合わせによるフレキシブルなコース設定が可能です。コース開設、授業実施については一般社団法人 日本記録情報管理振興協会が全面的に支援します。

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